熱烈鑑賞Netflix

わきまえない女たちの抗議に悲鳴を聞けNetflix映画『モキシー 〜私たちのムーブメント〜』

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回ご紹介するのは、Netflixオリジナル映画『モキシー ~私たちのムーブメント~』。校内にはびこる性差別に、女性たちが連帯して立ち向かいます。主人公ヴィヴィアン(ハドリー・ロビンソン)が作ったZINE「モキシー」がムーブメントを起こす!?

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主人公の親友は『テラスハウス』のローレン

力強い青春映画だ。『モキシー 〜私たちのムーブメント〜』は、学校の性差別に抗議の声をあげる学生たちの青春群像劇。抗議の声をあげる方法がスペシャルでユニーク。ジン(ZINE)をつくるのだ。

ZINEは、DIYスピリッツあふれる印刷物のこと。DIY ってのはDo It Yourselfの略、「自分でやってみる」っていう意味。だから、売って儲けることが目的ではない。
自分の思うがままにリソグラフ印刷やコピーなどで少部数作る冊子だ。リトルプレス、ミニコミ、同人誌などをイメージしてもらうと近いかも。ちなみにジンは、Magazineのzineだ(諸説あり)。

「フットボール部のミッチェル(パトリック・シュワルツェネッガー)がハラスメントしてくる」と校長に直訴しにいった転校生のルーシー(アリシア・パスクアル=ペーニャ)。
校長先生は、ハラスメントという言葉を使うと話が複雑になると言って「ちょっかいを出してくる」に言い換えようとする。問題を直視せず、のらりくらりと逃げちゃうのだ。

そういった事なかれ主義に妥協せず、ハラスメントにも負けないルーシーに感化されて行動するのが主人公のヴィヴィアン(ハドリー・ロビンソン)。
ヴィヴィアンの親友、中国系のクラウディアを演じるのは『テラスハウス アロハステート』ハワイ編に登場したローレン・サイ。

手に星マークを描いて連帯を示す男子セスを演じるのはニコ・ヒラガ。日系アメリカ人で、スケーターでモデルで俳優。『モキシー』の後に、2019年のめちゃくちゃクールな学園映画『ブックスマート』にも登場し、さらにスケーター青春映画『North Hollywood』も控えている。今、大注目のニュースターだ。

主人公ヴィヴィアン(ハドリー・ロビンソン)とセス(ニコ・ヒラガ)/Netflix映画『モキシー ~私たちのムーブメント~』独占配信中

ヴィヴィアンの母親リサを演じるのがエイミー・ポーラー。『モキシー』の監督でもある。

クラシカルな構成や、まっすぐなキャラクター造形で描かれるパワーの大きい作品だ。
主人公のヴィヴィアンは、母の古びたスーツケースを見つけて、それを開ける。そこにZINEがある。
ライオット・ガール(90年代初頭にはじまったパンクとフェミニズムが結びついたムーブメント)のZINE、母が若いころ作っていたものだ。

「モキシー」ムーブメントが巻き起こる

ヴィヴィアンは行動する。

紙に書き殴り、切り、貼り、コラージュし、町のコピー屋に行って50部コピーする。「モキシー」というタイトル、勇気という意味だ。ヴィヴィアンは「モキシー」をこっそり学校の女子トイレに置く。

「ここに書いてある内容を支持するのならハートや星のマークを手に描け」というメッセージに応じた人たちが集まって、「モキシー」ムーブメントが巻き起こる。
ZINE作り、影響が学園で広がっていく様子、コミュニティの形成、ムーブメントのインタラクション、いろいろなことに直面し行動する少女たちが直球で描かれる。

主人公ヴィヴィアン(ハドリー・ロビンソン)と親友のクラウディア(ローレン・サイ)/Netflix映画『モキシー ~私たちのムーブメント~』独占配信中

もちろんZINEは、アメリカだけのものじゃない。
この原稿の編集担当をしているアライユキコもかつて『カエルブンゲイ』というZINEを出していた。
漫画家の今日マチコも『Juicy Fruits』というZINEを出していた。後にスモール出版を起こす中村考司は『レトリックス・アンド・ロジックス・マガジン』という密度の濃いZINEを出していた。ポケモンの生みの親田尻聡が主宰していたZINE『GAME FREAK』もあった。
ぼくが読んでいたものを挙げているので偏ってるが、それ以外にも多彩で膨大な数のZINEが出ている。
野中モモ×ばるぼら『日本のZINEについて知ってることすべて』(誠文堂新光社)という大型の本を読んでみるといい。

インターネットが発展したことで、ネット上にも、ZINE的なDIYスピリッツのメディアはたくさん登場している。
津田大介の「ポリタスTV」や、東浩紀の「ゲンロン」といった試みにも(ポジティブな意味での)ZINE的なスピリッツを感じる(中央新書ラクレ『ゲンロン戦記』を読むとZINEスピリッツを持ったままZINEからどう脱却するかっていう苦闘にもみえる)。
ぼくの「表現道場マガジン」もZINEスピリッツでやっている。

いや、いまこのレビューを書いている媒体である「telling,(テリング)」だって、朝日新聞のサイトではあるけれど、編集長の闘いっぷりを垣間見てると、商業媒体にだってZINE的なモキシーが宿っているのだと信じる。

『モキシー 〜私たちのムーブメント〜』は、悲鳴であり、叫びであり、力強いメッセージでもあるパワーを放つ勇気ある青春映画だ。ぜひ観てほしい。

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
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