“子どもを持たない”選択をめぐる『星降る夜に』4話、吉高の存在感も際立つ
「会社に行けなくなった」春の過去と苦しみ
4話では、一星(北村)とともに「遺品整理のポラリス」で働く春(千葉)の過去が描かれた。春の妻・うた(若月佑美)が妊娠していることがわかるも、春は浮かない顔。それには、現在もなお消化しきれていない苦しみが関係していた。
春とうたは、前職の食品会社でともに働いていた仲。付き合い、結婚するまでに短い時間はかからなかった。関係は順調に思えたけれど、お互いの仕事が忙しくなっていくにつれ、すれ違い生活になっていく。
着実に仕事で結果を出すうたとは違い、春はなかなか目立った成果に恵まれない。上司から叱られ、パワハラ紛いの叱責を受ける日々に辟易し、ついには会社に行けなくなってしまった。そんな彼に文句ひとつ言わず、淡々と仕事をし、「家のことをやってくれてありがとう」と感謝してくれるうた。春にとって、そんな気遣いさえも重荷に感じられた。
ようやく「遺品整理のポラリス」に就職することが決まり、仲間にも恵まれ、仕事にも慣れた春。そんな矢先に発覚した、妻の妊娠。喜びよりも先に戸惑いや恐怖が先に立った。新人医師の佐々木深夜(ディーン・フジオカ)に「いつまでなら中絶できますか」と、手術の期限について確認するほど、春は子どもを持つことを望まない。
ようやく社会復帰しつつある自分の立ち位置を指し、「僕はまだ、そこなんです」と称した春。「とても、人の親になんて」と口にする背景には、大人として自立しきれていない“心の弱い自分”が、人の親になる責任を背負うことはできないと感じる、負い目のような感情があるのだろう。
鈴(吉高)の言うように、望まれない妊娠もある。「産むも産まないも、生き方の選択は本人の自由だから」と言うように、春が“子どもを持たない”選択をすることは、何ら悪いことではない。しかし、世の中には、そんな選択を「贅沢な悩み」と考える佐々木のような人も多いのではないだろうか。
一星の明るさと強さ 、順調“すぎる”鈴との関係
春が苦しい思いをしている反面、一星と鈴の関係は順調すぎるほど。一星は鈴のことを当たり前のように呼び捨てしているし、手をつないでデートもしている。お互いに「ステイ」を出し合っていたはずだけれど、その“待ったのサイン”は解除されたのだろうか。
言及したいシーンは山ほどあるけれど、やはりふたりで「星のネックレス」を選ぶシーン、そして最後のバックハグシーンは外せない。
ふたりが出会った“星が降るような夜”を象徴するような、星を模したネックレス。素直に「かわいい、星が降っているみたい」と言い、それを懸命に手話で伝えようとする鈴もかわいらしい。それをしっかり覚えていて、こっそりそのネックレスを購入し、プレゼントした一星のかわいさも飛び切りである。
ふたりの関係性が順調であればあるほど、より春との対比が濃くなり、つらさが増す。一星は、子どもができた春をお祝いし、何かあれば力になりたいと願う。しかし、春はそんな一星の「明るさ」や「強さ」に照らされるのが、何よりもつらいのではないだろうか。「俺はそんなに強くない」と言った彼の言葉に、すべての思いが結集されている気がしてならない。
全話に通底する、鈴の生き様と価値観
佐々木、鈴、マロニエ産婦人科のスタッフ・蜂須賀(長井短)が語り合うシーンがある。子どもを産むか、産まないか。どちらの人生を選ぶべきなのか。蜂須賀は、産科で仕事をするにつれ、子どもを産む選択肢は薄まっていくと話す。「好きなときに海にも行けないし」と口にする様子は、きっと多くの若い世代の共感を呼ぶかもしれない。
それに反して、佐々木は子どもを持つ喜びや素晴らしさを重んじる。彼自身、妻と子どもを亡くしていることから、子どもを望まないこと自体を「贅沢な悩み」と位置付けている。
鈴は「結婚をしたら子どもを産んで当たり前、って時代でもない」と言う。彼女は産婦人科医でありながら(だからこそ)、子どもを産むことを必要以上に神格化しない。あくまで医者である自分のすることは、母体の健康管理であることを貫いている。彼女のこのスタンスは、1話から通じている考え方だ。
これまで『僕等がいた』(2012)や『きみの瞳が問いかけている』(2020)などの純愛映画、ならびに「知らなくていいコト」(日テレ系)や「最愛」(TBS系)などの濃いテーマを伴った作品に出演してきた吉高由里子だからこその、重層的な表現、そして存在感が映える。実際に、一星を演じる北村とはほぼ10歳離れている吉高。しかし、なんら違和感はない。
思わずキュンとしてしまうシーンもあり、かつ、子どもを持つ・持たないことの悩みや、生き方の選択肢にまつわる深いテーマも混在するドラマ『星降る夜に』は、これからも私たちに新しい視点を与えてくれそうだ。
テレ朝系火曜21時〜
出演:吉高由里子、北村匠海、千葉雄大、水野美紀、光石研、ディーン・フジオカほか
脚本:大石静
音楽:得田真裕
主題歌:由薫『星月夜』
挿入歌:NCT ドヨン『Cry』
ゼネラルプロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、本郷達也(MMJ)
監督:深川栄洋、山本大輔
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