親のいない子どもは「かわいそう」?『星降る夜に』第2話で描く“生き方の選択肢”

ドラマ『星降る夜に』(テレ朝系)は、とある理由から大学病院を辞めた産婦人科医・雪宮鈴(吉高由里子)と、ろう者の遺品整理士・柊一星(北村匠海)の、運命的な出会いから始まるラブストーリーです。第2話では、鈴が勤める医院に匿名の妊婦が。それぞれの立場から見た“生き方の選択肢”を描いています。
命の始まりと終わり、生と死にまつわるふたりが出会った『星降る夜に』

10の年齢差は、恋の障壁となるか?

星降る夜に出会った鈴(吉高)と一星(北村)のあいだには、10の年齢差がある。ともにゾンビ映画を鑑賞したあと、ハンバーガーを食べるシーンにおいて、鈴はその事実に「10も違うの」と驚いた。反対に、一星は「たった10コだよ」と返す。これからのふたりにとって、この年齢差はどのような影響を与えるだろう。

鈴にとって、一星は10歳も下の“男の子”。出会いは突然で、その関係性も少し変わっている。ソロキャンを楽しんでいたさなかに、いきなりキスをされ、再会したのは実母の葬儀の場だったのだから。一星からのアプローチが好意によるものだと、35歳の鈴は気づいている。そして、気づいてはいけないとも思っているはず。

片や、一星から鈴に向けられる目線は、完全に恋心のそれ。鈴のスマホを勝手に奪って連絡先を手に入れるくらいだから、一目惚れ状態からさらに思いが増しているのは確実だろう。鈴を映画に誘ったり、既読スルーされている事実に悶々としたりする描写は、なんとも微笑ましい。

果たして、10の年齢差は恋の障壁となるのだろうか? 一星が鈴に手話を教えるシーンや、終盤、踏切越しに告白されるシーンなどを見ていると、鈴もまんざらではないのだろう。一星とのコミュニケーションにおいて、最初は戸惑いも見せた鈴。この関係性を深めてもいいのかどうか、ためらう気持ちを、何事にも真っ直ぐな一星がほぐしてくれるかもしれない。

親がいない子は「かわいそう」なのか

第2話では、鈴が勤めるマロニエ産婦人科医院に、匿名の妊婦が緊急入院する。これまで一度も診察を受けていなかった名無しの妊婦は、無事に出産するも「子どもなんて要らない、子どもがいたら男がつかまらない」と言った。その後も、自分の赤ちゃんに対し愛情を示すことはなく、無言で病院から逃げ出してしまう。

鈴と同じくマロニエに勤める新人産科医・佐々木深夜(ディーン・フジオカ)も、そのほかのスタッフも、口々に「残された赤ちゃんがかわいそう」と言った。

確かに、これから育っていく赤ちゃんにとって、両親がいない事実は重くのしかかるかもしれない。さまざまな家族の形がある世のなかだけれど、まだまだ「子どもには両親が揃っているほうがいい」とする価値観は存在する。その世間体からくるプレッシャーに、飲み込まれないとも限らない。

しかし、両親不在のまま生まれてきた命に対し、周囲が「親がいないから、かわいそう」と哀れみの目を向けるのは、レッテルを貼り付ける行為ではないだろうか。自分の出自や生き方を、かわいそう、と決めつけられるとき、どんな気持ちになるだろう。その違和感を、鈴も言葉にしていた。

一星にも、両親がいない。事故で亡くなったという。耳が不自由である事実と合わせて、周囲から「かわいそう」と哀れまれる状況を、何度も経験してきたはず。鈴から、匿名の妊婦や残された赤ちゃんの話を聞き、逃げた母親を探しに行こうとする一星だが、やがて「俺もかわいそう?普通と違うから」と問いかける。

それに対し、鈴は、自由で自信に満ちた一星の人生を「うらやましいくらい魅力的」と伝えた後、「あなたは、かわいそうなの?」と新たな問いを向けた。両親がいない、耳が聞こえない、だからといって、かわいそうだと決めつけられる理由はない。この一連のシーンからは、出身や生き方がどうあれ、他人に「かわいそう」と思われる所以はないという、強いメッセージを受け取れる。

私たちに開かれている、“生き方”の選択肢

日本という国は、と大きな主語で括りたくはないが、この国には何よりも世間体を気にする重たい空気があるように思える。それはコロナ禍で顕著になった。

自分の生き方を選びとるうえで、どうしても親や家族、世間体を考慮してしまうのは、もはや仕方のないことなのかもしれない。

しかし、あえて言いたい。鈴が佐々木に対して「自分にとっての正解が、患者にとっての正解とは限らない」と諭したように、それぞれに生き方の“正解”がある。そして、それを自由に選び取れる社会が健全ではないだろうか。

鈴は一星にも「あなたは、かわいそうなの?」と問いかけた。その問いを受け、一星自身も、かわいそうだと言われ続けてきた身の上を振り返りながら「かわいそうじゃない」と改めた。

私たちには、本来、さまざまな“生き方の選択肢”が開かれている。その事実に気づくためにも、いま一度問いかけたい。私たちは、かわいそうなのだろうか。他人のことを、かわいそうと決めつける理由はあるのだろうか。

命の始まりと終わり、生と死にまつわるふたりが出会った『星降る夜に』

『星降る夜に』

テレ朝系火曜21時〜
出演:吉高由里子、北村匠海、千葉雄大、水野美紀、光石研、ディーン・フジオカほか
脚本:大石静
音楽:得田真裕
主題歌:由薫『星月夜』
挿入歌:NCT ドヨン『Cry』
ゼネラルプロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、本郷達也(MMJ)
監督:深川栄洋、山本大輔

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
福岡県出身。現在は大阪在住のイラストレーター&クリエイター。"変化を起こすトキメキ"をテーマにPOPなイラストを描いています。WEBサイト、ノベルティーグッズ、イベントロゴ、動画などでイラストを提供中。趣味は映画、ドラマ、アニメ、ミュージカルなど鑑賞に偏りがち。
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