葉っぱ切り絵アーティスト・リトさん「見る人それぞれの想像力が、僕の作品の世界を広げてくれる」
夢らしい夢もなかった子どもの頃
――リトさんの作品の世界観には、性別を感じさせないアーティストネームがぴったりです。「リト」という名前に由来はあるのですか?
リトさん(以下、リト): 実はそんなに深い意味はなくて(笑)。僕は昔からゲームが好きで、ゲームの時に使っていた名前の一部からつけた名前なんです。本名だと少し固くなってしまう。「リト」という語感が持つイメージや親しみやすさも気に入っています。
――作品を拝見して、リトさんはどんな子ども時代を過ごしたのだろう、と興味を持ちました。
リト: 僕は子どもの頃から運動がすごく苦手で、みんなでサッカーをやるよりは、家にこもって友達と対戦ゲームをやったり、弟と遊んだりするほうが好きでした。本やマンガもよく読んでいましたね。性格は穏やかで、ケンカもしなかったし、クラスでも真ん中に立って目立つタイプではありませんでした。みんなを引っ張っていくよりは、後ろからついていくほうが性に合っているのかも。将来は安定した企業に入って、給料をもらって、出世欲もなく平社員のままで終わるんだろうと思っていたぐらい、夢らしい夢もなかったです。
――やはり昔から、図工や美術は得意でしたか?
リト: 図工は好きでしたが、絵は得意ではありませんでした。よく、子どもの頃に何か特別なことをやっていたのか聞かれるのですが、特にはありません。どちらかというと、人に胸を張って言えるものがないんです。あえて言うなら、優しくて穏やかということぐらい。ずっとふわふわと生きてきてしまいました。
発達障害の特性、過集中をいかしてアートを作る
――なぜこんなにかわいい作品が作れるのですか?
リト: これしか描けないんですよ。僕の作品には、いろいろな動物が出ているように見えますが、出てこない動物もたくさんいます。その理由は、描けないものを描かないから。人に近いかたちのサルやゴリラは難しいので描いていません。かわいい動物はどうやって描けばいいのか、絵本やイラストなどいろいろなものを見て研究しました。例えば、手足が少し短かったり、お腹がぽっこり出ていたりとか。研究していくうちに、デフォルメして描けば、絵が下手な僕でもかわいく表現できると気づいたんです。
――はじめから動物を描こうと決めていたのですか?
リト: 最初は葉っぱではなく、ノートに細かい図形をびっしり描いた作品を作っていました。びっしり描いてあるから、何となくすごい作品に見えるけれど、よく見るとひとつひとつの図形は意味のないもの。四角と三角と丸を組み合わせたUFOみたいなものだったり、ネジの形をしていたり。ひとつの図形はただの下手な絵ですが、細かくびっしり描けば作品に見えてきます。
――今とは作風は違いますが、細かいものを描くという点は共通していますね。
リト: これには理由があって、僕が作る作品は一貫して細かい作業に対して集中力を使っているんです。これは、僕が抱える発達障害の特性のひとつ、過集中というもの。この過集中をいかしてアートをつくるのを自分のパッケージにしようと決めました。方法は変えていくけれど、芯だけはぶれない。葉っぱ切り絵もそのひとつだと思っています。
――いろいろなことにチャレンジした結果、葉っぱ切り絵に出会ったのですね。
リト: たくさんチャレンジしました。葉っぱ切り絵もようやく見つけたというより、これがダメだったら違うものに変えようと思っていました。偶然にもInstagramでドカンと当たったから今があります。
最初の頃は、かわいい動物を作りたくなかった
――葉っぱ切り絵は1作目から手ごたえがあったのですか?
リト: 全くダメでした。僕の中では20点ぐらいの出来で、コメントもたったの3件。そのうちの1件は母親。実は、母は毎回作品にコメントをしてくれるんですよ。「何々がよく表現されてます」とか、上から目線で(笑)。
2020年1月から葉っぱ切り絵を始めて、ようやく当たったのが8月。この間は、作っても作ってもバズる気配がなくてつらい時期でした。
――初めてバズった作品以降は、次々といいね!が増えていったのですか?
リト: 最初に大きな反応をもらった作品は、書籍の表紙にもなっている「葉っぱのアクアリウム」。背景の青空、水槽を見ている人たちの対比など、好条件が重なったのもあって、これを超えるものがなかなか作れなくて……。そこからまた試行錯誤の日々が始まりました。
ところが、1カ月後に有名な絵本をテーマに作品を作ったら、なんと14万いいね!をいただきました。この時、葉っぱ切り絵で食べていけると確信しました。
――現在の作風に行きつくまでは、いろいろなテーマで作っていたんですね。
リト: そうですね。昔遊んでいたゲームに出てくるキャラクターや映画の有名なワンシーンなど、試行錯誤した時期が長かったですね。当時はどちらかと言うと、かわいい動物はあまり作りたくなかったんです。いかにも、かわいくて楽しい雰囲気が嫌だったのかもしれません(笑)。
――そうなんですね。それなのになぜ、かわいい動物を作ることに決めたのですか?
リト: コメントや反応を見て、ナマケモノやカメレオンなど、万人受けしないものを作ってもダメなんだと気づいたんです。僕の作りたいものや表現したいものより、みなさんが求めているものに寄り添っていくことがアーティストとしては大切なんだと。今では、それが僕らしさになっていると思っています。
タイトルは大喜利。3時間ぐらい考えることも
――小さな葉っぱで表現する物語は最初に決めるのですか?
リト: 物語は最初からは考えません。大まかな構想はあるけれど、細かく設定はしないで、なんとなく作り始めます。実は、葉っぱ切り絵ができあがってからが大変。作品を外で撮影して、その写真を見ながら、タイトルを考えます。パッと思いつくこともあれば、3時間ぐらい考え続けることもあります。まさに大喜利です。
見た人の想像に任せたいので、状況説明はしないのが僕のルール。それは、葉っぱ切り絵の世界観を作ってるのは僕ではなくて、見てくれる人の想像力だから。その想像力が、僕の作品の世界を広げてくれるんです。
――リトさんの葉っぱ切り絵は、空にかざして撮影されています。空模様と作品が一体になっていて、より想像力がかきたてられますね。
リト: 最初は白い紙の上に置いて撮っていたのですが、インスタ映えしなくて。たまたま海外のアーティストで、作品を青空に向かって撮っている人を見つけて、僕もマネしてみました。最初は青空の背景だったのですが、雲や周りの木々なども入れてから、より作品に広がりが出たと感じています。
――夕焼け空の作品もあって、空の色の変化も美しいですね。
リト: これは夕焼けを狙ったわけではなく、作品作りがかなり切迫していて……。冬は16時には外が真っ暗になってしまうので、日没ギリギリで何とか撮って、アップしたものなんです。
――自然と一体の作品だからこその苦労もあるんですね。
リト: そうなんです。自分で葉っぱ切り絵を持って空にかざして撮るのですが、ひとつひとつのキャラたちがちゃんと自立していないと、かざして撮影できないんですよ。実はそこが難しくて。自立できるか考えながらデザインしているので、すべて絶妙なバランスで立っているのも僕のこだわりのひとつ。ぜひ作品をチェックしていただきたいです(笑)。
最初の頃の作品は保管できず捨てていた
――これはすごいですよね。気づきませんでした。
リト: 何百回も失敗しましたね。こうしたら倒れてしまう、プチッと切れてしまうんだと悔しい思いを何度もすることで、確立した技術ですね。
――葉っぱがプチッと切れてしまった作品はどうなるのですか?
リト: ノリで止められるぐらいであればいいのですが、大きく取れてしまったものは、基本は失敗です。でも、作り直す時間もないので、そのキャラごと削ってしまうなど、失敗しているように見せないのもポイントですね。アリさんとか、小さい生き物はめちゃくちゃ難しいです。
――作品に使う葉っぱはどこで探してるのですか?
リト: 僕の家の周りは、比較的自然が多い場所。家から10分ぐらい歩くと山や自然公園もあるので、葉っぱ探しははかどりますね。
フレッシュな葉っぱを探してきて、グリセリンと熱湯をまぜて冷ました液体に1週間ほど浸して加工しています。この方法を教えてもらったおかげで、葉っぱ切り絵の個展ができるようになりました。それまでは、どんなにいい作品ができても、撮影したら捨ててましたから……。保管している過程でカビがはえてしまったり、今考えるともったいないですよね。
■リト@葉っぱ切り絵さんのプロフィール
1986年、神奈川県生まれ。自身のADHDによる偏った集中力やこだわりを前向きに生かすために、2020 年より独学で制作をスタート。Instagram、Twitter に毎日のように投稿する葉っぱ切り絵が注目を集める。その作品は、「あさイチ」(NHK)、「王様のブランチ」(TBS)といったTV 番組や新聞など国内メディアで続々と紹介されるほか、米国、英国、イタリア、フランス、ドイツ、ロシア、イラン、タイ、インド、台湾など、世界各国のネットメディアでも、驚きをもって取り上げられる。個展で販売される作品も、毎回即完売する人気。
Instagram @lito_leafart
●『いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』
著者:リト@葉っぱ切り絵
発行:講談社
価格:1,430円(税込)