【皆川玲奈の人生S字クランク#04】マニュアル車は手がかかるからこそ、愛おしい
●皆川玲奈の人生S字クランク #04
旧車から感じる所有者の人生
5月22日に放送したBS-TBSの番組「博物館の車、走らせます!」の収録で、とても貴重な体験をしました。この番組は、日本全国の自動車博物館に展示されている旧車を修理し、公道で走らせ甦らせよう!という企画。お話をうかがった名車を所蔵している館長や、博物館に展示されている旧車をかつて所有していたオーナーの思いに触れて、車は人と人、そして時代をつないでくれる存在だなと胸が熱くなりました。
これまでは博物館で旧車と向き合って写真を撮り、カメラフォルダを見返して味わっていましたが、今回は試乗できるチャンスがあるということで、収録前からすごく楽しみにしていました。乗ったのは、日産フェアレディ240Z。この車がラリーで活躍した1970年代、私はまだ生まれていませんが、ボディラインやロングノーズの曲線美を間近で見て、一瞬にして心を奪われました。しかも館長が2018年にラリー・モンテカルロに出場し、完走した車です。早くエンジンをかけて乗ってみたい! どんなエンジン音がするのだろうと、乗る前からワクワクした気持ちでいっぱいでした。
実は、左ハンドルのマニュアル車を運転するのも初めてで、普段展示している大切な車を壊してしまわないかと不安もありましたが、ぴったりとフィットするシートと四点で体を固定するシートベルトに包まれ、不思議と気持ちが落ち着きました。運転中の視線の低さやステアリングの重さ、アクセルをじわっと踏み込んだ時の音も心地よく、運転する楽しさがダイレクトに伝わってきます。
伊香保の緩やかな山道をシフトダウンして上り、体に響く低音を存分に味わいました。
初めて乗った時に、自分の体の一部のように運転しやすい車は、所有者が普段からどのくらい大事にしているかが表れます。試乗したフェアレディ240Zからも館長の人生で叶えたかった夢、世界一過酷とも言われているラリーにかける熱い思いが溢れていました。
大学生時代を駆け抜けた、最初の相棒
マニュアル車を運転したのは、大学生以来、8年ぶりでした。当時私が所有していたマニュアル車は、先輩から安く譲ってもらったスズキスイフトスポーツ。リアタイヤに泥除けのガードがついていたり、先輩好みのレーシーな仕様になっていたのですが、車自体には癖もなくマニュアル初心者の私にぴったりでした。
慣れない頃はギアチェンジをする度に、がくっとつんのめりながら走っていて、上手くなりたい一心でヒールアンドトゥーを体で覚え、何時間も練習する毎日……。
車にとっては、かなり疲労がたまっていたことでしょう。
最後はクラッチがすり減り、交換するタイミングでお別れしてしまいましたが、“相棒”と呼べるほど車のよき理解者になれたと思っています。
便利で簡単な新しいものが次々と出てくる昨今。「マニュアルなんて運転が面倒くさい」「渋滞の時に疲れる」と言う人もいますが、私は自分の手足で動かしている感覚がたまらなく好きです。
長くたくさん乗っているといろいろなパーツが消耗しますが、そこからも自分の運転の仕方がわかるような気がします。
車の調子を考えながら乗ったり、整備をし、洗車をしたり。
愛情を注ぐほど、車はその気持ちに応えて、人馬一体の感覚を得られると思っています。
もし、マニュアルに乗る選択肢が少しでも残っている方は、ぜひ乗ってほしいです。手がかかるものこそ、愛おしいものです。
- ■皆川玲奈の人生S字クランク
1:限界を超えるまでアクセルを踏み込んだあの頃のこと
2:同期が教えてくれた”他人と比べない”ということ
3:椅子フェチだと気づいた3年前の北欧旅行の話
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第2回【新連載:皆川玲奈の人生S字クランク#02】同期が教えてくれた”他人と比
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第3回【皆川玲奈の人生S字クランク#03】椅子フェチだと気づいた3年前の北欧旅
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第4回【皆川玲奈の人生S字クランク#04】マニュアル車は手がかかるからこそ、愛
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第5回【皆川玲奈の人生S字クランク#05】アナウンサーに必要なものとは?
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第6回【皆川玲奈の人生S字クランク#06】私の新学期