映画監督・川和田恵真さん アイデンティティの葛藤が作品に繋がった

幼い頃から日本で育ったけれど、難民申請が不認定にーー。これまでの日常が奪われアイデンティティと葛藤しながら、成長する在日クルド人の少女を主人公とした映画『マイスモールランド』が5月6日、全国公開されます。監督を務めたのは、自身も10代のときにアイデンティティに悩んだという川和田恵真さん。クルドに関心を持った理由などについて伺いました。
映画監督・川和田恵真さん たくさんの出会いで「自分を開けた」

女性兵士の写真1枚が出発点

――『マイスモールランド』は川和田監督にとって、初めての商業長編作と聞きました。少女の成長を描いていますが、背景にはクルド難民というテーマがあります。

川和田恵真さん(以下、川和田): 最初にクルドを知ったきっかけは、1枚の写真でした。写っていたのはすごく大きな銃を持った女性。当時、過激派組織「イスラム国」と戦っていたクルド人女性の写真なんです。私より年下か同じ年くらいの女性たちが、自分の居場所や家族を守るために戦っている、ということに衝撃を受けました。
私たちが当たり前に持っている国を、クルドの人たちは持たず、むしろ脅威にさらされている。そういう中で、自分で自分の居場所を守っている――。どうしてこんな状況に置かれているんだろうと、興味を持ちました。

――1枚の写真からなのですね。川和田監督身はおいくつのときでしたか。

川和田: 私は25, 26だったと思います。写真の女性たちは20代から30代くらいで。
写真を見たとき、私はすでに映画の仕事をしていて、いろんなニュースを見ているときに出会った写真でした。調べてみて、日本にも1500から2000人のクルド人が暮らしていることを知りました。しかも難民申請はなかなか認められない。日本においても居場所を得るための戦いをしていることを知りました。

©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

 不安の中に見えた明るいパワー

 ――本格的な取材は2年近くに及んだそうですね。

川和田: 日本クルド文化協会の方にご家族を紹介していただき、 取材をしながら、どんな内容にしていこうかを考えていきました。

知りたかったことは3つあって、クルド人の日本での生活、家族内のこと、入管のこと。

特に大きな関心を持ったのは家族についてです。家族にとって、過ごしてきた時間はクルドと日本の2つがあります。
親世代はクルドのことをとても強く、大切にしている。ですが日本で過ごした時間が長い子どもにとっては、どうしても親と同じようには思えない。
クルド語を話せない子どもが、とても多いんですね。一方で親は子どものように日本語が話せず、互いに読み書きは1言語しかできない場合が少なくない。
家族の中での故郷を思うすれ違い、言語のすれ違いがあることを知りました。

――取材で意外だったことは?

川和田: ご家族の方は難民申請が認められない、いつ不認定になって施設に収容されてしまうかもわからない、という不安な状況に置かれていました。それなのに、私が会いにいくと、明るく穏やかに出迎えてもらって。
映画の中で少女の父親が、日本人の少年に郷土料理をふるまうシーンがあります。
話を聞きに行ったときも、映画同様たくさん料理をつくってくれて。誰が来てもおもてなしをするのがクルドの文化。結婚式のシーンで参加者が音楽に合わせて踊っているように、彼らは本当に明るく力強いパワーも持っていました。

©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

でも、入管や難民申請の話になると表情が変わる。難民条約を信じて日本にやってきたのに、ゴールが見えなくて生活も厳しい彼らからは、陰と陽の双方を感じました。
私たちと変わらないのは、家族を思う気持ち、友達を思う気持ち。映画をつくる上で大事にしたい視点だなと思いました。

「外国の方ですか」と聞かれる度に揺れた心

――映画では17歳の主人公サーリャの視点でアイデンティティに対する葛藤が描かれています。川和田監督の経験と重なる部分はあるんでしょうか。

川和田: 私もルーツはミックスで、母側の日本と父側のイギリスにルーツがあり、日本で生まれ育ちました。他の人と同じように、中学・高校生活を過ごしてきたし、日本語を使っています。

ただ、見た目はイギリスの部分が強く、日本人に見えない。いつも、そして今も「外国の方ですか」「日本語上手ですね」と言われる日常です。
10代の頃は、言葉をかけられる度に心は揺れました。「自分の居場所はどこなんだ」って。
他のミックスルーツの方に話を聞けば、ほぼ大体の方は経験していますね。だから私はカテゴリーではなく、それぞれが持っている背景を、もう少し知ってほしいという思いは元から強く持っていました。
もちろん、状況の苦しさは比較できるものではありません。でも、そのような感覚が国を持たないクルド人と繋がるところがあると思いました。

――見た目からそのような言葉を受けたとき、どう返されていたんですか。

川和田: 相手に気まずい思いをさせたくないから、見た目と内面にギャップがあることを、自らネタにしていました。
でも、ちょっと痛々しいなと思うようになったんです、自分で。こっちが嫌な思いをしていることに相手は気づいていないから、私から空気を和ませる必要はないかなと。20歳を超えてから気づきました。

――そのような経験が映画の道へとつながったのでしょうか。

川和田: 無関係ではないと思います。小さい頃からドラマや映画が大好きで、マイノリティが描かれた作品に心が動いていました。表現したいという思いは、中高生からのころからあって、映画がそれを芽吹かせてくれました。

映画監督・川和田恵真さん たくさんの出会いで「自分を開けた」

●川和田恵真(かわわだ・えま)さんのプロフィール

1991年生まれ、千葉県出身。イギリス人の父親と日本人の母親を持つ。早稲田大学在学中に制作した映画『circle』が、東京学生映画祭で準グランプリを受賞。2014年に「分福」に所属し、是枝裕和監督の作品等で監督助手を務める。『マイスモールランド』は商業長編映画デビュー作。

©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

映画『マイスモールランド』

出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー リリ・カーフィザデー リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズほか
監督・脚本:川和田恵真
主題歌:ROTH BART BARON 「N e w M o r n i n g
 企画:分福  制作プロダクション:AOI Pro. 共同制作:NHK  FILM-IN-EVOLUTION(日仏共同制作)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
製作:「マイスモールランド」製作委員会
配給:バンダイナムコアーツ
©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

2014年朝日新聞社入社、22年春からtelling,編集部員。 野菜、果物の曲線や色みに関心があります。憧れは桑田佳祐・原由子さん夫妻。
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。