COHINA代表・田中絢子さん「悩みの中にこそ、チャンスがある」小柄女性向けブランドにかける思い
現在、ファッションブランドCOHINAの代表兼ディレクターをしています。
私の身長は148センチ。他の人に比べて小柄で、着られるお洋服がほとんど無いことが、ずっと悩みでした。普通サイズの服を着ると襟元が大きく開きすぎるし、肩周りもドロップショルダーになってしまう。丈も長過ぎるから、どうしても服に“着られてる”感じになってしまうんです。
ファッションを楽しみたくても、身長が低いという“自分ではどうしようもない条件”の制約がある。デパートでの買い物は“着たい服”じゃなくて、“着られる服”を見つける作業になっていました。
市場に無いなら自分たちでお洋服を作ってみようと思い2018年、COHINAを立ち上げたんです。
サイズもテイストも、探すのが大変だった
おしゃれに興味を持ち始めたのは中学1年の頃で、メイクやファッションが大好きな女の子でした。でも、学年が上がるにつれ、自分の世代を対象とした服と、着られる服にズレを感じるようになったんです。
身体に合わないので、キッズ用の服を買いに行くしかありませんでした。いまの小学校6年生の平均身長が150センチくらいで私とほぼ同じなので、着る服は11~12歳向けのもの。着ている服のタグにある「キッズ」の表記を見られて、恥ずかしい思いをしたこともあります。
大学生になってからは、サイズはもちろん、テイストにも違和感を抱くようになりました。キレイ目で大人っぽい服が着たくても、店員さんが勧めてくるのは可愛らしいお洋服ばかり。
当時はカジュアルな服が流行り始めた時期。オーバーサイズシルエットも人気を集めていました。ダボッとしたサイズの服やメンズパーカーをあえて着るファッションで、世の中の服がどんどん大きくなっていっちゃった。小柄女性が苦労する時代の始まりでした。
“まだないもの”を作りたくなった
大学時代は、インターンやボランティアで海外に行くなどアクティブに過ごしました。そして友達と一緒に立ち上げた学生団体で、フィリピンの女の子に夢を語ってもらう「ミスドリームコンテスト」というイベントを始めたんです。
出場する女の子にはメイクやドレスアップをしたうえで、歌やダンスを披露し、自分の将来の夢についてのスピーチもしてもらう。イベント自体は1日でしたが、3カ月くらいかけて準備しました。
その中で目の当たりにしたのが、女の子たちの顔つきがどんどん変わっていく様子。「こんな経験したのは初めて」って喜んでくれて、「もっとこうなりたい」と前向きな感情が出てくる。
彼女たちのキラキラした表情が印象的でした。
大学4年の頃の就職活動では、憧れの 大手IT企業から内定をもらいました。ただ、就活を通じて、“何かに参加すること”と“新しい価値を生み出すこと”の違いに気づいたんです。会社の中で本当にやりたいことがまだわからず、 自分の好きな領域で“まだ無いもの”を作りたくなったんですね。
当事者として私が考えられて、誰かの悩みの解決につながるようなこと――それが“やりたいこと”なんじゃないか、と。
色んな選択肢がある中で辿り着いたのは、ずっと悩んできた小柄女性向けの服作り。仲良い友達に雑談がてら話す中で、一緒にやることになりました。
「市場規模が小さすぎる」「ニッチ過ぎるのではないか」
就職活動などで知り合った社会人の先輩方に相談すると、ほとんどの人からネガティブな反応。「やっぱり難しいのかな」と思っていましたが、ある起業家の方が「一緒にやってみよう」と言ってくださったんです。
そこから一気に話が進み、COHINA は2017年10月のプレオープンを経て、翌年1月に創業。最初は新卒で入社した会社と二足のわらじで働き、後に退社してCOHINAのみに注力するようになりました。
デザイナーは自分、知り合いのお母さんが型紙起こし
アパレル関係の知り合いが全くいなかった私たち。初めは知り合いのつてを頼りに服を作るしかありませんでした。自分たちで考えたデザインを、知り合いのお母さんに型紙にしてもらって……。
中でも一番苦労したのが、生産をしてくれる工場探し。立ち上げたばかりのブランドで、素人だと知られると、途端に拒否されてしまうんです。国内工場は何十社も電話したし、ホームページから問い合わせもしましたが、全然見つかりませんでした。
大学生でも手が出せる価格帯で作ろうとすると、生産価格が高い国内工場では厳しいこともあり、早々に海外工場を探しました。
最終的に中国の工場で第1弾のセットアップを作ったのですが……シワシワでひどい仕上がり。服作りについて、当時は本当に知らないことだらけだったんです。学び始めるのが遅すぎました(笑)。
どう考えても失敗するやり方だったし、もっと怖がるべきだったかもしれない。でも、やりたいことがどんどん形になっていくことは、楽しくて仕方なかった。
仕事は山のようにあり、ギリギリで終電に乗れるか、みたいな毎日。服作りやマーケティング、経営のこと……全部、無知だったからこそ“やりたい”という自分の気持ちに純粋になれた気がします。
インスタライブは連続配信900日超
第1弾のサンプルができる前から、Instagramのアカウントを開設し、更新していました。普通は自社商品を宣伝することが多いと思いますが 、そもそも商品が無かったので「私の今日の私服」を載せたり、他ブランドのXSの着用感を紹介したり。「小柄女性にとって有益な情報を発信するアカウント」にしていました。
初めて商品ができた時はフォロワーの方々が、「ついにできたんだね!おめでとう!」と言ってくれて。まるで友達のような感覚で見守ってくれていたんです。
いまでは、「どんなことに悩んでいますか」「この商品いくらで 買いたいですか」といったことを、フォロワーさんにインスタ上で聞くことも。友達に聞くような感覚でお客さんにヒアリングができるので、商品作りにダイレクトに生きている。早々にコミュニティができたことはCOHINAの一番の財産です。
インスタライブの連続配信日数は先日、ついに900日になりました。
洋服について発信するときは、等身大。リアルな情報にするよう心がけています。
小柄女性の中には、通販で失敗した経験がある人がたくさんいるからです。「モデルさんが着てスタイル良く見えるのは 当然だけど、自分は着られない」という経験を、多くの人が 持っています。
服を着てからはもちろんですが、買うまでの過程も含めて「自分でも可愛く着こなせそう 」という思いを提供したい。イメージしやすいように、様々な身長、体形の人にモデルをやってもらっています。
インターネットが普及し、誰もが発信できる現代。高身長で 細いモデルさんよりも、リアリティーがある方が求められているように感じます。
ひと匙の“憧れ”は大切にしつつも、「みんなの“なりたいもの”をみんなで作っていこうよ」という気持ちを持って、お客さんに向き合っていきたいんです。
そんなCOHINAのモデルさんたちの中には、もともとお客さんだった人も。応募してくれるのは、アパレル関係や芸能関係に進みたかったけど、体型 を理由に諦めた人たち。その人たちが輝く場にもなっています。
やりたいのは、自信を持つきっかけづくり
私たちって何かを見て「可愛い」と感じたり、「こうなりたい」って憧れたりしますよね。好きなものに近づきたいし、自分のことをもっと好きになりたい。
でも、小柄というだけで世の中の美の基準からは外れてしまう。私も学生の頃は、長身でおしゃれを楽しんでいる周りの友達がうらやましかった。卑屈になるようなことは無かったけど、あの頃は、「なりたい自分」を当たり前のように諦めていて、ジワジワと心が死んでいくような感覚がありました。
だからこそ服作りを通して、自信を持つきっかけを提供したいのかもしれない。思い返せば、中高時代はミュージカルをやる部活で衣装の担当をしていました。人に似合うものを提案し、その衣装を着た人の表情が輝く瞬間が、すごく好きだった。そして「ミスドリームコンテスト」の経験――。
自信を持つきっかけさえあれば、人は大きく変われる。生きていくうえで糧になるような“経験”にこそ、価値がある。それをつくってくれるのが、メイクやファッションの力です。
その軸は、COHINAを立ち上げてからも生きています。
お客さんの中には、「おしゃれが楽しいと初めて思えました」とか「プロポーズや入籍、両親への挨拶の日は全てCOHINAの服でした」と聞かせてくれる人もいるんです。
おしゃれが楽しくなると、些細な日常がキラキラし始めて、愛おしくなる。“たかが服”かもしれないけど、私たち小柄女性は、自分を何度も諦めてきてるから……卑屈にならなくて済むというだけで、前向きになれるんです。
着るだけで人生がパッと明るくなって、小柄女性自身が主役になれる。そんな服を、今後も作っていきたいです。
悩みにこそ、チャンスがある
昔は「世の中にフィットしない自分が悪いんだ」と思っていた時もありました。でも今は、高い身長に生まれ変わりたいと思いません。
身長が高かったらCOHINAはできていないし、COHINAがない人生は考えられない。小柄なこと自体、人と違う「いい味」って今は思えています。
悩んだり傷ついたりしてきたからこそ、同じ痛みを持った者同士で共感し合える。そうやってつながれるのが人間であり、人生の面白さだと感じます。
そして、悩みの中にこそ、チャンスがある。世の中が便利になるにつれ、不自由なことは少なくなってきていますよね。例えば移動も便利になったし、住み方だって自由になっている。多くの人が感じる悩みに対する解決策は、どんどん出てきている。
「次の課題はなんだろう」「新しい価値をどう提供していこうか」などと考える際には、自分ならではの着眼点や実体験が大事なんじゃないかな。
ニッチな悩みだとしても、新たな価値をつくることが、誰かの大きな勇気や希望になるかもしれない。「自分だけ」と思わずに、「これ、私だけじゃないよね」と次の一歩につなげていけば、コンプレックスが新たな価値を生む可能性もあるのです。
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