勝友美さん “日本人女性初のテーラー” やりたいこと探しは「目の前の事象に全力で取り組むことから」
影響を受けたシャネル、その魅力とは…
――シャネル創業者のココ・シャネルの生き方や哲学が好きだと公言されています。どういった点に、影響を受けているのでしょうか。
勝友美さん(以下、勝): 女性の生き方を変えたところですね。20代のシャネルが生きた19世紀は、コルセットで締め付ける服を着用したり、介助がないと歩けないような豪奢なオーダーメイドの服を着たりするのが主流。その環境でシャネルは、シンプルで心地よいファッションを生み出しました。そして女性が動きやすくなり、働きやすくなりました。
ファッションを通して彼女は女性が自立し、自己受容をして、生きる志を持てるようにしたのです。シャネルが成し遂げたのは、女性の解放だと思っています。
――シャネルに共感をするようになったのは、いつ頃ですか?
勝: 10代の頃から憧れていました。そしてハタチの時にアルバイトで貯めたお金でシャネルのピアスを買いました。帰宅して、包装紙を開け、ブランドのロゴが入ったリボンをほどき、箱を開けた時――“感動”したんです。
この原体験から「売上げや知名度がある会社になっても、感動を生み出さなければ企業として意味がない」と考えるようになりました。時代も人も変わる中、100年前も100年先も変わらないのは、「人の想い」です。それを体現しているのがブランドです。
だからこそ私は28歳の時、人の想いを大切にし、人に寄り添う精神をもって、100年先まで愛されるブランドを作り、新たな価値を提供したいと考えました。
「今は外に目を向けている場合じゃない」
――これまで続けてこられたミラノ・コレクションへの出展を見合わせたのには、何か理由があるのですか?
勝: ミラノ・コレクションに出展したこれまでの3回は、私個人の視座を高める意味合いが強くありました。ブランドステージを上げ、私と一緒に仕事をした方に、見えない世界を見て頂ける会社にしたいと思ったのです。
スーツを作ってくれる職人さんにも誇りを持ってほしかったですし、無名の時から応援してくださっているお客さまにも、「やっぱり俺が選んだスーツ、そして勝という人間を信じてよかった」と感じてもらいたかった。
しかし、コレクションに出る代償として、膨大な時間と意識が持っていかれてしまう。社内の体制がなかなか整わない中で、「今は外に目を向けている場合じゃない」との考えに至り、4回目の出展は辞退しました。
こうした段階で、ミラノ・コレクションに出ることが自分にとってはベストではないと思ったからです。しかし、将来、私も会社もさらなる成長を遂げた時にまた出られたら、これまでとは違う何かを得られるのではと考えています。
やりたいことが見つからなくても…
――28歳でRe.museを立ち上げるなど、勝さんはやりたいことを見つけられました。一方、telling,読者の中には「やりたいことが見つからない」という人もいます。
勝: 一生をかけてやりたいことは、そんな簡単には見つからないと思います。だから、やりたいことが見つかっていなくても、焦る必要は全くないです。
私は元々、体が弱くて病気がちでした。そして起業前も後も、酸いも甘いも経験してきました。ただ、今では「これまでの人生は全てRe.muse をするためにあった」と思っています。
――いつかは、やりたいことに出会うことができる?
勝: はい。最近は“今が良ければいい”という感覚の人が多いと感じています。未来が不透明なので、その考えも一理あると思います。ただ「良い」と「満足している」は違います。今に満足できていない人が、未来にやりたいことを見つけるのは、難しいと考えています。
満足していない人には、「今、していることは本当にやりたいこと?」と、自分への問いかけの数をとにかく増やすことを、おすすめします。
そして、やりたいことを見つけるために、目の前の仕事や業務に対してまずは全力になってください。全力でやると、自分が得意とする3つ、いわばトップ3が見つかるはずです。そのトップ3について、これまでより力を入れて取り組んでみる。そうすると、自分のトップ1、つまり“1番できること”が見えてきます。
できることが見つかれば、やりたいことも自然と……。それが、“夢のしっぽ”の始まりです。しっぽが見えたら、離さず、引っ張り続けてほしい。すると、“胴体”がズズズって出てきます。
――勝さんも「しっぽ」をつかみ、「胴体」を手にされた。
勝: そうですね。私は服が好きで、短大卒業後はアパレルで働きました。事務仕事は苦手でしたが、服を一生懸命に売ることで、ものすごく販売力が上がるなど結果がついてきました。すると、自分の承認欲求が満たされて、「やりがい」が「やりたいこと」に変わっていったのです。
やりたいことへの感覚も研ぎ澄まされていき、「スタイリストやテーラーもやってみよう」などと広がりました。
目の前のことを全力でやり、好き嫌いを明確にしていくこと。そうすれば、自分のやりたいことは明確に見えてくると思いますよ。
●勝友美(かつ・ともみ)さんのプロフィール
1985年、兵庫県宝塚市出身。短期大学卒業後、アパレルメーカーの販売員を務め、入社初日にトップセールスを記録。2013年に独立し、オーダーメイドスーツ店、Re.museを創業。2018年から3度にわたり、テーラー業界では日本初となるミラノ・コレクションに出展。自身の経験をもとに、YouTubeやオンラインサロンを通じ、夢を実現する人に向けた配信も行っている。