命の始まりと終わり、生と死にまつわるふたりが出会った『星降る夜に』
産婦人科医と遺品整理士のラブストーリー
まさに降り落ちてきそうな満天の星空の下で、ふたりは出会った。産婦人科医をしている鈴(吉高)と、遺品整理士の一星(北村)。鈴よりも10歳下の彼は、体を貫かれるように一目惚れをしてしまったのか、鈴に吸い寄せられるようにキスをする。ドラマ開始1分での、(おそらく)最速のキスシーン。
許可もなしに鈴の写真を撮ったり、勝手に人のお酒を飲んだり、挙げ句の果てにキスをしたりと、一星の行動は身勝手だ。トラブルになっても、おかしくないほど。だけど、鈴は、自然と一星を受け入れてしまう。ソロキャンプを楽しんでいる間、ロマンチックすぎる星空に包まれながら、魅力的な人と出会ったのだから、無理はないのかも。
本作の脚本を務めるのは、これまで『大恋愛〜僕を忘れる君と』(2018・TBS系)や『恋する母たち』(2020・同)『あのときキスしておけば』(2021・テレ朝系)など、数々のラブストーリーで存在感を見せつけた大石静。なるほど、歴代最速のキスシーンが印象に残ったのも、頷ける。
大石は、『知らなくていいコト』(2020・日テレ系)でも吉高由里子とタッグを組んでいる。吉高が主演するNHK大河ドラマ『光る君へ』(2024)でも脚本を担当することが決まっており、まさに盤石の体制と言えるだろう。
ふたりの糸をつないだ母・愛子の残したもの
偶然な“運命の出会い”を果たしたふたりだけれど、ロマンチックたっぷりなキスは、なんとも言えない幕引きだった。少しお酒を飲みすぎたらしい鈴は、酔って嘔吐してしまったよう。目を覚ました鈴が目にしたのは帰る途中の一星で、後には汚れたマフラーが残った。
もう会うこともないと思われた鈴と一星の糸をつないだのは、鈴の母・愛子(岸本加世子)である。彼女は、亡くなる前に遺品を整理していた。遺品整理士として、その手伝いをしていたのが一星だったのである。
葬儀の場で、ふたたび鈴の前に姿を現した一星。彼は、遺族が後悔しないよう、これぞと思った遺品は取っておき、渡すようにしている。それは、彼が勤める「遺品整理のポラリス」社長の北斗千明(水野美紀)からの教え。どうやらそこには、彼が遺品整理士になったルーツや、カメラを持ち歩き、写真で思い出を残すようになった営みにも通じているように思える。
愛子が(一星が?)残したのは、鈴がパリで買った口紅や、仲間たちとの写真、びっしりと予定が書き込まれたカレンダー……。鈴は母と疎遠だったようで、相談もなく遺品を整理していた事実に落胆しながら「一人寂しく旅立ったんですね」と言った。しかし、一星の捉え方は違った。
「寂しかったと決めつけるのも、違うんじゃないでしょうか」
一星は愛子のことを「人生を思いっきり楽しく生きてきた方」だと伝えた。写真を見ながら楽しそうに思い出話をする愛子、それを丁寧に掬いとる一星が、回想シーンで描かれる。一人で息を引き取ったから寂しい人生だったなんて、誰にも言えない。
命を産み出す手助けをしている鈴は、自身の母が生きてきた道を、残された品々をとおして知った。それは、一星がいなければ知り得なかったことだ。
人の心に刻まれた「母」という概念
ただのラブストーリーかと思いきや、このドラマには、思わず「命ってなんだろう」「生きるってなんだろう」と、深い問いを芽生えさせる要素が散りばめられている。
たとえば、妊婦の芝里子(ハリセンボン・近藤春菜)が出産のため、力いっぱいにいきむシーン。鈴をはじめ、出産に立ち会う全員が「お母さーん!」と叫ぶ。妊婦の母は3年前に他界しているのに、彼女は必死に“母”に助けを求めるのだ。傍らに夫がついているにも関わらず。
3日前に母を亡くしたばかりの鈴が叫ぶ。「お母さーん!」。一緒になって、周りのスタッフたちや夫も叫ぶ。「お母さーん!」。妊婦がひときわ、大きく叫ぶ。「お母さーん!」。
助けてほしい、と思ったときに、ふと口をついて出るのは「お母さん」なのではないか。そこは不思議と、「お父さん」ではない。たとえ亡くなっていたとしても、さまざまな事情から実の母を知らなかったとしても、助けは「お母さん」に求めたくなる。存在としての母ではなく、もはや概念としての母に。
人の心には、「母」という概念が刷り込まれているのではないだろうか。「お母さーん!」の大合唱には、そう思わせるだけの勢いと、力があった。
産婦人科医の鈴は、これからもたくさんの「命の誕生」に関わるだろう。そして、遺品整理士の一星は、物の処分や整理をとおして「命を閉じる」手助けをしていく。命の始まりと終わりに立つふたりが紡いでいくラブストーリーは、私たちにどんなものを残してくれるのだろう。
テレ朝系火曜21時〜
出演:吉高由里子、北村匠海、千葉雄大、水野美紀、光石研、ディーン・フジオカほか
脚本:大石静
音楽:得田真裕
主題歌:由薫『星月夜』
挿入歌:NCT ドヨン『Cry』
ゼネラルプロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、本郷達也(MMJ)
監督:深川栄洋、山本大輔
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