蜷川実花さん「『xxxHOLiC』映画化がこのタイミングになったのは、偶然であり必然でした」

人気漫画『xxxHOLiC』を原作とした映画『ホリック xxxHOLiC』が、4月29日から全国公開されます。同漫画の実写映画化は初めてで、対価を払えば願いを叶えるというミセの主・侑子を柴咲コウさんが、孤独な高校生・四月一日君尋(わたぬき・きみひろ)を神木隆之介さんが、それぞれ演じます。監督を務めたのは写真家でもある蜷川実花さん。映画の見どころや、コロナ下での公開について蜷川さんに聞きました。
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制作、侑子さんの言葉に支えられた

――10年前から企画をしつつも、なかなか実現できなかったという「xxxHOLiC」の映画化。ついに公開を迎えますが、いかがお感じですか。

蜷川実花さん: 企画から公開までが本当に長かったので、できあがった実感があまりなかったですね。撮影は2020年6~7月にしていて、「公開はだいぶ先だな」って思ってました。CGをこんなにたくさん使うのは初めてで編集は大変でしたが、公開するまでに時間があったおかげで思う存分、作業ができました。

――主人公は、人の心の闇に取り憑く“アヤカシ”が見えてしまう高校生・四月一日(わたぬき)。アヤカシが見える能力をなくし、平穏な生活をしたいと願っている四月一日は“願いを叶えるミセ”の店主・侑子に「どんな願いも叶えてあげる。ただし、それに見合う対価をいただく」と言われます。対価にできるような“大切なもの”がない四月一日はミセを手伝うようになり、様々な事件に巻き込まれていく――。原作のどのような部分に惹かれたのですか。

蜷川: まず「なんだ、この素晴らしい絵と世界観は!」とビジュアルに惹かれて、「これを実写化できるのは私でありたい」と思ったんです。日本映画の予算内で実写化するのは難しいだろうけど、色々工夫すればできるんじゃないか、と。

とにかく時間がかかったし制作も大変でしたが、侑子さんの名言に支えてもらった感じがあります。「すべては必然」「それぞれの選択の先に未来がある」「世界は全部つながっている」……といった言葉が本当に好きでした。初めはビジュアルからでしたが、物語に込められたメッセージに普遍性があったし、エンタメ性も強いと感じましたね。

©2022映画「ホリック」製作委員会 ⓒCLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社

――「運命」や「必然」がキーワードでした。蜷川さんは、運命はあると思いますか。

蜷川: コロナ禍を経て私は、「世界ってつながっていたんだな」と気付かされたんですよね。だから「すべてがつながっている」というメッセージが込められた『xxxHOLiC』の映画化が今このタイミングになったのは、偶然であり必然でした。
何かを成し遂げるために必要なのは、運命だけじゃありません。自分の努力や周りの助けなど、色々なことが絡み合って成し遂げることができる。すべてのことは未来につながっていて、今している選択が未来を変えることもある。思いを現実のものにするのは結局、自分たちの力なんですよね。

受け手によってメッセージ性が変わる物語

――磯村勇斗さんが演じるアカグモは映画のオリジナルキャラクター。人間ですが、アヤカシを扱う女郎蜘蛛の手下です。

蜷川: 人間とアヤカシの世界、どちら側にも行くことができる、迷えるキャラクターをアカグモに託しました。悪い者をただ封じ込めたり、自分たちの理論だけで善悪を決めたりするような“分断”とは違うものを描きたかったんです。さまざまな視点から物事を考えられない人ばかりだと、価値観が多様化している現代の世界は立ちゆかなくなります。

©2022映画「ホリック」製作委員会 ⓒCLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社

蜷川: その思いは、10年前の、原作に出会った時よりも強くなっていました。原作を改めて読んでみたら、それらのメッセージはすべて、もともと原作に入っていたんです。『xxxHOLiC』に出会った当初は、感じ方が違って気付きませんでした。受け手の成長や変化によってメッセージ性が変わってくるのが、『xxxHOLiC』の面白くて素晴らしいところです。

――脚本は何パターンも考えたそうですね。

蜷川: こんなに脚本づくりが難しかった企画はこれまでなかったですね。とんでもない数のパターンを考えて、無限ループの世界に入っていました。本当は『ヘルタースケルター』(2012年)の後に『xxxHOLiC』を撮りたかったんですが、思うように進められなくて。そうしているうちに『Diner ダイナー』や『人間失格 太宰治と3人の女たち』、『FOLLOWERS』を撮って……。でもやっぱり諦められなかった。

『xxxHOLiC』って、どのエピソードをどう膨らませるか、どのキャラを軸にするかによって全然違うものになるんですよ。複数の監督が映画化したら、その監督の数だけ違うストーリーが生まれるんじゃないかな。それくらい、懐が深くて、包容力がある作品です。

細部までこだわった“ミセ”の内装

――藤の花や睡蓮などをあしらった、願いを叶えるミセの内装もこだわりを感じました。

蜷川: 色々な制約があるなかで、よくここまで作れたなと思います。私はもちろんですがスタッフのこだわりが、とにかくすごかったんです。美術まわりは特に、長く一緒にやってきたチームなので、「これじゃ監督は絶対嫌だって言うよ」とわかってくれていて。チームのみんなが高い意識を持って取り組んでくれたからこそ、実現できたことがたくさんありました。

「ミセの中に藤棚をつくりたい」って言ったら、スタッフのみんなが「監督が思い描いてる藤の量は、絶対みんなの想像の3倍くらいだよ」と構えてましたね(笑)。私が望むものは、たしかにスケールも大きくて制作は大変だったはず。でもスタッフが藤の花を手作業でつないで長くしていって……。本当に一つ一つやってくれました。
そうやってできた藤棚と、その藤棚がかかった池は、現場で見ても凄まじかったです。情念がこもっていましたね。

美術につかった紐一つしてもスタッフが手で編んだもので、結びつけてある無数の鈴は鳴らないように、内部をボンドでとめたそうです。

私が知らないところで、スタッフたちが念を込めてくれていた。どれだけ執着して魂を込めたかって、不思議なことに画(え)に映るんですよ。そうやってスタッフが頑張ってくれたから、現場はどこを見ても本当に素晴らしかったです。 

【画像】蜷川実花さんの撮り下ろし写真 蜷川実花さん“こんなの写真じゃない”と言われても「自分で自分を信じてあげる強さが大事」

●蜷川実花さんのプロフィール

東京都生まれ。父は演出家の蜷川幸雄さん、母は元女優でキルト作家の真山知子さん。多摩美術大学を卒業後、写真家として活動。第26回木村伊兵衛写真賞(2000年度)を受賞し、若手の女性写真家として注目を集めた。2007年に『さくらん』で映画監督デビュー。その後、『ヘルタースケルター』(2012年)、『Diner ダイナー』(2019年)、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(同)などを手がけた。

©2022映画「ホリック」製作委員会 ⓒCLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社

映画『ホリック xxxHOLiC』

原作:CLAMP『xxxHOLiC』(講談社「ヤングマガジン」連載)
監督:蜷川実花
脚本:吉田恵里香
音楽:渋谷慶一郎
主題歌:SEKAI NO OWARI「Habit」(ユニバーサル ミュージック)
出演:神木隆之介 柴咲コウ 松村北斗 玉城ティナ 趣里/DAOKO モトーラ世理奈/ 磯村勇斗 吉岡里帆、ほか
配給:松竹、アスミック・エース
公開:4月29日(金)全国公開
©2022映画「ホリック」製作委員会 ⓒCLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社

●スタッフクレジット
ヘアメイク:NOBORU TOMIZAWA(CUBE)
スタイリスト:斉藤くみ

1989年、東京生まれ。2013年に入社後、記者・紙面編集者・telling,編集部を経て2022年4月から看護学生。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理、銭湯。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。