年を取るのは怖いこと?「若く美しくなくても、私のアイデンティティは残り続ける」プラスサイズモデル藤井美穂さんに聞く“自信の鍛え方”(後編)

身長163センチ、体重80キロ。女優でありコメディアンであり「プラスサイズモデル」としても活躍中の藤井美穂さんは、これまで周りからの「ブス」「デブ」という心ない言葉に傷いてきたと言います。自己肯定感が低かった10代を経て、現在暮らしている米国ロサンゼルスの太陽のように明るくパワフルな女性へと変わった藤井さんに、自信の取り戻し方を聞きました。

親と考え方が変わることの怖さ

――2018年頃から、平均よりも身長と体重のある「プラスサイズモデル」の活動をされていますが、周りの反応はどうでしたか。

藤井: 親からは「恥ずかしい」と言われました。体が大きい娘が何をしているんだ、という抵抗があったのだと思います。私のインスタグラムのフォロワー数が増えていっても、「(ぽっちゃりした人が好きな)マニアしか見ない」と言われました。

以前だったら、その言葉に傷つき、もしかしたらプラスサイズモデルを辞めていたかもしれません。でもその頃は、「自分のことが嫌い」という気持ちと、「自分のことを好きになりたい」と思う気持ちの中間にいました。

親とプラスサイズモデルのことを腹を割って話した時、私は泣きながら「この仕事に使命を感じているし、自分が信じていることを貫く」と訴えました。

その後、Twitterのフォロワー数も増え、メディアへの露出も多くなり、親も私がしていることと、私が変わったことを認めてくれるようになりました。

親に理解してもらったことがうれしい一方、親と考え方が異なることに「怖さ」も感じました。親と自分の距離が遠くなってしまうのが間違ったことのような気がして。でも、落ち着いて考えてみたら、まず親子と言えど私たちは違う人間。考え方が異なることは悪ではないと思いました。お互いに考え方が変わるのは仕方がないことだと。
そして、その親子にあった距離感がそれぞれあっていいとも思うようになりました。
いくら親子でも、別の人格です。たとえ親と考え方が違っていたとしても、自分の道を進もうと決めました。

――藤井さんは以前いじめられていた経験もあると前半のインタビューでもうかがいました。自分に自信がなかった頃から、どのようにして自分の価値に気づいていったのですか?

藤井: アメリカへ渡ったという環境の変化は大きかったです。英語を話している時は自然と自信をもって話せます。それは、英語で過ごした時間の中に自分の自尊心が傷つく思い出が少ないからかもしれません。

自分に自信がないのは、脳のクセもひとつの要因だと思っています。脳が無意識に「でも」という否定的な言葉を発しているんですよね。それに気づいていませんでした。

以前こんなことがありました。アメリカで日本人のパーティーに参加して、日本人男性と話していた時のことです。近くに女性がいるのを見た時、突然脳内で「この人はこのかわいい人と話したいのだから、かわいくないお前は黙れ!」とナレーションが流れたんです。

その時、とっさに「うわ!気持ち悪い!」って思いました。勝手に流れた脳内の声に気づいて、それを否定できましたが、昔はその声に従っていたのだなと感じました。
日本語で話していたからそれがよみがえってきたのですが、英語も話すようになった今、日本語の頭を客観視することができ、気持ち悪いと思えました。
そして、過去の私がどれだけ自分のことを好きになってはいけないと自分でブレーキをかけていたかに気づかされました。

幸せになるために、他人は関係ない

――藤井さんは2018年にアメリカ人の男性と結婚されていますよね。なれそめを聞いてもいいですか?

藤井: アメリカに来て働き始めた時、上司のパシリでよくコーヒーを買いに行っていました。夫はそのコーヒーショップのバリスタで、なぜか毎回私にタダでコーヒーをくれるんです。
まぁ私のコーヒーじゃないんで、得してたのは上司だったんですけど(笑)
1年間、店員と客という関係性でしたが、ある日、軽い気持ちで連絡先を渡しました。そこからやり取りをするようになり、「この人はいい人だ」ということがわかりました。初めて2人で食事に行った際、会って30分で「私はこの人と結婚する」ってわかりました。直感は当たり、2年の交際を経て結婚しました。

――その直感、すごいですね!

藤井: 私は自分のことを魔女なのかもしれないと思っています(笑)。それほど直感がよく当たります。何事も第一印象で決めることが多く、「これは良い」、「これはダメ」というのがわかってしまうんですね。

直感で結婚したと言ったら驚くかもしれませんが、結婚の動機もスタイルもさまざまだと思います。何より、「結婚=幸せ」ではありません。どうしたら幸せになるか、それは自分で自分のことを幸せにすること以外に道はないです。幸せになるためには、本来他人は関係ないと思っています。

自分で決断することは怖くない

――結婚について、ご両親は何か言われていましたか?

藤井: 結婚については、最初親は反対しましたが、最終的には認めてくれました。実は、これまで生きてきた中で、親が私のことで何かを決めたことは一度もないんです。

例えば習い事に関しては、「これがしたい」と言ったら全部やらせてくれました。「さすがにこれは無理だろう」と思うことでさえ、二つ返事でOKしてくれる。それは本当にありがたいことだと思っています。

自分で決めたことが結果的にうまくいかなかったとしても、人のせいにはできません。全責任は自分にあります。これまで全部自分で決断をしてきたので、自分で何かを決めることはそれほど怖くないんです。

――「これは無理」と思ったことは、どんなことだったのですか?

藤井: 短大卒業後に、「留学したい」と言いました。それはさすがに無理と言われると思ったのですが、応援してくれました。その時、父親から「遺産は墓場に持っていけない。美穂の教養として残った方がいい」と言われたんです。その言葉は今でも印象深く心に残っています。

「年を取ることに恐怖はありません」

――telling,では「29歳問題」といって、「30歳までに○○」しないといけないというアラサー女性の気持ちを取り上げる企画をしています。藤井さんは、年齢に対する焦りを感じたことはありますか?

藤井: 「若さ」以外に、自分の価値を見出せていないと、30歳を超して歳を重ねていくことは辛いことだろうなと想像します。私は小さい頃からずっと「ブス」「デブ」と言われてきたので、何か取り柄を作らないといけないと思い「おもしろさ」を追求しました。

そこで始めたのがコメディでした。今では、人前に立って英語でコメディをできるほどになりましたが、当時は自分の価値を生み出すために必死でした。

人間としての価値は、若さだけではないと思っています。年を取ることに恐怖はありません。若くてなくても、世の人の思うような典型的な美しさがなくても、私のアイデンティティは残り続けるので。

――現在、本を執筆されているそうですね。どんな人に読んでもらいたいと思いますか?

藤井: 過去の私のように、自信がなかったり、自分自身を変えたいと思ったりしている人に、染み込みやすい内容になっています。もちろん、自己肯定感が高い人に読んでもらって、「こんな人がいるんだ」と、さまざまな生き方もあることを知ってもらえたらうれしいです。

自信は筋肉と同じ「鍛える」もの

――自己肯定感の低さや、自信のなさにもがき苦しんでいる同世代に向けて、最後にメッセージをお願いします。

藤井: まずは行動してみること。「自信をつけたい」と思っても、自信は自動的に降ったり湧いたりしてきません。成功体験を増やさないと、自信はつきにくいと思っています。だからとりあえず「やる」。

自信は筋肉と同じです。筋トレをして、筋肉痛があって初めて筋肉がつきます。「筋肉痛」ばかりだとしんどいので、筋肉が癒えるのを待って休憩するのも大事にしつつ、とにかく「やる」!

怖くて一歩を踏み出せない人もいると思います。踏み出すことで、失うものがあると感じるかもしれませんが、やったことで得ることの方が多いと思っています。私は実体験として、失ったのは「時間」くらい。

世界は思ったよりも広いですし、様々な価値観を持つ人がいます。学校や職場などの限定的な世界しかないと思うと苦しくなりますが、「環境を変える」というのも一つだと思います。

私には、何事も ”Do it!” という選択肢しかありません。もし、行き詰まった時は、私のような人間がいることを思い出してください。

●藤井美穂さんのプロフィール
ふじい・みほ。三重県出身。女優、コメディアン、プラスサイズモデル。現在は米国ロサンゼルスで、演技と英語の漫談をこなしている。インスタグラムのフォロワー数は7万人。自由な女性の生き方を広める活動をしている。2020年秋に初の書籍を出版予定。

同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。