K-Angle/iStock/Getty Images Plus
K-Angle/iStock/Getty Images Plus

XXしない女たち #15

「男らしさ」がいらない女たち 負の連鎖は断ち切れるか

私たちはさまざまな「HAVE TO:やらなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないこと? 働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研プラスによる連載「XXしない女たち」。今回は「男らしさ」がいらない女たち。パートナーや子どもへ、性別による“らしさ”を求めない女性たちに話を聞きました。
性の話に臆さない女たち 「パートナーを選ぶ基準のひとつ」 姓にこだわらない女たち 名字の選択はジャンケンで

プロポーズではフラットになれない?

Eさんは、通信会社に勤める25歳の女性。大学1年生から付き合っていた彼と、今年5月に結婚した。

これまで「男らしさ」というものを意識したことはなく、パートナーとの関係も彼女いわく“スーパーフラット”。一般的に「男らしさの尺度」とみなされがちな支払いも、きっちり割り勘、家事はできるほうがやる、という決まりで結婚生活をスタートした。最近は彼女のほうが仕事が忙しく、9割がた彼が家事を手掛けている。

Eさんは、性別に関わらず、フラットではないことが嫌い。彼が同い歳であることが少しは関係しているかもしれないというが、パートナーとはお互いに均衡でいることを意識しているのだという。よくSNSで金払いのいい男性こそ「男らしい」とする女性たちの意見を目にするが、Eさんはそうした“男らしさ”については、共感できないし、「奢られて当たり前」の感覚が分からない。例えば、外食をした際の支払いなど、同じ時間を過ごしたなら、それぞれが対価を払うのは当たり前と考えている。

miya227/iStock/Getty Images Plus
miya227/iStock/Getty Images Plus

だけど、“フラット”な関係性は、どこでも通用するわけではない。高級な飲食店になればなるほど、会計の伝票は男性に渡される。そんな時Eさんは、「とりあえずポーズだけしておこう」と思って店側の“ルール”に合わせて、その場では夫に払ってもらう。結局割り勘にするために、月ごとの清算は自然とEさんが多く支払うことが多い。「世の中では、女の人が払ってることって、なんとなくよく思われないことが多いけど、それはそれで仕方がないのかなって思う。私は自分が払いたいって思い続けていればいいわけだし」ーー。

“スーパーフラット”な彼女でも、最近感じたモヤモヤがある。それは、「女性からのプロポーズの仕方が確立されていない」ということ。ずーっと彼との関係をフラットに築いてきたEさんにとって、プロポーズははじめての不均衡だった。彼に典型的な「婚約指輪の箱をパカっと」してもらい、実は素直に嬉しかった自分に驚くと同時に、「私からプロポーズしてもよかったんだよなあ……」と思った。知り合いの男性との会話でも、相手の女性側からプロポーズされ「○×をしてもらった」「嬉しかった」みたいな会話は聞いたことがなく、「何をしたか」「喜んでもらえたか」と“する側”の話が多い。

自分の覚悟は、彼に何をあげたら伝わるんだろうーー。
「時計って壊れるし、ずっとつけていられるものでもないーー。男性はダイヤの指輪はつけないだろうし……」。Eさんは結局、「使い続けられるものを」ということで彼にオーダーメイドスーツをプレゼントすることになった。女性側が仕掛けるプロポーズのサービスや商品の選択肢が無く、これまでフラットな関係性を追求してきたEさんにとっては、考えさせられる出来事だった。

Rawpixel/iStock/Getty Images Plus
Rawpixel/iStock/Getty Images Plus

「らしさ」の強要に振り回され

次に話を聞いたのは、インターネット広告企業に勤務する女性Mさん(26歳)。今年2月に結婚した相手には、できるだけ「男らしさ」を求めないように意識している。

Mさんが性別の「らしさ」を意識するようになったのは、小学校6年生から高校3年生までのアメリカでの暮らしの影響が大きかった。幼い頃のMさんは、気が強くて言葉遣いも悪く、男の子と毎日喧嘩しているような女の子だったが、中学生の頃、「お前そんなんだったら結婚できないぞ」と日本人学校で嫌っていた男の子に言われた。「あんな奴に言われるなんて許せない」――。彼の言葉が気になって仕方なくなり、それから高校3年生までの間は、必死で「女らしく」矯正することで “お嬢”を完成させた。ただ、元々仲が良かった友だちには気味悪がられ、昔からの友だちをたくさん失ってしまった。

帰国すると、また「女らしさ」に苦しめられた。自己主張するのは女性らしくない。女性は物を食べながら歩くような下品なことはしてはいけない。――あ、これも、あれもダメなんだ、と思った。男性の発言で「女らしく」なってみたり、友だちのために「女らしさ」を排除してみたり、周囲から「女らしくありなさい」と言われたり。振り回されて、もはや自分の元々の人格がどうだったかすら分からなくなった。

K-Angle/iStock/Getty Images Plus
K-Angle/iStock/Getty Images Plus

就活のタイミングで、自分がどんな生き方をしたいかを考え抜いた結果、「自分が生きたいように生きる人」と一緒にいたいと思うようになった。いまのパートナーはまさに、自分の信じることを貫くタイプ。多くの男性たちは「男らしい」価値観にハマらないことは恥ずかしいと思って話したがらないかもしれない。でも彼は、一般的には「一家の大黒柱である男らしさ」や家父長制の象徴とされる名字も、結婚してMさんの名字に改姓した。そして、そのことを、気にせず自身の男友だちにも話す。一般的な価値観や「らしさ」にとらわれないのだ。Mさんは彼といる時は、いろんな「らしさ」や、「自分がどう見られているか」、その場にあわせた役割などを考えなくてよいので、自分らしくいられる。性別の役割もできるだけ排除したいと思っている。

「Mさんの生き方って大変そうだね」――。「女らしく」していたほうが楽な時はそうふるまうなど、場所によって「女らしさ」を使い分けるMさんに、彼は言ったことがある。「男らしさ」という役割を、考えて生きていない彼には、一般的な「男らしい」価値観を押し付けたくない。彼が「俺は男だからこういうことしなきゃ」なんて思わなくて済むように、まだまだ「男らしさ」の象徴となっているような店選びや道案内を率先して彼女が引き受けたり、会計も割り勘にしたりなどと、ほぼ“自己満”かもしれないけど、性別の「らしさ」に基づいた行動を無くす努力を徹底している。

彼はMさんのそうした「らしさ」の強要を嫌うことを理解してくれているが、職場の男性や男性の友人らとのコミュニケーションではしばしば困ることがある。「男らしさ」を守りたい男性も一定数いて、「『男らしさ』を押し付けたくない」けれど、その男性が、男性自身のプライドや自尊心のために、奢ったり、車道側を歩いたり、お店を決めたり、地図を見て道案内をリードしたいのだとしたら……。 自分の考えが押し付けになっていないかが心配になる。

itakayuki/iStock/Getty Images Plus
itakayuki/iStock/Getty Images Plus

「ピンクはきもい」にどう返すべきか……

最後に話を聞いたのは、4歳と6歳の息子がいるZさん(広告会社勤務、36歳)。子どもに「男らしさ」を求めたことは、一度もない。

上の子の保育園の年長クラスの目標は、「嫌なことは嫌といいましょう」――。Zさんが子どもの頃は「輪を大事にしましょう」と育てられたので、その進化は心から喜ばしいことだと思った。だから、性別の「らしさ」を決めつけるなんてもってのほか。保育園のお友だちにはスカートやピンク色など「女の子らしい」ものが好きな男の子もいるが、子どもも、先生も親も、特に言及するでもなく、事実をそのまま受け入れている。

そんな時、上の子が突然「ピンクはきもい」と言い出した。「きもい」なんて言葉を使ったこともなかったので、その言葉遣いにも驚いたが、おそらくお兄ちゃんがいる友だちの口癖を真似たのだろう。誰かの「好き」を、周りの人が否定する必要はないことをちゃんと伝えたくて、「お母さんは好きだよ、そういうこと言われたらどう思うかな?」と言ったものの、あまり本人には響いていないようだった。

「なんでママにはヒゲが生えていないの?」
子どもの純真な質問に、夫は素直に「男の人は生えるけど、女の人は生えないんだよ」と答えたが、Zさんは慌てて「女の人も生える場合もあるよ」と付け加えた。「男の子だから」「お兄ちゃんだから」……子どもの不意打ちの質問に対して、“決めつけ”た回答をしてしまっていないか、日々気にしている。

miya227/iStock/Getty Images Plus
miya227/iStock/Getty Images Plus

夫が持っていた「大黒柱」像

Zさんから夫に「男らしさ」をどれくらい意識しているか聞いたところ、どこかで「大黒柱になるのは男の自分だから、しっかりしなきゃ、頑張らなきゃ」という意識があったとのこと。勉強して、よい大学に入って、よい企業に就職して、自分は家計を支えなければ……。良いか悪いかはさて置き、それがモチベーションになっているところはあるようだ。ただ、二人の関係はあくまでフラットを意識している。

Zさんの母は専業主婦で、仕事上、夫に紐づく「奥さん」同士のコミュニティがあり、夫の地位によって「奥さん」の地位が決まるという状況を目の当たりにしてきた。Zさんも子どもなりに「モヤっ」とした感情が忘れられず、夫の仕事や地位に影響されるのではなく、自分は結婚後も仕事を持ちたいと思うようになった。結果、社内結婚の夫とはできるだけ、家事育児の量もフラット、仕事もどちらもフラットに捉えたいと考えている。夫は、両親がその時代にしては柔軟で男女や年齢をフラットに考えているタイプでもあり、Zさんの夫と全てフラットにしたいという考え方には賛同しているし、息子たちの兄弟差も無いように育てたいという意識はすり合わせができている。

悪気はなくても、再生産されるーー。あるドラマで出てきた話だが、母親が「男の子なんだから女の子には優しくして、守ってあげなきゃ」と男児を育て、それが結果として「そのためにも男性は強くあらねばならない」という刷り込みを与えることにつながり、彼は結婚後大黒柱として仕事に邁進するあまり、家事・育児を妻に任せっきりにしてしまう。そして、家事・育児を任せっきりにされたその妻は、息子に想いを託し、またもや「女の子には優しくして守ってあげないとね」と言って聞かせるシーンが映し出されるのだ。

負のループを生み出さないために、日々子どもが見聞きする親の会話や行動がとても大事だなあとZさんはしみじみ思う。夫に対して、ご飯を作ってあげたら「ありがとう」と言葉にして“当たり前ではない”ことを示すように伝えたり、夫も“当たり前に”家事をする姿を子どもに見せたりするなどを意識して行っている。

子どもには「らしさ」を押しつけたくない

博報堂キャリジョ研プラスは今年9月、「ジェンダーバイアスに関する生活者意識調査」※を実施した。「男性は男らしくあるべき」と回答したのは女性全体で43.7%だった。世代別に比較すると、10代、20代女性は40%を切るが、30代女性は45.1%で、50代、60代と概ね年齢が高くなるほど、「あるべき」と考える割合は高くなっている。

【グラフ1】

博報堂キャリジョ研プラス「ジェンダーバイアスに関する生活者意識調査」グラフ1
博報堂キャリジョ研プラス「ジェンダーバイアスに関する生活者意識調査」グラフ1

一方で、子どもを持つ人は67.4%が「なるべく『男だから』『女だから』などと言わないようにしている」と回答した。自分たちはややもすると性別に基づく固定観念にとらわれがちだが、その子どもたちの世代には「男らしさ」「女らしさ」といった性別役割は気にしないでほしいと願う気持ちも明らかとなった。

【グラフ2】

博報堂キャリジョ研プラス「ジェンダーバイアスに関する生活者意識調査」グラフ2
博報堂キャリジョ研プラス「ジェンダーバイアスに関する生活者意識調査」グラフ2

11月19日は「国際男性デー」だった。「男らしさ」、そして「女らしさ」に関する呪縛は、育った環境などによりまだ根強いが、上記の子ども世代に対しての親の思いからも分かるように、今この瞬間の一人ひとりの意識改革によって、未来は変えられるのかもしれない。この記事が、日々の何気ない発言や行動を少しでも振り返るきっかけになることを願う。

※博報堂キャリジョ研プラス「ジェンダーバイアスに関する生活者意識調査」
○実施期間:2023年9月11日(月)~9月12日(火)
〇調査手法:インターネットリサーチ
〇調査地域 :全国
○調査対象:スクリーニング調査・本調査ともに15歳~69歳男女
○回答数:スクリーニング調査:10,000名 本調査:1200名(男女5歳刻みでそれぞれ50サンプル、10代は男女とも100サンプル)
※分析の際、性年代5歳刻みの人口構成に合わせてウェイトバック集計を実施。(グラフ中のサンプル数はWB前の数値)
○調査主体:博報堂キャリジョ研プラス
〇調査実施機関:株式会社ディーアンドエム

性の話に臆さない女たち 「パートナーを選ぶ基準のひとつ」 姓にこだわらない女たち 名字の選択はジャンケンで
「博報堂キャリジョ研プラス」所属。1995年生まれ。雑誌・新聞の広告メディア領域を経験したのち、PRプラナーとしてクライアントの情報戦略、企画に携わる。だれもがハッピーに生きる社会を目指して、キャリジョ研での活動や日々のプランニングに邁進。大好きなのは高知県、もんじゃ、夏。