大阪大の佐々木勝教授が経済学で読み解く ウィズ/ポストコロナ時代の「出会い」と「婚活」!【前編】

人々の生活や行動を、経済学を取り入れることで、ひもとくことができます。例えば2010年ノーベル経済学賞を受賞した「サーチ=マッチング理論」は、企業と労働者、学校と生徒といった関係だけでなく、恋愛や結婚におけるパートナー探しにもあてはめることができる理論なんです。それでは、ウィズ/ポストコロナ時代の「出会い」や「婚活」を経済学的に読み解くと……? 労働経済学を専攻する、大阪大学教授の佐々木勝さんに聞きました。

これからの「出会い」は、対面とオンラインのハイブリッド!

――コロナ禍で変化した出会いの形をどのようにみていますか。

佐々木勝さん(以下、佐々木): コロナ以前は、外に出て、普通にしているだけでも人と接触できました。語弊があるかもしれませんが、それほど努力しなくても、何らかの形で人がやってきて「出会い」が起きていたように思えますね。

一方、コロナ禍ではマッチングアプリなどを使ってオンライン上で出会う人が増えているそうです。この場合はわざわざネット空間に入っていく、あるいはオンライン上のイベントの中に入っていくための労力、手間が必要になりました。

――全体として出会いの機会は減っている、ということですよね。

佐々木: 出会いの機会、という意味ではそうかもしれませんが、対面の出会いには、偶然の接触や最初からパートナーとしての関係を構築できる可能性のない人との出会いも含まれていました。オンラインだと、恋愛や結婚に前向きな人同士が集まっています。同じ志を持っているので、よりマッチングが成立しやすい出会いになっていると思います。

――ウィズ/ポストコロナ時代に婚活を進めたい人にとって、オンラインには期待できる、ということでしょうか。

佐々木: もちろん、対面とオンラインは全く同じではありません。オンラインでは画面上でしか相手を知ることができず、雰囲気や匂いような部分までは感じることができません。これからは対面とオンラインのハイブリッドな出会いの形が広がっていくのではないでしょうか。

――経済学的にみて、オンラインでの出会いのメリットはなんだといえますか。

佐々木: コストを抑えられる点です。対面だと、相手に会うためには必ず外に出て、待ち合わせ場所まで行かなくてはなりません。例えば、兵庫県神戸市の三宮で婚活イベントがあれば、自宅から会場へアクセスするためのコストがかかります。経済学では交通費だけでなく移動時間もコストと捉えますから、結構なモノですよ。
それに比べてオンラインの場合は、大変低いコストで出会いの場にアクセスできます。まず交通費は掛かりません。おしゃれも最低限カメラに映る部分だけでいいから、外出するほどのおめかしは必要ないですかね(笑)。食事代だって自分の分を手元に用意するだけでいいでしょう。つまり、オンラインなら、対面に比べてコストを掛けずに出会う機会を増やそうとすることもできるわけです。

コストが下がれば、心理的にも踏み出しやすくなるかもしれません。心理的な部分もコストなんですよ。参加する勇気や、「どうしようかな」「面倒だな」と悩む時間も含めて。コストを理由に独身を選んでいた人が「やってみよう」という気持ちになれるという点も、オンラインのメリットだと思います。

選択肢の多さによって変化する“留保レベル”

――新たな出会いが少なくなると未婚率は高まるのでしょうか。

佐々木: 経済学的には必ずしもそうではない、と考えます。なぜなら、出会いの機会が少なくなると、自分がパートナーを選ぶ際に相手に求める水準が下がってくるからです。
相手と付き合うかを判断するとき、もちろん実際は相手の顔、性格、経済力など、多面的な要素から判断しますが、それらを統合し一元化したレベルに置き換えて、例えば0から100までのレベルの中で自分が受け入れても良い最低の水準というものを頭の中ではじき出します。経済学では、これを留保レベルと言います。
毎週頻繁に新しい出会いがあるなら「ちょっと自分とは合わないかな」という相手は見送って、「次の人に会ってみよう。来週にはまた新しい人に会えるし」となります。すなわち、留保レベルが高いと言えます。逆に、出会いの機会が滅多にない人は、一度の出会いを逃したくないから、少し自分と合わない部分があっても、「付き合おうかな」という心理が働きます。この場合、留保レベルが低いと言えます。

コロナ禍でカップルが成立しやすい!?

求職者と求人企業の関係に置き換えると、留保レベルは「留保賃金」、すなわち受諾してもよい最低の賃金に該当します。自分の能力と景気の状況を勘案して算出した留保賃金が時給1000円だったとします。A社からのオファーが900円なのに対して、B社のオファーは1200円だとすると、私が受け入れるのは、留保賃金を満たしているB社のほうになりますよね。また、留保賃金はその時々の状況によって変化するものでもあります。もしB社からのオファーが滅多にこなくなれば、自分の留保賃金を下げます。900円にまで下がってしまうと、A社のオファーを受け入れますよね。高い時給を払う求人企業に出会う機会が多ければ留保賃金は高いし、少ないと低くなります。

――コロナ禍によって出会いの機会が減ると留保レベルは低くなり、カップルが成立しやすいというわけですね。

佐々木: 出会いさえすれば、成立する確率は高くなるでしょう。地域間による留保レベルの差があります。人口の多い都市部と、そうでない地域では、都市部の未婚率が高そうですが、人口の少ない地域では出会い自体が少ないため、やはり一度の出会いを逃さない、という気持ちが働きます。つまり、留保レベルが低いことが婚姻率につながると考えることができます。ウィズ/ポストコロナの時代に出会いの機会が減ると、都市部においても同様のことが起こり得るでしょう。

●佐々木勝(ささき・まさる)さんのプロフィール
1969年、兵庫県生まれ。米ジョージタウン大学で経済学博士号を取得。世界銀行、アジア開発銀行、関西大学、大阪大学社会経済研究所を経て、2012年4月から現職。専門は労働経済学、行動経済学

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