土屋アンナさんが語るロックな生き方「失敗しないと分からないことがある」

歌手やモデル、俳優として活躍する土屋アンナさん(37)。来月開かれる、社会課題の解決やボランティア活動などに取り組む国内外の若者たちを応援するイベント「Change Makers Fes2022」のスペシャルアンバサダーに就任しました。これからの社会で“チェンジメーカー”となる若者たちにどんな期待を込めているのでしょうか。仕事に恋に4人の子どもの子育てに、全力投球する土屋アンナさんの歩みから、失敗を恐れない「ロック」な生き方について伺いました。
土屋アンナさん「恋愛って考えちゃいけない」結婚3度の経験から伝えたい 【画像】土屋アンナさんの撮り下ろし写真

世の中を変える若者を育てよう

「Change Makers Fes」は25歳以下の若者たちに様々な社会課題に対してアクションを起こすきっかけにしてもらおうと、2007年にカナダでスタート。日本では昨年初めて開かれました。アンナさんは昨年に続いて今回もアンバサダーを務め、スペシャルパフォーマンスなどを予定されています。

――若者の中から社会を変える“チェンジメーカー”を育てるのは、これからの世の中にとって重要なことですね。

土屋アンナ: そうなんです。日本では、大人から見て「危ないな」という可能性が1ミリでもあると、「止めておこう」とシャッターを下ろしがち。今回のイベントでは、現実的な可能性はさておいて、子どもや若者たちが“こうやりたいっていう思い”を伝えるのが目的です。「勢い」って本当はとても大事。聞いた大人たちが、現実化させるためにはどうするか、ブラッシュアップさせることが必要だなと思うんです。

若者には本来すごい夢や力強さがあるし、行動力もあります。やってみればできるんじゃないかって思えるから、このイベントは素敵だなと思うし協力したい。これから先の世の中がいい状態になるために、彼らの気持ちを現実にしてあげなきゃいけない。自分も子どもがいるからより、そう思います。
もし30年後40年後に海が真っ黒になるんだったら、ストップさせなくちゃ。次の世代のためにいいものを残していく環境を作るのが我々大人の仕事なんじゃない?

昨年もアンバサダーを務めたのですが、みんな目がキラキラしていた。イベントでは「今日ごみを1個拾ったんだ」っていう小さなことでも社会に貢献したら、称えてくれるんです。普段はあんまり褒められたことがない子でも、「偉いね」っていう言葉で自分の存在価値があったんだと思えて、それが広がっていく。人のため、住んでる場所のために何かすることがどれだけいいことなのかも実感できるフェスなんです。

――若者の間では、自分が社会に参加したところで何も変わらないと思う「あきらめムード」が広がっているとも言われます。

土屋: 寂しいことですよね。でも私もそう思うところがあります。政治だって、そんなすぐには変わらないことばかり。「投票に行かないと変わらない」って選挙に行かない若者が叩かれるけど、投票できない気持ちも分かる。だって原因が何だか、誰が悪いのかとか簡単には分からないもん。

でも視点はそこではなくて、人と人とが支え合うところに置くべきだと思う。まずは一人ひとりがSDGsの活動とかに参加することの方が大切だと思う。もっと身近でできることがある。それを重ねていったら入り口が見つかるんじゃないかな。ゴミ拾いか、汚染水問題の解決だったら、私はゴミ拾いが先でいいと思うんです。みんなが参加していったら1つの大きなものになって、そのうち政治も社会も変わっていくと思う。

「自分は心臓、血管は人脈」祖父の教え

――ご自身は、これがきっかけで少し考え方が変わったなという出来事や経験はありますか。

土屋: 何かひとつの出来事というよりも、私にとっては祖父の存在が大きかったかもしれない。私は15、6歳の頃は髪の毛はピンクだし、革ジャンを着てピアスを開けてアクセサリーをジャラジャラ付けて、見た目は「何?あの子?」みたいな感じでした。母や祖母からも「なんなの、その髪!」とか、外見についてすごく言われていました。私は「外見なんてさ」って思ってたから、あえてそういう格好をしてたのですが……。

でも、祖父だけはずっと対応が変わらなかったんです。戦争経験者で昔の考えの人のはずなのに、私がそんな恰好で帰って来ても、「おおアンナ、元気か、体調は大丈夫か、自分が元気じゃないと人を守れないからな」って言うのです。「人を外見や周囲の評判で判断しないな、私をちゃんと自身の目で見てくれているな」と思った。だから私も「自分の目」を持って生きようって。

土屋: 祖父は「お前は1つの心臓だぞ。心臓ってどうやって動いていると思う?多くの血管がつながっている。その血管というのは人脈だ。だから人を大事にしろ。自分を動かすために欠かせないし、逆に言ったら他人もそれぞれ1つの心臓だから、自分がその人の血管になれ。その人の心臓も動かしてやれ」って言ったんです。自分を大事にしろ、自分の目で見て、自分の判断で動いていて、そして人を助けろ、人に助けられろ、とも言っていた。そこからすごく深く色々と物事を考えるようになりました。

よく私は、強いとか、サバサバしてるとか言われるし、結婚も出産も思い切ってやっちゃってるイメージを持たれてていると思うんだけど、それは多分、「自分にとって今は、これ!」っていうのだけを信じて生きてるから。人からどう言われようが、「いやいや自分の人生だから」って。それでも、関わる人を突っぱねるのではなく、助けてもらうし助けるしっていうのは、祖父の言葉からですね。

30代、「闘う相手」は自分自身

14歳で芸能界デビュー。モデルとして雑誌やファッションショー、CMなどに出演後、映画「下妻物語」で俳優として数々の賞を受賞。歌手としてもライブの開催やCDをリリースするなど、多方面にわたって活躍してきました。プライベートでは3度結婚して2度離婚、4児を出産して、元夫との死別も経験されています。

――アンナさんのそうした「ロック」な姿勢が共感を呼び、若い世代のカリスマ的存在です。いま37歳ですが、濃い人生ですね。

土屋: 全然カリスマではないのですが、みんなに「詰まってるよね」とはよく言われます。周りが私を「ロック」にしてくるんですよ(笑)。10代の時から色々な人のことを見るのが大好きで、人を好きになったり嫌いになったりという闘いを繰り返していくうちに、闘い方が少しずつ分かってきた感じがします。昔は見た目も態度も「闘うぞ!」っていう鎧を付け、周囲と闘っていたのかなと思います。今はその相手は周りではなく、自分に切り替わっています。日々、色々な人から教えてもらったり、人の生き死にを見たりして、少しずつ変わってきました。

小さい種が成長し、次第に太い木になり皮も厚くなるように、私もいろいろな人と出会って別れて、20代の時よりも30代になって太くなった。10年間の厚みってすごい。だからあと30年後くらいにまたインタビューしてください!

――30代を一つの節目と考える人もいます。キャリアや結婚などについて、土屋さんは30代になって考え方が変わりましたか?

土屋: 私、自分の年すら正確に覚えてないぐらい。だから年齢なんて関係ないと思う。そもそも数字がきらいだし、何歳とかもう知らなくていい。私は次28だっけ、いや、違う、38だって感じ。ただ子どもを産むとなると、高年齢出産によるリスクなどの話になるから、多分みんな、早く早くと焦るのだと思う。

失敗しないと分からないことがある

――迷ったり、慎重になって一歩が踏み出せなかったりという経験はありますか。

土屋: 私は1回踏み出しちゃって、ダメならダメでOK、じゃあ次っていうタイプ。だってまだ人生長いじゃん、失敗しても大丈夫っていう考えです。恋愛だって、いいヤツかな、悪いヤツかなって、もちろん思いますけどダメだったら次って。いろいろな意味で、何事も終わりということはなく、何かしらの方法があるはずだと思っています。もちろん本当に迷ったときは1回ちょっと止まろうかなって思うこともあるけど、人に言われてジャッジすると絶対後悔するので、自分の意思で踏み出して、失敗したら「あーあ、やっちゃった」っていうだけ。

失敗をみんな恐れ過ぎているけれど、失敗しないと分からないことだってある。失敗しないですべてうまくできる人なんているの?って逆に聞きたい。転んだら痛いんだって分かることは大事。恋愛とかって分からないから、みんな怖がっちゃうけれど。母には「何回失敗してんのよ」と文句を言われています(笑)。「かわいい子どもがたくさんいて幸せでしょ」って返していますが。失敗を笑いに変えるのは大事かも。そして、笑ってくれる人がそばにいてくれることも大切なのかもしれない。我が家ではみんなが私の失敗を笑うもん。

――失敗して立ち直る時は、大変なエネルギーが必要ですよね。どうやってアンナさんは立ち直ったり、次へというエネルギーを貯めたりしているのですか?

土屋: 今度は祖母の話になるんですが、2011年の東日本大震災の日に、「おばあちゃん、地震は大丈夫?」って祖母に聞いたら、「戦争を経験してる私に何を聞いてるのよ」と言われたのです。祖母は7歳のときに家族全員を戦争で失っているんです。みんな大変な思いをしながら、生きている。だから私も色んなことを乗り越えなきゃいけないんだ、と思うようになりました。

――波乱万丈な人生を生きているアンナさんの言葉だけに、深いです。 

土屋: 私なんて、まだまだ全然ですよ。元夫である息子の父親と死別した時も、めちゃくちゃ落ち込みました。息子にとっては初めての「死」。人の死というのは最終的な、その形が記憶に残っちゃうから。ただ、これも祖母の話なのですが、祖父が亡くなった時、祖母は祖父の顔をなでながら「お疲れさん」って言ったんですよ。あの時の祖母はカッコいいなって思った。

死に遭遇した時は「こうでなきゃいけないな」って思って。泣いてもいい、わめいてもいいけれど、最後は自分の精神を保って、「お疲れさん」って言える人になりたいなって思う。元旦那の死の時は、若かったから何が何だか分からなかった。でも経験して、こういうことも現実に起こっちゃうのね、っていう波を何とか越えることができた。「さあここからだ、ここからの方が大変なんだ」と思うようになりました。

土屋アンナさん「恋愛って考えちゃいけない」結婚3度の経験から伝えたい 【画像】土屋アンナさんの撮り下ろし写真

●土屋アンナさんのプロフィール

1998年デビュー。モデルとして雑誌やファッションショー、CM、テレビ番組に出演。俳優として映画「下妻物語」で数々の賞を受賞。2019年には出演した映画「DINER」での演技が話題になった。歌手としても各地でライブを開催、2021年にはAmazon Prime Videoの音楽推理エンターテインメント番組「THE MASKED SINGER」でゴールデンマスクドシンガーに。このほかテレビ番組でコメンテーターを務めるなど、多方面で活躍中。2022年11月には歌手デビュー20周年を迎える。

●Change Makers Fes2022 オンラインパーティー
 ~誰かのために動く、キミのための日~

■内容:著名人からのメッセージ・パフォーマンス、アクションを起こした子ども達の交流
■対象:SDGsの目標として掲げられている国内外の社会課題に対し、何らかのアクションを起こし、今後も引き続き活動する予定の25才以下の若者や子ども
■募集人数:100名程度(先着)
■開催予定日:2022年3月19日(土) 15:00-16:30
■応募締め切り:3月6日(日)
主催:特定非営利活動法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン
https://ftcj.org/changemakersfes

telling,編集長。朝日新聞、AERAなどで記者として教育や文化、メディア、ファッションなどを幅広く取材/執筆。教育媒体「朝日新聞EduA」の創刊編集長などを経て現職。TBS「news23」のゲストコメンテーターも務める。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。