【後編】ウィズ/ポストコロナ時代の「ミスマッチ」や「結婚観」とは?大阪大の佐々木勝教授が解説します!

ノーベル経済学賞を10年前に受賞した「サーチ=マッチング理論」は、恋愛や結婚におけるパートナー探しにもあてはめることができる理論です。前編でコロナ禍での「出会い」や「婚活」について説明してもらった大阪大学教授の佐々木勝さん(労働経済学)に、ウィズ/ポストコロナ時代の「ミスマッチ」や「結婚観」などについてお話をうかがいました。

情報の非対称性を解消し、「ミスマッチ」を回避

――オンラインで婚活を進めるうえで、ミスマッチを減らすためにはどのような行動を心がけるといいのでしょうか。

佐々木: 対面もオンラインも、人との出会いは、顔はわかるけれど性格はわからない、みたいなところから始まり、徐々に相手のことを知っていきます。でも、相手のことを知る作業はコストでもあります。出会いの機会が多くても、性格も趣味も合わない人とばかり会っていては効率的ではありません。
マッチングアプリなどの婚活サービスでは、登録するときにまずプロフィールを入力しますよね。自分の所属や出身地、好きなもの、学歴、職業、年収――。運営側は、その情報をもとに、その人にできるだけマッチしそうな人を事前に組み合わせる仕組みになっている。効率的に出会いを成功させるためです。

「情報の非対称性」という言葉があります。市場における売り手と買い手、企業と投資家といった間柄で情報の格差が生じることを意味し、情報の非対称性があると、適切な判断ができなかったり、誰も市場で取引をしたがらなかったりします。例えば、求人票に会社名しか開示されていなかったらどうですか。勤務地も給与もわからないのでは、履歴書を送る気になりませんよね。
出会いの場も同様で、ミスマッチを減らすには情報の非対称性を解消しなくてはなりません。そのためには互いに情報を開示していく必要があるのです。

例えば、相手のコロナに対する自粛の度合いがわからず、食事に誘った時点で相手からNGをくらってしまうかもしれない、と思ってなかなか言い出せずにいる人は、相手の情報がないからです。今後は、ウィズ/ポストコロナ時代の価値観も開示していったほうがいいでしょう。例えば、どういう条件なら対面で会ってもいいと思えるか。「感染防止対策をしているお店ならいい」「昼間なら会ってもいい」「居酒屋は避けたい」といった情報が非常に重要になってきます。

不確実な世の中でリスクを下げる「コロナ婚」

――「コロナ婚」についてはどうみていますか。

佐々木: 何かの選択に直面した時は、それぞれの選択肢を選んで得られる幸福度(便益)と必要なコストをてんびんに掛けて、その価値を比較することで決定を下しています。パートナーを得て2人で生活を共にすることで得られる幸福度と、そのためにかかるコスト。独身でいる幸福度とそのコスト。両者を比べて、独身でいる方の価値が高いと判断すれば、結婚には至りません。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、独身ならではのメリットはかなり減ってしまったように思えます。以前のように食事や飲み会には行けず、友だちとも会えなくなりました。たとえ結婚に対して感じていた価値に変化がなかったとしても、独身の価値が下がると、相対的に結婚の価値が上がることになります。そうなると、これまで結婚を考えていなかった人の中にも、結婚に前向きになる人が増えるのではないでしょうか。

――先の見えない不安も、行動の要因になるのでしょうか。

佐々木: ウィズ/ポストコロナ時代を迎え、これまで以上に不確実性の高い世の中になっていることは確かです。そんな不確実性を抱えながら1人で暮らし続けることは、リスクでもあります。パートナーと支え合って生活を送れば、互いに補うことができます。

この先仕事を失ったり、それこそコロナウイルスに感染したりすることもあるかもしれません。2人なら、たとえ1人が倒れても、もう1人が働いて生活を保つことができるし、互いに助け合えるので、安心感を持って暮らせます。将来の不安やリスクへの対処法として、結婚やパートナーと2人で暮らすという結論に至ることも、一つの必然でしょう。

――先行きの不安があるということは、相手の経済力に対しても不安が生じ、結婚にブレーキがかかりませんか。

佐々木: 経済力の高さが相手選びの条件だという人もいるでしょう。でも、まずは自分の経済力に対する不安ですよね。これからは二人で互いに補い合う、という考え方をしていく必要があると思います。どちらかに何かあったとき補完し合える、「保険」のような関係を築いていくことが大切ではないでしょうか。

新常態・ニューノーマルという局面 求められる生きかたの再計算

――ウィズ/ポストコロナ時代の「出会い」や「婚活」において、もっとも合理的な行動とはなんでしょうか?

佐々木: このコロナ禍で、社会は新たな局面に立ちました。しかし来年になれば、社会はまた変化するかもしれません。どんなときも、常に考えるべきことは、目の前にある様々な選択肢を選んだ場合に得られる幸福度(便益)とそのために必要なコストです。これらをてんびんに掛け、自分にとって一番価値の高い選択肢はどれかを冷静に判断するのがもっとも合理的な行動です。ウィズ/ポストコロナ時代であっても、結婚に伴うコストが高いから結婚しない、という判断をするのであれば、それはその人の選択です。無理に結婚させるとか、婚活させる、というのはよくないですよね。

一人ひとりが、この状況下でどう生きるのかを合理的に選択していくことが、個人によって最良だし、社会全体にとって効率的なのです。
新常態の環境で直面する選択肢の幸福度とコストを再計算しましょう、ということですね。

●佐々木勝(ささき・まさる)さんのプロフィール
1969年、兵庫県生まれ。米ジョージタウン大学で経済学博士号を取得。世界銀行、アジア開発銀行、関西大学、大阪大学社会経済研究所を経て、2012年4月から現職。専門は労働経済学、行動経済学