尼神インター・誠子さんが考える、SNSで傷つかない方法「エゴサーチはしません。温度ある感想が大事」(前編)

漫才師・尼神インターの誠子さんが初のエッセイ本『B あなたのおかげで今の私があります』(KADOKAWA)を刊行しました。執筆を通じて自分の人生を振り返った誠子さんが気づいたこととは?

「誠子」を俯瞰して書いたエッセイ

――初めての著書『B あなたのおかげで今の私があります』を書くことになったきっかけは?

尼神インター誠子さん(以下、誠子): 出版社の方から、「誠子さんってすごくポジティブなイメージがあるから、読んだ人がポジティブになるような本を書きませんか?」と声をかけていただいたんです。あまり自覚はなかったんですけど、確かに悩んだりヘコんだりすることがほぼなくて。そう言われて初めて「私ってポジティブなんや」と気づきました。

――子どもの頃からはじまり、今に至るまでのさまざまなエピソードが綴られていますが、実際に執筆をしてみて苦労した点はありますか?

誠子: 私はふだん振り返ることをしないタイプなので、振り返るってこんなにエネルギーのいる作業なんや、と思いました。思い出しては書くことで「やっぱりあの言葉は悲しかったんや」とか、「気にしてないフリしてたけど、あの時傷ついてたんや」とか思うことはありました。でもそのぶん、楽しい瞬間もたくさん思い出せたのはよかったです。

――本書では一人称が「私」ではなく「誠子」と書かれていますよね。ご自身との距離感が、読んでいて心地よく感じられました。

誠子: 「私」って書くことに、恥ずかしさともどかしさがあったんですよ。「誠子」という一人称にして自分をちょっと俯瞰して書くほうが、より自分と向き合えるし、自分の深いところまで出せるんじゃないかとも思って。元々小説が大好きなので、小説風に書いてみたいというのもあってこのかたちにしました。

――バラエティ番組や漫才の中でも、ご自身をよく「誠子」と呼んでいらっしゃいますよね?

誠子: それ、無意識やったんです。でも言われてみれば、テレビや漫才では素の「私」じゃなくて、芸人としての「誠子」を作っているのかもしれないです。

「成果はないけど、効果はある」相席ケイのアドバイス

――この本には、家族の話から芸人さんとのエピソードまでいろいろな話がありますね。相席スタートの山崎ケイさんとの対談も興味深いものでした。

誠子: 本にあるように、ケイちゃんにはふだん恋愛相談ばかりしてるんです。本当に恋愛の師匠、信頼してる恋愛アドバイザーって感じですね。

――その効果のほどは……?

誠子: 成果は出てないけど、効果は感じてます。成果が出てないのは私の責任。でも効果は確実にある気がして。恋愛に関する考え方もアプローチの仕方も変わりました。「誠子ちゃんは顔がブスとかじゃなくてスタンスがブス」という言葉は特に大きかった。ブスは単純な容姿のことじゃなくて、立ち居振る舞いとかにじみ出るものなんだって。それは変えられるものですよね。

――確かに、ハッとしました。この本ではブスという言葉を「B」に置き換えて書かれていますが、その「B」との対談も収録されていて。

誠子: これは書いてて止まらないくらい、めっちゃ楽しかった。「B」というものを具現化して対談することで、その存在自体がかわいく見えてくるんですよ。具現化って、コンプレックスを解消するのにいい手段かもしれません。

知らない人の言葉よりも、温度ある感想が大事

――本の中で、誠子さんは「ブス」という言葉を投げかけられたとき、常にその言葉の裏にある真意を探っていますね。

誠子: 関西の文化として、まわりのおばちゃんが「あんた、ほんまおもろい顔してんな」と“あえて”言ってあげる優しさがあるんですよ。だから言葉をそのままの意味で捉えない、その奥にあることを考えるっていうのは子どもの頃から習慣になっていたんじゃないかな。それが、芸人になって「いじってこの子を輝かせてあげよう」という優しさに触れて、より強くなった。今回振り返ってみて、この考え方って素敵やなと改めて思ったんです。それが読んでくださる人にとってもポジティブな考え方のヒントになったらと、これまでのできごとがスーッとつながった感覚がありました。

――「言葉の真意を汲み取ろうとする」姿勢は、そういう中で自然に身についた……?

誠子: そうですね。環境と人が自分を育ててくれたなって思います。SNSのコメントで傷つくことって、いまではどんな人でもありますよね。人を傷つけるコメントを書く人は、悲しいけれど簡単には減らない。だから受け取る側がある程度、負けないようにするしかないと思うんです。言葉や文字じゃなくて、その先にいる人に向き合うことで傷つくことが減るんじゃないかなって。例えば「誠子おもしろくない」「誠子嫌い」っていうコメントを目にしても、もしかしたら書いた人は、彼氏にフラれてむしゃくしゃした気持ちをぶつけてるだけかもしれない。あるいは、寝起きで鼻ほじりながら書いてるかもしれない。そこが想像できたらちょっと楽になるというか。

――誠子さんご自身は、そういうコメントを見られるんですか?

誠子: 私はエゴサーチってまったくしないんです。劇場のお客さんの笑いや、こうして直接お会いする相手の感想が大事。知らん人の、しかも文字にはまったく温度を感じないんですよ。でも会った人からは批判やネガティブな意見も聞きたい。とにかく温度ある感想がほしいんです。

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。