ADHDと診断されて、葉っぱ切り絵アーティストに。リトさん「自分が短所だと思っていることに、その人の強みが隠れている」

「見ているだけで癒やされる」とInstagramで人気の葉っぱ切り絵アーティストのリトさん。会社員時代、周りの人が普通にできることができず、モヤモヤ悩んでいることが多かったと言います。ある時、病院でADHDと診断され、退職。その後、さまざまなことを模索する中で葉っぱ切り絵と出会います。後編では、会社員時代のこと、障害のこと、これからの目標を聞きました。

会社員時代は毎日が怖かった

――リトさんは葉っぱ切り絵アーティストになる前は、会社員だったこともあるそうですね。前編では、「将来は安定した企業に入って、平社員のままで終わるんだろうと思っていた」とお話しされていましたが、実際に会社員として働いてみて、何を感じましたか?

リトさん(以下、リト): ただ目の前の与えられたものをこなしていく感じでした。役割を与えられているからやらなければいけない義務感でやっていたというか、仕事を楽しむ余裕はなかったですね。お給料をもらっている以上は、言われたことはやらなきゃいけないという感覚。

毎日、とにかく明日が怖かったんです。朝起きて、職場に行って、「おはようございます」と言った瞬間にあたりを見回して、昨日と何かが変わっていないか、びくびくしていました。休み明けに出勤すると、物の配置が急に変わっていたりすることがよくあるんです。そういうことが少しでもあると、何か起きたのかとすごく怖くて。

――どの程度の変化で、そう感じていたのですか?

リト: 僕は調理の仕事をしていたのですが、包丁がいつもの場所になかったり、ルールが細かく変更されていたりすることがあって、それを休み明けに知るとドキドキしてしまいます。

みんなは物の配置ぐらいというけれど、僕はちょっとでも変わると不安になってしまう。だから、同じ業務内容でも、異動や応援で違う店舗に行くのは、すべてが違うのでとにかく怖い。それに、今日は何で怒られるんだろうと気にしてばかりいました。

「小さい秋、見つけた」『いつでも君のそばにいる』(講談社)より

――仕事は丁寧だけど「遅い」と怒られていたそうですね。

リト: できるだけ急いでいるつもりなのですが、売り上げに関係ないところまで丁寧に作業してしまって。例えば、仕込みでゆで卵を切る時も、律義に等分に切ろうとする。でも、先輩を見ていると意外と適当なんです。「適当でいいんだよ」と言われて、適当にやろうとすると、今度は逆に適当すぎて、怒られてしまう。50%ぐらいの力を出すというのが僕にはできない。没頭すると100%になるし、手を抜くと0%になってしまいます。それを理解してもらえず、相当怒られました。

――なぜみんなができることができないんだろう、と悩みましたか?

リト: 悩みました。あの人は適当なのに毎日普通に仕事ができて、僕は真面目にやろうとしてるのに、なぜ怒られなきゃいけないんだって。

――そのとき、仕事を辞めたいと思ってましたか?

リト: たまにちらつくことはあったのですが、辞めて何をするか決まっていなくて。それに、また履歴書を書いて、何度も面接を受けることを考えると、その方が怖かったですね。それだったら、明日もガマンして仕事に行った方がマシだと。こんなに何もできない僕でもここにいさせてもらえているのだから、感謝しないと、という感覚もありました。

ADHDだと診断されて、解放感があった

――その後、病院でADHDだと診断されたそうですが、病院へ行くという一歩を踏み出そうと思ったのはなぜですか?

リト: なぜ僕はこんなにできないんだと、自分の中でモヤモヤしていたんです。僕には弟がいるのですが、弟は何でも飄々とこなすし、きっぱりと言えるタイプ。僕は常に周りをびくびく見ているタイプなので、余計に弟と比べて自分を責めていました。

ある時、「発達障害」という言葉を知って、僕はこれなのではないかと気づき、病院に行くことを決心しました。障害があったからできなかったんだ、自分のせいではなかったんだと言ってもらえた気がして、診断後は今までの肩の荷がすべて下りたような解放感がありました。

――それで仕事辞めるという決断をされたのですね。

リト: 仕事を辞める口実ができたと思って。障害があると言えば誰も止められないですよね。それで思い切って辞めることに決めました。

――会社を辞めて、アーティストとしてやっていこうと決めるまで、どのような変遷があったのですか?

リト: 障害者雇用枠に応募するために、障害者手帳を申請しました。実際、ハローワークに障害者用の窓口があるので、求人を見たのですが、あまりに少なくてびっくりしてしまって……。条件をできるだけ入れずに検索しても20件ほど。僕の人生、このなかの選択肢しかないんだと思った瞬間、絶望しました。

そこで、SNSを使って、ADHDについて情報や自分の悩みなどを発信することで、そこを就活の場にしようと思いつきました。とにかく仕事を見つけなくてはと必死でした。

――そこで何か進展はありましたか?

リト: その後、区役所で教えてもらった、若者サポートステーションにも行ってみました。そこでは、マナー講座とか、エクセルやワードなどの授業が無料で受けられます。授業では毎回課題が出るのですが、時間が余ってしまい、プリントの余白に小さな落書きしていた時、ふと、これを大きな紙にびっしり描いたらおもしろいかもとアイディアが降ってきました。

結局、これがアーティストへの入り口になったのだから不思議ですよね。

「バス、まだかな…?」/『いつでも君のそばにいる』(講談社)より

無理して普通になろうとするのが一番ムダ

――「短所だと思っていたことが長所だった」というリトさんの言葉が印象的です。日々、さまざまなことで悩んでる人たちに、今までの経験からどんな言葉をかけたいですか?

リト: 誰でも人と違うことに悩みますよね。ところが、少し視点を変えてみると、ほかの人にとっては、その違いがうらやましいことだったりもします。

例えば、思ったことを全部言ってしまう人は、僕みたいなタイプからすると、思ったことを口に出せてうらやましいんです。自分が短所だと思っていることに、その人の強みが隠れていると思うのです。無理してみんなに合わせるのではなく、違うところを伸ばすと意外と新しい道が見つかるかもしれない。

僕も仕事を丁寧にしすぎて怒られていましたが、おおざっぱにやる練習をするよりも、丁寧にすることを磨く方が、自分が成長する圧倒的な近道だと気づいたんです。

――長所ばかりでなく、自分の欠点をもう一度思い出してみることも大切ですね。

リト: 自分の弱いところって何だろうと、書き出してみるといいかもしれません。当たり前に自分に備わっているものこそが、本当の武器で、それは人が持っていないもの。コンプレックスに感じるものにこそ強みがあり、むしろ長所になるのです。

――一方で、みんなと同じ、普通である方が楽だという考え方もありますね。

リト: 僕も障害がわかってから、「普通って何だろう」とさまざまな視点で勉強をしました。そうしたら、今まで見えなかった世の中の人間のタイプがいろいろ見えてきました。人の話をあまり聞かない母とか、ちょっとしたことですぐムッとする父とか、いろんなところにその人の凹凸があります。それぞれ違って、世の中には普通な人なんていません。だから、普通になろうとするのが一番ムダなことだと思いますよ。

「キリンの保育園」『いつでも君のそばにいる』(講談社)より

日本だけでなく海外のファンとも交流したい

――最後に、これからどんなことにチャレンジしていきたいですか?

リト: 実は葉っぱ切り絵を始めて、まだ1年半しか経っていません。急なスピードで作品集が出て、個展を開くことができました。僕の最初の目標が、作品集を出すことと個展をやることだったので、あっという間に夢が叶ってしまいました。

Instagramに寄せられるみなさんのコメントを毎日必ず見るのですが、いろいろな地域の方が個展の開催を待っていてくださるので、その声に応えるのが今後の目標。そのために、まずは継続してやり続けること、そして海外にも行きたいです。

――リトさんには海外のファンも多いですね。

リト: 海外のファンの方とも交流したいですし、日本にはない葉っぱが世界中にはたくさんあるので、それを使ってみたいですね。僕の作品は、言語が違っても伝わるので、海外の方が実物を見てどんな反応をするのか気になります。そう考えると、やりたいことばかりです。そのためには、今日も家に帰ったら作品を作らないと……(笑)。

 

■リト@葉っぱ切り絵さんのプロフィール
1986年、神奈川県生まれ。自身のADHDによる偏った集中力やこだわりを前向きに生かすために、2020 年より独学で制作をスタート。Instagram、Twitter に毎日のように投稿する葉っぱ切り絵が注目を集める。その作品は、「あさイチ」(NHK)、「王様のブランチ」(TBS)といったTV 番組や新聞など国内メディアで続々と紹介されるほか、米国、英国、イタリア、フランス、ドイツ、ロシア、イラン、タイ、インド、台湾など、世界各国のネットメディアでも、驚きをもって取り上げられる。個展で販売される作品も、毎回即完売する人気。
Instagram @lito_leafart 

葉っぱ切り絵アーティスト・リトさん「見る人それぞれの想像力が、僕の作品の世界を広げてくれる」

●『いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』

著者:リト@葉っぱ切り絵
発行:講談社
価格:1,430円(税込)

telling, 編集長。女性誌編集、WEBディレクター、PR、フリーランス編集・ライターを経て、2020年3月より現職。年間70回以上コンサートに通うクラオタ。国内外のコレクションをチェックするのも好き。美容に命とお金をかけている。