テレ朝・大下容子アナ 「一生懸命な人は際立つ」いま、腑に落ちる小林カツ代さんの言葉

情報番組やバラエティーや番組などで幅広く出演するテレビ朝日の大下容子アナウンサーは6月、役員待遇・エグゼクティブアナウンサーに昇格しました。ソフトな語り口と親しみやすいキャラクターで人気の大下さんに、女性アナウンサーをめぐる環境の変化や、20~30代の女性へのアドバイスなどを聞きました。

年齢は「過ぎれば何も変わっていない」

――現在でも、タレントのように見られたり、扱われたりするアナウンサーの方もいます。女性アナウンサーをめぐっては「30歳定年説」が言われた時期もありました。

大下: 私は雑誌で「最も地味なアナウンサー」と書かれたことがあるほど華がない(笑)。自分とは対極のキラキラしている方々については、「すごいなぁ、私とはまるで違うなぁ」と憧れます。ただ華やかさというのは身につけようと思って身に付けられるものではないですし、今はそれぞれの持ち味だと思っています。

年齢については私も30歳の誕生日前くらいは「アナウンサーとして、もうダメなのかな」と一瞬、ブルーになったことがありました。でも28歳から始めた「ワイド!スクランブル」も30歳を過ぎてからも、ずっと続いてきました。年齢って1の位が9になるとそれなりに思うことがあります(笑)。29歳も39歳も49歳の時も…。でも、過ぎれば何も変わっていない。
私の世代で働く女性もまだまだいますし、今は本当にライフスタイルが多様化しました。この年齢で女性アナウンサーが番組に出ることは、入社当時は考えられませんでした。とてもありがたく感じています。私自身も、多様性を受け入れられる人間でありたいと思いますね。

様々なタイプのアナウンサー、後輩から刺激も

――テレビ朝日は2003年、社屋を六本木ヒルズに移転し、前後して視聴率も好調です。以前は就活でフジテレビの人気が高かったですが、テレビ朝日に就職したいという大学生も増えています。

大下: 嬉しいですね。六本木ヒルズに移ってから入社した後輩に聞くと、「ヒルズで勤務できることが入社のポイントだった」と話す人は少なくありません。私はそんなことを考えたことがなかった(笑)。
ただ、私が入社した頃に比べると、テレビ朝日のアナウンサーも多様になってきた印象を受けます。今は様々なタイプのアナウンサーがいて、とても誇らしいですね。私たちにない感性や切り口で番組を進めるアナウンサーなど、後輩から学ぶことも多く、日々刺激を受けるありがたい環境にいます。

――日本ではこれまで1つの会社に定年まで勤める終身雇用が当り前でしたが、今は転職する人も増え、選択肢も広がっています。選べるからこそ悩みも多くなっている面もあります。

大下: 選択肢があるのは良い反面、迷いも生じますよね。目の前のことを一つ一つやっていくことが大切だと思う一方、逃げることが大切な場面もあります。ここは違うと思ったら飛び出すことはあっていい。

「言い過ぎるなら言い足りない方がいい」

私もクヨクヨしていた時期はありました。ただ、自分だけで解決できないことに悩んでも仕方ありません。私が落ち込んでいる時に友達から言われたのは、「悩んでいる暇があるなら、本の一冊でも読めば」でした。だから、悩む暇がないほど没頭できる大好きな仕事に巡り合えればすごくいいと思う。それを見つけるために環境を変えていくことはあっていい。一度きりの人生だから後悔なく進んでほしいですね。
私は棺に入る時に自分自身が、納得できれば、人からどう思われようとかまわないと思っています。

――アナウンサーとして大切にされていることはありますか。

大下: 言い過ぎないことです。言い過ぎるなら言い足りない方がいい。生放送では一度出してしまった言葉は取り消せません。腹八分ではありませんが、多少控えめに表現するようにしています。私が物事を決め付けられるほどの人間ではないということもありますが、物事は大体において濃淡があります。白か黒かはっきりしていませんので。

「こなす」のではなく「取り組む」ことで得られる気づき

――仕事に悩む20代、30代の後輩たちへアドバイスをお願いします。

大下: 月並みですが、先ほども申し上げたように、目の前の仕事を一生懸命やるということでしょうか。例えば、番組の中でキューバのコロナ事情を紹介することになれば、国の位置や隣国、人口や民族、そして宗教など、様々なことを調べることから始めます。キューバの革命家チェ・ゲバラは医者で、みんなに同じ医療を提供したいとの思いがあったから、キューバではホームドクター制度が発達している――といったことを学ぶ。
日々の準備の中で、「一面的なものの見方は戒めないといけないな」と思うわけです。1つのコーナーを「こなす」のではなく「取り組む」と様々な気づきがあるのです。

興味を持って仕事をしていくと楽しくなるものです。知れば知るほどもっと深く分かりたいと思うようになる。初期の「ワイド!スクランブル」でご一緒していた料理研究家の小林カツ代さんは非常に交友関係が広かった。そのカツ代さんから「ジャンル問わず、一生懸命な人は際立つ」という言葉を教わりました。当時はよく意味も分からず聞いていましたが、その言葉だけは心の奥底にずっとありました。自分がこうして働いてきた今は、その言葉の意味を理解できます。

少しでも何かを学ぼうという姿勢や向上心を持って物事に取り組んでいる人は、スタッフでも後輩でも「際立っている」。私が働いてきた狭い世界のことかも知れませんが、目の前のことに懸命に取り組み、積み重ねていくことは、とても大切だと思っています。

●大下容子(おおした・ようこ)さんのプロフィール
広島市出身。93年に慶應義塾大学法学部卒業し、テレビ朝日へ入社。「スーパーモーニング」や「やじうまワイド」、「Jリーグ A GOGO!!」や「GET SPORTS」など情報番組やスポーツ番組を多く担当。「SmaSTATION!!」や「ザ・タイムショック」などバラエティーやクイズ番組などにも出演し、2020年6月、テレビ朝日で女性初となる役員待遇「エグゼクティブアナウンサー」に昇進。初期の「ワイド!スクランブル」から「大下容子ワイド!スクランブル」まで22年間担当。

金融OL、編集者を経て、週刊誌AERAでライター業をスタート。同誌ほか、週刊朝日、朝日新聞、小学館の女性誌などで主に映画記事やインタビュー記事を執筆。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)、『佐川萌え』(ジュリアン)ほか。食べることも料理を作ることも大好き
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。