上野樹里さんと林遣都さんが語る、情報社会で「自分で見て、感じること」の大切さ 映画『隣人X -疑惑の彼女-』で共演
ありのままの自分を愛せない気がして
――映画では、人間たちに紛れ込んだXの存在に、不安や恐怖を抱き、何とか見つけ出そうと躍起になる人々の姿が描かれます。よくわからないものを怖がり、遠ざけようとする姿は、Xに限らず現代社会を象徴しているようにも見えました。お二人は脚本を読んだときに、どのような感想を抱きましたか?
上野樹里さん(以下、上野): 近年、不安を煽られるようなネガティブなニュースに触れる機会が増えているし、コロナ禍では、マスクで人の素顔が見えない時間が長かった。便利な情報はどんどん手に入りやすくなっているけど、情報ばかり追いかけていても、自分自身をおざなりにしてしまう。「足りない」実感ばかりが募り、どんどん自信がなくなって、ありのままの自分を愛せなくなっていくような気がしていました。
だからこそ、この映画は自分らしく生きることの大切さを伝えられる作品になると感じました。観た方が、誰もが抱えがちな不安や、知らず知らずのうちに被害者にも加害者にもなってしまう社会に、思いを寄せてもらえる作品になるんじゃないかなと。
最初は、熊澤尚人監督がどうして私に「良子を」と思ってくださったんだろうと、ちょっと不思議だったんです。こんなにミステリアスな女性のイメージが私にあるのかな、って。でも、良子には脚本に描かれている以上に不器用なところがあるのかなと、深みのあるキャラクターへとつくり上げていけるような余白を感じて、ぜひ演じたいと思いました。
林遣都さん(以下、林): SNSなど、画面を通じてコミュニケーションをとることが増えている時代。簡単に人を傷つける、人に傷つけられることが増えているような気がします。僕自身もそうなのですが、情報に振り回されて疲れやすくなっていたり、つい人と比べてネガティブな気持ちを抱いたりしている人も多いと思います。
そんな中で、自分はどういう生き方をすればいいんだろう。一人ひとりの心がけ次第で何か変わるのか……。そういう深いテーマが脚本に描かれていたのが、魅力的でした。熊澤監督の描きたいものが、多くの人に伝わってほしいと思いました。
――熊澤監督とは、お二人とも久しぶりにタッグを組むことになったのですよね(上野樹里さんは『虹の女神 Rainbow Song』以来17年ぶり、林遣都さんは『ダイブ!!』以来15年ぶりに、熊澤監督作品に出演)。事前に、作品について長時間のディスカッションをしたと伺いましたが……。
上野: 脚本を読みながら「この描写は、実際にはどんなシーンになるんでしょうね」などと話して。事前に、俯瞰(ふかん)で作品を見ながら核となる部分を話し合ったことで、みんなで呼吸を合わせられたような気がします」
林: 僕は、最初の本読みが忘れられないです。当初の予定時間を越えて、ずっと作品の話をしました。終わった後に、監督と樹里さんとお食事に行く予定だったんですけど、全然終わらないから中止になったくらい(笑)。でも、そうやって時間を忘れるくらい映画の話をして、この映画で大切なことをみんなで共有できた。すごくいい時間でした。
「自分」はおのずと出てしまう
――本作の撮影を通じて、ご自身が新たに考えたり、発見したりしたことはありますか。
林: 『ダイブ!!』の撮影時、僕は10代だったので、そのとき熊澤監督にいただいた言葉は今でもよく覚えているんです。特に記憶に残っているのが「役になろうとするんじゃなくて、役を自分に近づけるんだよ」という言葉でした。それがどういうことなのか、その後ずっと模索しながらお芝居をしてきたんですけど、30代になってから「誰かを演じようとしても、自分がどういう人間なのかはおのずと出てしまうものなんだな」と思い始めて。
日常で何を感じて、どう生きていくのかが、俳優としては非常に大事なんじゃないかと。樹里さんとご一緒していても、そのことは強く感じましたし、久しぶりに熊澤監督にお芝居を見ていただいて、あのときの言葉の意味をあらためて考えることができました。
上野: そういえば、撮影の合間、大津のホテルでお茶をしたことがあったじゃない? あのときにいろんなお話を聞いて、遣都くんって自分自身と厳しく向き合ってきた人なんだな、と思ったんです。慌ただしい日々を過ごしているんだろうけど、そのスピードに飲まれず、自分がここに立っている実感を大事に、自分の魂を売らずに生きている。そういう部分があるかどうかが、役を与えられたときに見えるのだと思う。
私も、この作品を通じて「自分がどう見て、どう感じるかがすべてだ」ということをあらためて考えました。熊澤監督が以前、私のラジオ番組に出演してくださったんですけど、そのとき私のことを「誰かがこうしているから」「世の中がこうだから」というのではなくて、自分の基準を持って動いている人のように見えると言ってくださったんです。
他の人からは「浮世離れしてる」と言われることもあるんだけど。でも、考えてみたら「浮世離れ」という言葉も、何だかヘンですよね。世の中の動きに合っていることが、いいことなのかな。自分で見てもいないのに知った気になっているとしたら、それでいいのかなとも思う。
世間がどう思うかではなくて、自分がどう見て、どう感じるかがすべて。この作品でも、良子の目から見た物語と、笹の目から見た物語は全然違うはず。みなさん、それぞれの視点で、楽しんでいただけたら嬉しいです。
【上野樹里さん】
ヘア:KENICHI(SENSE OF HUMOUR)
メイク:SADA ITO for NARS Cosmetics (SENSE OF HUMOUR)
スタイリスト:古田千晶
トップス/エズミ(リ デザイン TEL:03-6447-1264) 、パンツ/トゥモローランド ビー(トゥモローランド 渋谷本店 TEL:03-5774-1711)、右手リング・シューズ/スタイリスト私物、左手リング/本人私物
【林遣都さん】
ヘアメイク:竹井温 (&'s management )
スタイリスト 菊池陽之介
ジャケット/カズキ ナガヤマ(スタジオ ファブワーク TEL:03-6438-9575)、 シャツ/古着(古着屋JAM 原宿店 TEL:03-6427-3961)、パンツ/クアー(ムシンサ グローバル ストア)、シューズ/スタイリスト私物
●上野樹里(うえの・じゅり)さんのプロフィール
1986年、兵庫県生まれ。A型。2001年『クレアラシル』の3代目イメージガールに選ばれデビュー。映画『スウィングガールズ』で第28回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。10月には、ミュージカル『のだめカンタービレ』で初舞台に挑戦。テレビドラマと劇場版でも演じた“のだめ”こと野田恵役を務めた。
●林遣都(はやし・けんと)さんのプロフィール
1990年、滋賀県生まれ。2007年 『バッテリー』で映画初主演し、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。近年の主な出演作に、ドラマ『初恋の悪魔』日曜劇場『VIVANT』、映画『恋する寄生虫』など。2024年1月スタートのドラマ『おっさんずラブ‐リターンズ‐』放送、2月9日に映画『身代わり忠臣蔵』公開を控える。
出演:上野樹里 林 遣都
黃姵嘉 野村周平 川瀬陽太/嶋田久作/原日出子 バカリズム 酒向 芳
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫) 音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON / RECA Records)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:AMGエンタテインメント
制作協力:アミューズメントメディア総合学院
©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社