テレ東・相内優香さん、大事なのは“やってみなはれ”の精神。「始めるのに遅すぎるということはない」
大学院と仕事の両立の日々は“想定外”
――2008年にアナウンサーとしてテレビ東京に入社されます。その理由から教えてください。
相内優香: 中学3年のとき、国語の先生からNHK杯放送コンテストへの出場を勧められ、カセットテープに「銀河鉄道の夜」を朗読して、吹き込んだんです。群馬県で上位に選ばれ、自分の声が評価されたと感じました。誇りだったし、朗読自体も楽しかった。高校に進んでからは3年連続で全国大会にも出ました。新聞部にも所属していて、「読む仕事がしたい、日常では出会えない人の話を伝えたい」との思いから、必然的にアナウンサーを志望するようになりました。
――当時、目標のアナウンサーはいらっしゃいましたか。
相内: テレビ東京の八塩圭子さん、フジテレビの八木亜希子さん(ともに現在フリー)に憧れました。八塩さんはMBAも取得されていらっしゃいますね。八木さんは私の内定後に実際にお会いする機会がありました。初対面でもふわっとした柔らかな雰囲気と言葉の温かさに心が安らぎ、感動したのを覚えています。私も人に安心感を与えられるアナウンサーになれたら、と思いましたね。
――現在はご自身もMBAを取るために早稲田ビジネススクールに通われています。入社されたとき、現在のご自身の姿の想像は?
相内: まったく想像できていません、想定外ですね。入社直後はスポーツやバラエティー番組を中心に担当していました。そして「WBS」(ワールド・ビジネス・サテライト)には2010年から今春まで携わりました。当初はまさか10年間も関わるとは思ってもいませんでした。さらに大学院に通い、モーサテのメインキャスターになるというのは――。転機はWBSの出演だと思いますが、目の前のことを一生懸命に取り組んでいたら、次の扉が開いていった、という感じですね。
長期的な目標は、自身の中に多様性を持つこと
――相内さんは、人の動きをCGキャラクターで再現したバーチャルユーチューバー(Vチューバー)相内ユウカの中の人でもあります。
相内: 最近はモーサテに集中して手が回っていなくて、ユウカがあまりいなくなっちゃっています。ごめんなさい。少し出ているのが「田村淳が豊島区池袋」という番組。番組ではこの春オープンした“バーチャル池袋”、「池袋ミラーワールド」を追いかけ続けています。「池袋ミラーワールド」では、アバター同士で偶然の出会いによるコミュニケーションができたり、イベントをしたり、買い物もできる仮想空間です。
改めて最近、感じるのはバーチャルのプラスマイナスの両面。音声SNSのClubhouseもそうですが今、仮想空間に「声」も入ってきていますよね。顔を見ずに声だけのやりとりだと、話しやすかったり、人と人との垣根が低くなったりすると思います。2017年に海外の心理学のトップジャーナルに掲載された論文には、視覚情報のない音声だけのコミュニケーションは共感精度がより高まるという実験結果も出ています。実際に、対面で「初めまして」の挨拶からの会話はなかなか弾まないですからね。
一方で、バーチャル空間上の偶然の匿名の出会いが起こり得る中で、匿名ゆえに誰かを安易に傷つけたり、傷つけられたりという問題は常に付いて回るのではないでしょうか。これからは様々な「場」で、リアルとバーチャルの双方をうまく取り入れられたらいいですね。
――先ほど入社時の目標をうかがいましたが、現在、ロールモデルとされている方は?
相内: テレビ東京では、WBSのメインキャスターの大江麻理子さんと佐々木明子さん。経済キャスターとして、お二人を尊敬しています。私はまずは経済キャスターとして一人前になる。そして長期的には自身の中に多様性を持ちたいと思っています。培ってきたアナウンサーという専門性も生かし、「声とビジネス」の関係なども大学院で研究しているので、生かしていけたらいいですね。
コロナ下でハマった植物栽培、レモンから始めて…
――プライベートの目標を教えてください。
相内: 大学院ではゼミと修士論文以外の単位は既に全て取得しました。今年度後半にかけて修士論文執筆に向けて自分の研究のデータ分析を深めていく中で、さらに仕事とも重なり合っていくのかな、と思っています。本当の意味でのプライベートは大学院と仕事で忙殺される日々を過ごしていて……。充実はしているですが、時間に追われているので、もう少し余裕を持ちたいと感じています。
――コロナで大学院もオンラインが多く、テレビ東京も在宅勤務を積極的に行っています。コロナ下での生活で新たに始められたことは?
相内: 植物を育てることに結構、ハマりまして。ベランダに設けた庭で、昨年からはレモンを育てています。今年に入ってからはレモンに加え、バジルやパセリ、なでしこも。いわゆる家庭菜園ですね。勉強をベランダでする機会も増えました。
「キャリアと家庭を分けて考える時代ではない」
――同世代のご友人の中には家庭を持たれている方も多いと思います。キャリアとの関係で、どのように考えていますか。
相内: まず、キャリアと家庭を分けて考える時代ではないと思っています。自分の立てたプランとは違う歩みも起こるかもしれないので、しなやかに、柔軟に対応していきたいですね。タイミングが来れば、結婚をして子どもを産めたらいいなとも思っています。ただ、いつになるかは分からない。だからこそ今は、自分にできることを増やし、選択肢を広げておくことが必要だと考えています。
――年齢やキャリアを重ねられ、現在は経済キャスターと大学院生を両立され、充実した生活を送られています。大切にされていることを教えてください。
相内: 私は基本的に楽観的で、知的好奇心の赴くままに、自分が楽しいか、楽しくないかを重視しています。様々な伝え方を模索するアナウンサーの仕事も、尊敬するチームで学んでいくモーサテのマクロ経済の勉強はもちろん、大学院も同級生らとのコミュニケーションが楽しいから、モチベーション高く取り組めています。大変な時も「enjoy!」と軽やかに自分に言い聞かせる(笑)。“楽しむ”ことはシンプルだけど大事なこと、とずっと思っています。
よくないのは、“した後悔”より“しなかった後悔”
――telling,読者の中には「やりたいことが見つからない」「やりたいことはあるけど踏み出せない」という人も多い印象です。一方、相内さんはMBAを取得するために大学院へ進まれました。一歩前に踏み出すために大事なことは?
相内: 限界を自分自身で決めないことですかね。大学院に行って、何かを始めるのに遅すぎるということはないと気づきました。大学院に通っているのは幅広い年齢層。コアは30代ですが、20代もいれば、40代、50代の方もいらっしゃる。何歳でも新たなことを始められるのだと、しみじみと感じています。私も勇気を持ち、大学院へ飛び込んだことで、やってみなければ分からないことがあるのだと痛感しました。
サントリーの創業者である鳥井信治郎さんの口癖だったという「やってみなはれ」という精神は本当に重要だと思いますね。“何かをした後悔”より、“しなかった後悔”の方がよくない。「大学院、大変だね」「よく仕事と両立できるね」と度々、言われます。大切なのは「やってみなはれ」。大学院進学に限らず、何かを始めると、様々な気づきが得られますから。
今は会社で働きながら副業する人も増加しています。コロナ下のリモートワークや自粛生活の中で、可処分時間も多くなり、挑戦を始めるチャンスは間違いなく増えています。だからまず、何かを始めてみる――。そこから考えていけばいいと思います。
●相内優香(あいうち・ゆうか)さんのプロフィール
1986年、群馬県生まれ。立教大学社会学部卒業後の2008年、アナウンサーとしてテレビ東京に入社。報道番組を中心に活躍。19年に『Vチューバー相内ユウカが経済ニュースわかるまで聞いちゃった。』(日本経済新聞出版社)を出版した。早稲田大学大学院経営管理研究科2年生。
■放送日時:月曜~金曜 朝5時45分~7時 5分
■相内優香さんは月曜~水曜のメインキャスター
■番組twitter:@ms_tvtokyo