尼神インター・誠子さん「ブスいじりが難しくなって、ワクワクしてる。漫才は常に進化させなくては」(後編)
「ブスいじり」が難しくなって、ワクワクしてる
――『B あなたのおかげで今の私があります』の中で、誠子さんは「ブス」についてご自身の経験を踏まえ、さまざまな考察をされています。最近は「ブスいじり」が問題視されたり古いと思われることが増えてきた気がしますが、その変化についてどう考えていますか?
尼神インター誠子さん(以下、誠子): 1、2年くらい前かなあ。確実に時代が変わったなと感じた瞬間がありました。「ブスいじりは本人がよくても、それを見て傷つく人がいる」っていう意見が出てきた。ただ、それに対して「困るなあ」とか「ブスいじり、ええやんか」という気持ちは全くありません。私たちは芸人である以上、人を笑顔にするのがいちばんの目標なので、少しでも不快な思いをすることはやっぱり違うなと。あえてコンビで話はしませんでしたけど、ネタの書き方は確実に変わりました。
――お二人とも、反応の変化を肌で感じて、それに対応したわけですね。
誠子: そうですね。私よりも(相方の)渚のほうが、かなり早い段階で「バシバシ叩くのはもうやめるわ」とはっきり言いました。それから渚は「ブス」という言葉も使わなくなりました。例えたり、別の表現をしたりは今もありますけどね。そこの感覚とか価値観は昔から一緒という信頼感があります。
――先日、誠子さんが村の代表として化け物の生贄になる漫才を拝見しました。そこでは渚さんが誠子さんのことを「B級グルメ」と表現していたりして。
誠子: ああ、それ! ほんまに「ブスいじりはちょっとちゃうな」となってから書いた一発目のネタじゃないかな。あれはまさに、「『傷つく人がいる』と叩かれへんように、でも自分の見た目の絶妙さを笑いにしたい、うまいことできへんかな」って網の目をかいくぐるようにして書いたネタです。でも、私たちがおもしろいと思ってることは他にもっといっぱいあるから、それを出していこかって、今は逆にワクワクしてます。ほんまにしょうもないんですよ、私たちって。いまだにおならとかで全然おもしろい。そもそも、漫才っていうのは常に進化させていかなあかんものやし、こういう時代の流れによって改めて自分たちの原点を振り返れた感じはあります。
渚の優しさが少しでも伝われば
――誠子さん、芸人になってからずっと楽しいとおっしゃっていますね。
誠子: そうなんです、やっぱり好きなことをやっているから、全然悩みがない。……というか、ちょっとした悩みがあっても、その悩んでいる過程も全部楽しいんです。ずっと好きなことで悩んでおきたい。
――一方、相方の渚さんは3年前に上京されたばかりのとき、かなり強いホームシックにかかったと聞きました。
誠子: そうなんです、渚はほんまにホームシックにかかってしまって。なんだったらいまもちょっと続いているくらいです。
――そんな渚さんに声をかけたりは?
誠子: 直接「元気出して」とかは言わないですけど……、それをエピソードトークとしてテレビや劇場で話しました。「ホームシックだってことを人に知られたらあかん」と思ってたとしたら、よけいつらいじゃないですか。だから、ホームシックでいてもらっていいんだよってことが伝えられたらって。それによって、渚の優しい部分をちょっとは知ってもらえたかなって思います。
――本の中でも、誠子さんの渚さんへの信頼や愛情が伝わってくる場面がいくつもありました。渚さんはこの本を読まれたんですか?
誠子: まだ渡してないんです。たぶん渚には読めない漢字がいっぱいあるから、ちょっと後悔しています。渚のことを書いた章だけ、全部ひらがなにしとけばよかった。本ができたら、ふりがなをふって渡そうと思います。
誠子は恋と漫才の両輪で生きる
――『B あなたのおかげで今の私があります』の中で、「『女芸人は大変』と言われるようなことは、世間で働く女性の身にも起こっているように思える」という一行を読んで、すごく心強く感じました。
誠子: 「女芸人は男社会で体張って」と思われがちですけど、女芸人に限らず、女性はみなさん、男社会で頑張ってらっしゃるじゃないですか。だから、女芸人だから特別悲しいとか、女芸人だけが戦っているっていう気持ちはなくて。むしろいろんな女性を見て、味方がこんなにいるって励まされるんです。
――本を読んでも、こうして話していても、誠子さんは言葉や状況など、いろいろなものを受け入れている感じがありますね。
誠子: それは、自分自身がお笑いの世界に受け入れてもらったときのうれしさを知っているから。以前なら嫌やなって思っていたことも、別の角度から見たら違って見えるかも知れないから。一旦受け入れて、よくよく考えて、「ほんまに無理やった」ってこともありますよ、全然あります(笑)。でもまずは受け入れたい、って常に思っています。
――最初に受け入れてもらった、というのはコンプレックスに思っていたところを活かせる場があった、ということでしょうか?
誠子: 実際、コンプレックスは武器になりました。でもそれは第一義ではなくて。まず「お笑い」という好きなことを見つけられた時点で、自分に自信が持てたんです。「自分には好きなことがある、目標があるんだ」って、それだけで人生が楽しくなった。悩みとかも気にする暇なく夢中になれた。その次に「あ、容姿も活かせるんや、めっちゃいいやん」って。
――好きなことがなかなか見つけられない人はどうしたらいいと思いますか?
誠子: 確かに簡単には見つからないですよね。とにかく諦めずに探し続けることが大事やと思います。自分の可能性を信じて、ほんのちょっとでも興味あることに踏み込んでみる。私も音楽に興味をもって、ギターを買って練習したこともありました。すぐにやめましたけど(笑)。いろんなものに楽しく手を出して、探し続けるっていうのが大事だと思うんです。
――最後に、これからの目標を教えてください。
誠子: やっぱり漫才はやめられないですね。自分を好きになれたきっかけでもあるし、一番好きなものやから。それと、恋もずっとしてたい(笑)。私、恋をしていると仕事もよりいっそう楽しくなるタイプなんです。恋と漫才の両輪で誠子は生きているんですよ。