同僚、友人…コロナ下での人との距離感、そしてマスクはどうすれば? 専門家に聞く

新型コロナウイルスの新たな感染者は増加に転じ、“第7波の到来”との指摘もあります。一方で人との接触頻度も高まり、状況に応じてマスクを外すそうという動きも広がっています。かつての日常が戻る気配を見せる一方、これまで2年以上にわたり接触減を続けてきたことで、人と関わることにストレスを感じるケースも増えています。心療内科医で産業医も務めるセントラルメディカルサポートの石澤哲郎さんに、対処法を聞きました。
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――感染は再拡大の兆しですが、職場の人や友人・知人と再び会うことも増えました。コミュニケーションについて、改めて考え込んでしまう人もいるようです。

石澤哲郎さん(以下石澤): 職場の上司や同僚との関わり方は悩ましいですね。家族や友人といった親しい距離感ではない一方で、他人というわけでもありません。職場というのは“中途半端な距離感”の人たちが、同じ方向を向いて仕事をする場所です。在宅勤務が減り、オフィスで一緒に毎日、何時間も顔を合わせるようになると、一度開いた距離感を再び詰めないといけない。これは小学校や中学校時代の友人と久しぶりに会った状況と同じような“居心地が悪い”状態を引き起こします。

ただ、ぜひ知っておいてもらいたいことは「居心地の悪さを感じているのは、自分だけではない」ということです。上司や同僚も在宅勤務などで生じた距離感を感じていて、お互いに以前に戻りたいと思っているからこそ居心地の悪さを感じるのです。そのように考えることができれば、前向きに関係性を再構築する意欲を高められるのではないでしょうか。

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人と会わなくても楽しく過ごせるように?

――プライベートにおける人との距離感の取り方も難しいですね。特に恋愛や結婚という場面でどうすればいいのか。最新の人口動態統計によると、コロナ禍の2年で婚姻件数は減少。21年の件数は51万4242組で前年に比べても4.3%減り、戦後のピーク時と比べると半数以下となりました。

石澤: コロナ禍を通じて、「他者とリアルなコミュニケーションをしなくても何とかなる」と気付いた人が少なからずいるのではないでしょうか。以前なら余暇は誰かと飲みに行ったりカラオケをしたりと、“1人ではなく、誰かと楽しむこと”が当たり前でした。それがコロナ禍になってから、いわゆるZOOM飲み会など直接の接点がないコミュニケーションが増えました。さらにNetflixなどの配信系のサブスクも含めて、人と会わなくても十分に生活できて楽しみが得られることも分かってしまいました。つまり他者と深い付き合いをしなくても満足を得られる人が増えているのです。

しかも、実際に会う機会も減り、会ったとしてもお互いにマスクをつけて相手の表情も分からないなど、コミュニケーションが疎遠になっている状況では、恋愛や結婚をしようという感覚にもなり辛いでしょう。残念ながら、新しい生活様式の元で希薄になった対面コミュニケーションが、それ以前の状態に完全に戻ることはないと思います。オンラインコミュニケーションを含めたトータルで、周囲との関わりを健全に維持するという視点が重要ではないでしょうか。

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マスクで“上がる”正確な情報を受け取るハードル

――マスク越しのコミュニケーションの弊害はありませんか。

石澤: 人と人との相互理解には言語でのやりとりも当然必要ですが、顔の表情や身振り手振りなどの非言語的なコミュニケーションもそれ以上に重要です。特に顔色や表情には多くの情報が含まれています。たとえば、会話の場面では多くの人が「口角が上がっているか、下がっているか」などの視覚情報を認識することで相手の感情を類推し、話し方や話す内容を変えています。マスクによって非言語的コミュニケーションが制限されると、情報の受け手は相手の感情や真意を表情から推察できないため正確な情報を受け取るハードルが上がりますし、情報の出し手も表情などの非言語メッセージに頼らずに思いを伝える必要が出ます。そのためコミュニケーションにハードルを感じたり精神的に疲れたりしてしまうのです。

こういった状況下では、非言語的なメッセージが伝わりにくくなっていることを認識したうえで、普段以上に「あなたに会えて嬉しい」などの前向きな気持ちを少し大げさに伝えることが大切です。また言葉そのものを分かりやすく伝えるだけではなく、マスクをつけていても比較的伝わりやすい穏やかな口調や笑顔、身振り手振りといったボディランゲージなども活用するのが効果的です。

――一方、熱中症の防止の観点から、政府も屋外では状況に応じてマスクを外すことを勧め、マスクを付けていない人も散見されるようになりました。将来的には室内でもマスクを外す時期がくるかもしれません。そうすると再び、身だしなみをきちんと整える「整容」が求められるようになります。

石澤: 現代社会ではきちんとした身なりをすることが「私は信頼できる人間です」「あなたのことを尊重しています」といった非言語的なメッセージになっています。特に女性の場合は、その是非はともかく、化粧などの整容がそういった機能を担っているのは間違いありません。接触が少ない間はメールやLINE、Slackなどで言語的なメッセージさえしっかり送り合っていれば問題ありませんでした。しかし今後は、整容を通じた非言語的コミュニケーションが再び重視されることになるでしょう。

例えばマスクを外す場合もオンライン会議などであれば、最近のツールでは顔色を整えたり、部屋の背景を変えたりすることができるので、化粧にそこまで力を入れずに済んでいたはずです。しかしオフィス勤務の増加によりマスクを外した対面コミュニケーションが活発になれば、コロナ以前と同様に整容にエネルギーを費やす必要があるため、それにストレスを感じる人がいても不思議ではありません。

――整容の利点を教えてください。

石澤: マスクを外しても大丈夫なようにきちんと身なりを整えることは少々大変ですが、コミュニケーションの際の非言語的な情報が増えることから、お互いに考えていることが格段に伝わりやすくなります。コミュニケーションに困難を感じる機会が減り、コロナ禍でのマスク&オンラインのコミュニケーションよりも相互理解が進むのは間違いありません。

しかし、マスクを付けて過ごす状況が長く続き、顔の表情を見せないことに慣れてしまったことで、顔を見せることに対する羞恥心や抵抗感が強くなっている人は少なからずいます。そういった人は、かえって対面コミュニケーションにストレスを感じてしまう可能性もあります。このあたりは難しい問題で、どうしても変化の時期は辛く感じがちですが、以前は普通にマスクをせずに生活していたのですから、その頃の自分を思い出すことが大切ですね。そして少しずつ生活を戻していき、気が付いたらマスクをしていないことが気にならなくなる、といった状況を目指すことが大切だと思います。

それでも気になってしまう人は、「他人は自分が考えているほど、相手の見た目を気にしていない」ということを知っておくと良いですね。実際、皆さんは周囲の人の顔をジロジロ見たりしないのではないでしょうか。繊細な人ほど「人から見られている」との意識が強く気疲れしがちですが、客観的なところはどうなのか、冷静になって考えてみると少し気が楽になるかもしれません。

セントラルメディカルサポートの石澤哲郎さん

一時的な不調を過度に心配しない!

――環境の急激な変化で心身の不調を訴える人も増えています。どのような状態になったら専門家に相談したり、医療機関を受診したりする必要がありますか。

石澤: 働き方や行動様式の変化でストレスがかかれば、気持ちが落ち込んだり、眠れなくなったり、お腹が痛くなったりすることは誰にでも起こりえます。そういった体調不良の症状の出方には一般的な決まりはなく、「その人の一番弱いところに症状が出る」と言われています。ただ健康な人であれば、ストレスが緩和してくると徐々に体調不良は改善するので、一時的な不調を過度に心配することはありません。

一方で、ストレス状況が落ち着いた後も体調が思わしくないようなら要注意です。たとえばうつ病の診断基準にも「気持ちの落ち込みが2週間以上続いていること」という要件が入っています。医療機関に行くことは恥ずかしいことではありませんし、病気でないことがわかれば、それに越したことはありません。症状の種類に関わらず、なかなか体調が上向かず仕事や私生活に影響が出ることがあったら、早めにメンタルクリニックなどの医療機関を受診するようにしてください。

感染拡大の兆しも、増えるオフィスへの出社 メンタルの保ち方を専門医が解説

●石澤哲郎(いしざわ・てつろう)さんのプロフィール

1975年神奈川県生まれ。東京大学医学部を卒業後、早稲田大学統括産業医や東京大学医学部附属病院心療内科助教などを経て、産業医事務所セントラルメディカルサポート代表。30社以上の企業の顧問を務め、休復職対応や長時間労働対策、健康経営推進に取り組んでいる。著書に『心療内科産業医と取り組むストレスチェック集団分析 職場改善への活用手順と実践例』(第一法規)などがある。

ハイボールと阪神タイガースを愛するアラフォーおひとりさま。神戸で生まれ育ち、学生時代は高知、千葉、名古屋と国内を転々……。雑誌で週刊朝日とAERA、新聞では文化部と社会部などを経験し、現在telling,編集部。20年以上の1人暮らしを経て、そろそろ限界を感じています。