CLASSY.編集室長の水澤薫さん

「モテ」から「自分が自信を持てる」服へ 着回しDiaryが話題『CLASSY.』編集室長が見る女性観の変化

アラサーの働く女性が中心読者のファッション誌『CLASSY.』(光文社)。人気の特集「着回しDiary」は、服の日替わりコーディネートだけでなく、主人公の女性モデルが毎回異なるテーマのもとで繰り広げるストーリーも見逃せません。「恋活」から「投資女子」、はては「日本沈没まであと1カ月」の着回しまで……。その舞台裏にある女性を取り巻く時代の変化や、ファッションの視点から見た女性観について、CLASSY.編集室長の水澤薫さんにtelling,の柏木友紀編集長が聞きました。

アラサー女性のリアルに迫る

柏木友紀(以下、柏木): 『CLASSY.』の人気連載「着回しDiary」はいつごろから掲載しているのですか?

水澤薫さん(以下、水澤): 着回しのコーナーは、以前から様々な女性ファッション誌で展開しており、毎月ではなくとも10年以上前から続いています。当初は、女性モデルのほか、男性モデルが必ず登場していました。月の初めに2人が出会い、月末に結ばれるというパターンです。でも4、5年前から編集部内で「そういう展開はもう古いよね」という声があがり、担当の部員によって毎回異なるストーリーに変えられていきました。奇抜な設定の回もあり、SNSで広まり、話題にしてくださることも増えました。

CLASSY.編集室長の水澤薫さん
CLASSY.編集室長の水澤薫さん

柏木: 最近の着回しには、婚活、地方Uターン、転職など、女性のリアルな日常を描くテーマが多く見られます。

水澤: 企画は、編集者やライターのアイデアによるもので、かなり実話に沿った内容が多いんです。今年の例で言えば、「投資女子」(2023年6月号)では、ライターが耳にした実際の失敗談を色々と盛り込んでいます。「霞が関界隈で働くバリキャリ女子」(2023年9月号)も、編集者が知人から聞いた話がきっかけでした。

柏木: 「名品ベーシックで恋活着回し」(2023年12月号)の主人公は、4年恋人がいない34歳女性という、かなり具体的な設定ですよね。

水澤: この回も、読者のリアルな体験から生まれました。「コロナ禍で自宅にいたので、恋のきっかけをなくしてしまった。でも、ふと気付くと周りは意外に恋愛をしていたのでショックだった」そうです。そこで再び恋活を始める女性という設定にしました。こうした、複数の人の実際の経験談が企画に生かされています。

『CLASSY.』2023年12月号
『CLASSY.』2023年12月号©光文社

「日本沈没」コーデの理由

柏木: 対照的に、現実にはあり得ない設定を含むこともありますね。

水澤: 最近はユニークなテーマを着回しに織り交ぜています。2023年を振り返ると、2月号は雪女が主人公でした(笑)。「先に変わったストーリーを設定し、そこから着回しを考えているの?」とよく聞かれますが、半分ぐらいは載せたい服をもとにそこからストーリーを考えています。雪女の場合は、防寒服をピックアップしたかったことから企画が決まりました。

柏木: 「日本沈没まであと1カ月…防災女子の着回し」(2023年10月号)は、SNSでトレンドに入るなど、話題を呼びました。「テーマがぶっ飛びすぎて、コーデが目に入らないしw」などのコメントも。このテーマを取り上げたのはなぜですか?

水澤: 今年は、関東大震災から100年の節目でした。この号は8月下旬の発売だったので、9月1日の「防災の日」にちなむストーリーにして、この号全体のメイン特集・スニーカーと合わせて、フットワークが軽めの主人公にしようと決めました。そこから、「日本沈没」をモチーフに、内閣府の特任防災アドバイザーという設定ができあがりました。昨年放送されたドラマ『日本沈没』のイメージがベースにありました。そこから、在宅避難に役立つ備えや消臭ウェアなどのグッズも紹介しました。

実際、普段『CLASSY.』を読まない方からの反響が大きかったですし、なんと小説「日本沈没」の作者である小松左京さんのご親族も特集の内容についてご覧いただいたと知りました。多くの方に響いて、本当にうれしかったです。

『CLASSY.』2023年10月号
『CLASSY.』2023年10月号©光文社

柏木: この回に出てくる博士役は、なんと、ロケバスの運転手の方が演じたと伺いました。

水澤: そうなんです。ファッション誌の撮影は、通常10名ぐらいの少人数で行っています。来年1月号(2023年11月28日発売)の着回しは、「雪山で犯人探し」の設定ですが、人が少ないとストーリーが膨らまないので、運転担当をはじめ、読者モデルやライターなど、多くのスタッフが出演します(笑)。

柏木: まさに総動員で作っていらっしゃいますね。その熱意の源はどこにあるのでしょうか。

水澤: 今は、書店に足を運ぶ人が減っています。以前は、発売日になると店に雑誌が平置きされて並び、お客さんが表紙を見て内容を知ることができましたが、今はそうした機会が少ない。なのでこうした特集が、「『CLASSY.』は面白いことをしている!」と、みなさんに少しでも興味を持ってもらう機会になれば、という思いがあります。

「男性に選ばれる」時代ではない

柏木: 『CLASSY.』は、表紙にも掲げている “オシャレも人生も「自分で選ぶ」”というキャッチコピーが目を引きます。

水澤: 2年半前、私が編集室長に就いたのを機に、部内で話し合って決めた言葉です。これからは、ファッションも生き方も男性に選ばれるのではなく、自分で選ぶ人をターゲットにしていこうと明確に定めました。

『CLASSY.』は来年、創刊40周年を迎えます。初めの頃は、20代OLさん向けに“花嫁修業”のような内容を載せていました。その後は、男性に愛される、いわゆる「モテる」女性が流行ります。その傾向を何となく引きずった気持ちで作り続けてはいたものの、やはり今の時代には合わないので、そうしたこれまでの流れを払拭(ふっしょく)したい気持ちがありました。新たに打ち出した姿勢は、着回しのストーリーにも少しずつ表れています。

柏木: 恋愛や結婚を含むストーリーには、男性の意見はどれぐらい取り入れていますか?

水澤: 最近は、男性の目線はあえて入れないようにしています。以前は毎月のように、男性同士が「女性に着てほしい服」について話し合うような記事を載せていました。今も一切ないわけではないですが、「男性に言われたから、その服を着る」時代ではない。「恋活着回し」も、「ベーシックな服を着ていると自分に自信が持てる。だから、そういう服を着るのって、恋するのにもいいよね」というコンセプトにしました。

柏木: 編集部は女性が多いのでしょうか。

水澤: 私が新卒で配属になった20年前は男女半々ぐらいでしたが、今はほとんどが女性です。実は、女性編集長は私が初めてで、その前まではずっと男性でした。以前は、「男性が女性の声を聞いて作る」というスタイルがあったのだと思います。

CLASSY.編集室長の水澤薫さん

柏木: 水澤さんが初の女性編集長、それは意外です。大きなターニングポイントでしたね。ファッションについては様々な捉え方がありますが、『CLASSY.』では、「装う」ということについてどのように考えていらっしゃいますか?

水澤: 自己表現のひとつでもありますが、今の女性たちは「個性的になりたい」というよりは、「きちんとした人」「優しい人」というような、周りの人から見られたいイメージに合った服を着る考え方が近いのではないでしょうか。『CLASSY.』の読者が一番なりたい姿は、「普通の服を着ているのに、なんだかすてきな人」。ファッションで「頑張らないこと」が大事なんです。なので、服のオシャレさを雑誌の前面には出していません。

自分も周りもハッピーに

柏木: なるほど。モード誌の場合は、服の芸術性に焦点を当てますが、そう考えると、『CLASSY.』では状況に合わせてまさに着回すことが大事になってきますね。ファッションを切り口に、どのような女性像を伝えていきたいと思っていますか?

水澤: 先ほどお話したように、男性からは何となく「モテ系」の雑誌と思われているようで、そのイメージを払拭するのが結構難しいんです。かといって、女性が「がむしゃらに頑張って1人で生きていく」感じにも見せたくない。
パートナーがいてもいなくても、家族や友達、周囲の人ともずっと仲良くしていきたい、みんなで一緒に幸せに生きていく、というのが我々の読者の理想像なのかなと考えています。自分も周りもハッピーにという軸では、「ウェルビー女子」と題する連載で、そうした生き方のヒントも紹介しています。

柏木: 読者からはどのような声が多いですか?

水澤: 「細かい悩みに丁寧に答えてくれる」という声をいただいています。アラサーという、結婚や出産、転職など人生の選択が多い世代の女性たちを応援するような雑誌を目指したいという思いがありますね。

柏木: 結婚、出産、キャリアといった、女性の様々な悩みに寄り添うtelling,とも共通点があり、親近感が湧きます。記事のスタンスで気を付けている点はありますか?

水澤: こちらから提案するというよりは、読者と一緒に考えて、専門家からアドバイスをもらう形にしています。最近の着回し特集で言えば、「投資女子」の回で、実績のある投資家に初心者が知っておきたい心得を聞いたり、「恋活」の回では、今時の婚活本を出版したライターに“大人の恋愛”を始める時のポイントを教えてもらったりしました。

『CLASSY.』2023年6月号
『CLASSY.』2023年6月号©光文社

柏木: telling,には、「彼氏がいらない女たち」のように、多様化した生き方を紹介する記事もあります。恋愛と女性の人生の関係について、最近のトレンドで感じることはありますか?

水澤: これまでは、恋人の有無はさておき、「彼氏が欲しいのが当たり前」という時代が長かったように思います。でも今は、「恋愛はしたいけど、結婚は……」とか、「結婚はしたいけれど、恋愛をした方がいいのかは分からない」といったように、恋愛や結婚に疑問を持つ人も増えているのではないでしょうか。

柏木: 主人公が恋愛しないケースもありだと?

水澤: 恋愛で盛り上がる場面を作りたい部分もありますが、そうなると「アラサーの女性は恋愛のことばかり考えている」とも思われがち。恋人との仲が安定している人もいれば、恋に興味がない人もいるなど、様々な生き方を見せるようにしています。

柏木友紀・telling,編集長のインタビューに答えるCLASSY.編集室長・水澤薫さん(左)
柏木友紀・telling,編集長のインタビューに答えるCLASSY.編集室長・水澤薫さん(左)

柏木: 『CLASSY.』の読者も含めて、今の30歳前後の女性はどんな人生観を持っていると思いますか?

水澤: この世代の人たちの声を聞いて、時に困惑してしまうのは、「会社にロールモデルがいないから仕事を続けられない」ということ。「ロールモデルっていて当たり前なの?」という驚きがありますし、先を知りたい、失敗したくないという気持ちが強いようにも感じます。転職といったキャリアや、結婚、出産によるキャリアの中断にも関心が強く、その意味で、例えば、今すぐではないけれど、いずれは出産したいからということで、卵子凍結なども話題になるようです。その前後の女性たちに比べると少し落ち着いた世代という印象がありますね。仕事か家庭かどちらか一方ではなく、両方で得られる幸せをイメージしているのかもしれません。

柏木: 前後の世代と比べて、おっとりしてやや保守的な面もあるのでしょうか。

水澤: ゆとり世代という意味でも、そうかもしれないですね。その点、『CLASSY.』は雑誌ですから、自分に興味のない情報もページをめくれば目に入り、新しい気づきを得られることがあるかもしれません。これからも、読者世代の女性たちがより生きやすくなるような内容を前向きに伝えていきたいです。

●水澤薫(みずさわ・かおる)さんのプロフィール

1980年生まれ、神奈川県出身。2002年光文社に入社。CLASSY.編集部、STORY編集部を経て、2021年6月からCLASSY.編集室長に。

■『CLASSY.』

発売日:毎月28日
発行:光文社
定価:890円(税込)
©光文社

神奈川県出身。早稲田大学商学部卒業。新聞社のウェブを中心に編集、ライター、デザイン、ディレクションを経験。学生時代にマーケティングを学び、小学校の教員免許と保育士の資格を持つ。音楽ライブ、銭湯、サードプレイスに興味がある、悩み多き行動派。
telling,編集長。朝日新聞社会部、文化部、AERAなどで記者として教育や文化、メディア、ファッションなどを幅広く取材/執筆。教育媒体「朝日新聞EduA」の創刊編集長などを経て現職。TBS「news23」のゲストコメンテーターも務める。
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