AK (あえて結婚しない)女子・男子

「バイセクシャルで、アンチ結婚主義」同棲相手はいるけれど、20代女性が“あえて結婚しない”理由

ひと昔前なら「結婚=幸せ」という価値観を持つ人も多くいましたが昨今、女性の社会進出や恋愛観の多様化に伴い、あえて結婚しない「AK女子」が増えています。 2015年の国勢調査では、男女50歳時点の未婚率が女性14.9%、男性24.2%とどちらも上昇傾向にあります。あえて結婚しない人たち、その理由とは……?

●AK (あえて結婚しない)女子・男子 #09

今回話を聞いたのは、シンクタンクで働く山内ちとせさん(仮名・28歳)。これまで多くのAK女子に話を聞いてきた筆者ですが、その多くは「仕事に集中したい」「プライベートを優先したい」といった、いわば、“結婚以外に優先すべき事柄”がある人たちでした。

しかし、今回の取材対象者は、明確に「アンチ結婚」主義。社会人の傍ら、独学で結婚制度についても勉強しています。ただ、一緒に暮らしているパートナーもいるとか。結婚制度に反対しているのに同棲生活を送る理由とは?本人に話を聞きました。

 

新卒で外資系コンサルに就職

某国立大学大学院卒業後、新卒で外資系大手コンサルティングファームに就職した山内さん。しかし、「約1年半で実質的にクビになった」と振り返ります。

「外資系コンサルには“UP or OUT”と呼ばれる人事制度があります。昇進するか、さもなくば退職ということで、一定の基準以下の成績を3回連続で取ってしまうと強制的にクビになるんです。私は入社してから2回連続で基準以下を取ってしまったので、この世界は合っていないと思い、クビになる前に自主退職を申し出ました」

過酷な外資系コンサルティングファームの世界。泣きながら深夜2時にタクシーに乗って帰路についたこともあったそうです。

「就職先をコンサルティングファームにしたのは明確な動機があったわけではなく、汎用的な能力を身に着けたかったからです。ただ、やはり厳しかった。有給休暇を使った転職活動も難航し、トータル30社ほど受け、とある日系シンクタンク企業から最終的に内定をもらうことができました」

しかし、2社目でも入社早々、苦労が絶えなかったとか。

「あまりに仕事のミスが重なったので、社会人2年目で診察を受けたところ、発達障害であることがわかったんです。今では職場の一部の人に限定してADHD(注意欠陥多動性障害)をオープンにして働いています」

山内さんが留学中滞在していた学生寮

私が結婚制度に反対する理由

そんな山内さんは大学院時代からフェミニズムを学んでおり、現在も仕事の傍ら、独学で研究を続けています。きっかけは「海外に留学していたときにある」と明かします。

「数年前に留学先のアメリカで初めて結婚制度に反対している人と出会ったんです。今は、結婚制度それ自体が本質的に差別的・抑圧的だと思っています。たとえば日本をはじめ多くの国の結婚制度は現状、2人男女のカップルを優遇していて経済的、社会的に国家が異性愛を規範としています。ですが、そこに当てはまらない人たちはどうすればいいのでしょうか」

さらにもうひとつ反対する理由があるとか。

「世の中にはアセクシュアル(誰にも恋愛感情を持たないセクシュアリティ)、ポリアモリーなどさまざまなセクシュアリティがあるはずです。もちろん、生涯1人で過ごすことも認められるべきです。しかし、結婚制度が存在するため、私たちは強制的に恋愛をさせられ、それができないと社会不適合であるかのような烙印を押されてしまいます」

 

結婚制度を反対するに至った実体験

こうした考えは、一般的な結婚制度を自明のものと捉えている私たちには受け入れにくい部分があるかもしれません。しかし、結婚制度はそこから排除される人だけでなく、包摂される人をも縛る制度であるというのが山内さんの持論。

「親から『結婚しろ』『早く家庭を持ち子ども作れ』などと言われることもありますが、つまり結婚するということは、家事をして、子どもを生んで育てるという、昔からの男女の役割に縛られることになる。また、結婚後、仕事や友達関係がないがしろになってしまう人もいますが、なぜ婚姻関係を他より優先させなくてはならないのでしょうか。

私は、いわゆる反出生主義ではないですが、今のところ、子どもを一切ほしいと思わないです。積極的に子どもがほしい理由が思いつきません。人を育てるのはおもしろいかもしれませんが、私にとっては別のおもしろいことがあると思っています」

山内さんは「今の日本の結婚制度は、社会的ステータスといったメリットがあります。ただ、結婚制度に反対する私から考えると、そういうメリットは不要です」とも。

実際、入籍しない「事実婚」の状態で生まれた子どもは、(父親との親子関係が認められない場合は)父親からの扶養や相続を放棄せざるを得ないデメリットがある一方、「事実婚」自体のデメリットは、税金の「配偶者控除」や「扶養控除」、あるいは「名義変更手続き」くらい。周囲の目が気にならなければそこまで大きな短所は感じないかもしれません。

山内さんがパートナーと読書会したり、話題に出たりした本

コロナ禍で始めた同棲生活

現在、山内さんには同棲相手のパートナーがいます。知り合ったのは約2年前で、交際して14カ月。5カ月前から同棲を始めました。

「交際前から私がバイセクシャルであり、結婚制度に反対していることは伝えていましたが、たまたまパートナーも“子どもはいらない主義”だったので、すんなり受け入れてくれました。最初はおとなしい人だと思っていたのですが、何度かデートをするうちに自然と交際に至りました」

知り合ったきっかけはマッチングアプリの「Pairs」。相手の男性のどこに惹かれたのでしょうか?

「一番は優しいところですが、なかでも価値観の相性がよかったのだと思います。結婚や出産に対する倫理観が合っているというか。フェミニズムの話をしていて、さらっと(ジュディス・)バトラーの話題が出てきても、イチから説明しなくともわかってくれます。彼も大学院を出ているので、アカデミックな感覚が合うのかもしれません」

最後に山内さんの今後の目標を聞いてみました。

「今の会社にはクビにならないようにしがみついていたいです。仕事と並行して小説を書いて同人誌で発表していて、文学賞にも応募しています。書いているのは純文学で百合的な要素が入っています。ちょっと口頭で説明するのは難しいですが、恋愛と友情、フェミニズムみたいな。いずれはデビューして、筆一本で生活したいです」

まさに令和的な価値観の持ち主の山内さん。いずれはその作品を通して、山内さんのメッセージが世の中に広まる日もそう遠くはないのかもしれません。

 

【参考文献】『最小の結婚 結婚をめぐる法と道徳』(著者:エリザベス・ブレイク/翻訳:久保田裕之/白澤社

1990年群馬県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、扶桑社に入社。雑誌「週刊SPA!」の編集を経て「bizSPA!フレッシュ」編集長に。
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