北イタリアのロックダウン生活レポ。コロナの教訓「今日できることは先送りにせずさっさとやれ」
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トリノで引きこもりライフ
いつもはオシャレなミラネーゼたちと観光客で溢れるミラノ、そしてミラノを州都とするロンバルディア州が、2月後半から始まったコロナウイルスの感染拡大で大変なことになっている。3月31日のイタリア全国の感染者数は7万7635人、その約3分の1をロンバルディア州が占めている。死亡者の数もダントツに多い。ここ数日、新しい感染者の数が減少傾向にあるなど明るいニュースもあるけれど、南イタリアの州ではジワジワと増えていたりして、まだまだ安心できない。
食をテーマに活動するライターの私が、24年前から暮らしているのは、そのロンバルデイア州のお隣の、ピエモンテ州トリノ。地図で見ると、ミラノから左(西)にほぼまっすぐ、150キロ行った所だ。ピエモンテ州というと、イタリア最高峰の赤ワイン「バローロ」や「バルバレスコ」、そして世界中のグルメがヨダレを垂らす白トリュフの名産地として有名だ。でもその州都のトリノが、1861年にイタリアという国ができた時の最初の首都だったということ、その時の君主、サヴォイア王家の王宮群は世界遺産で、ちょっとパリっぽいバロックの街並みがとても美しいことなんかは意外と知られていない。
そのトリノで今、私は、引きこもりライフを送っている。コロナウイルス感染症拡大防止のために、イタリア全国がロックダウン中だからだ。
違反やウソの申告をしたら罰金
2月の後半から学校閉鎖や自粛要請など、小出しで感染封じ込めをやってきたけど、どんどんひどくなるばかり。ついに3月12日、イタリアは全国での厳しい外出規制措置が始まった。学校閉鎖が決まってから2週間後のことだった。
食料品店、薬局、新聞雑誌スタンド以外の商店は全て営業停止。郵便局や銀行は支店の数を減らして営業。バールやレストラン、ピッツェリアなどは全て営業停止。生活必需品以外の製造業などもおやすみ。市民は仕事に行く場合をのぞき、食料品など生活必需品の買い出し、健康上の理由以外では外出できない。外出する場合は氏名住所などと、外出理由を書き込んだ自己申告書を持ち歩く。違反やウソの申告をしたら罰金、または逮捕も含む軽犯罪とみなされる、
でも、食料品店も食糧生産業もストップしていないから、食材は何不自由なく買える。レストランは営業停止といっても、デリバリーはやっていいから、逆に便利になったとも言える(彼らの死活問題でもあるし)。むしろ暇で食べてばっかりいてやばい、と恐れる人は私も含めて少なくない。スーパーマーケットへ行けば生活必需品もいつも通り買えるから、トイレットペーパーも生理用ナプキンも大丈夫。
新型コロナウイルスに教えられた人生訓
職業柄、何日も家にこもって原稿を書くことも多くて、引きこもるのは比較的慣れている。もともとズボラ体質だから、化粧もせず、適当な服を着て、うちにずっといるのは苦痛じゃない。ただ一つ後悔しているのは、そろそろ髪を切りに行きたいな、と思いつつ、明日明日と引き延ばしていたら美容院も行けなくなってしまったことだ。だから今、髪ボサボサ、白髪もボーボーだ。誰にも会わないからいいとはいえ、こんな暗い日々にこそ、美しい自分を(?)鏡に映して気分を上げたほうがいい。今日できることは先送りにせずさっさとやれ。コロナウイルスに教えられた人生訓の一つである。
教訓といえば、今、私は週に一度の食料まとめ買いをしている。何度も出かけて感染したくないから。まとめ買いをすると、食料を無駄にせず、最後まで使い切る工夫をして料理をするようになる。うっかり足りないものがあっても、さっと買い足しに行けないから、よく考えて買い物をするし、足りないものがあれば足りないなりに、工夫して料理をするようになった。なんだ、そんなことできてなかったの? と軽蔑されそうだけど、忙しかったりすると、つい、冷蔵庫の中を確認せずに買い物した挙句、古いものを腐らせてしまったりしていたのでございます。
自宅待機中のスターシェフたちがアップしてくれるレシピ動画が楽しい。誰でも簡単に作れるように、小難しい食材やテクニックはなし。先日は、世界最高峰のスターシェフの一人、マッシモ・ボットゥーラ・シェフの「たっぷり野菜とレンズ豆のスープ」を作成。人参、セロリ、フローレンス・フェンネルなどをザクザク切って、ニンニクと一緒にザッと炒め、ねぎやしょうがも入れてブイヨンを注ぐ。レシピに忠実じゃなくても、冷蔵庫にある野菜を総動員する。別で茹でておいたレンズ豆を入れてできあがり。レンズ豆は粒が小さくて20分ぐらいで煮える上に、鉄分などの栄養価も高いので、引きこもり生活にはオススメの食材だ。
ラブラブの彼氏と会えなくて、つらい娘に
子どもや若者たちは、学校も行けないし友だちとも遊べなくて、ただでさえあり余るエネルギーをもて余しまくっている。親の制止を振り切って夜遊びしたり、コロナなんて関係ない! と若者がパーティーして盛り上がっているニュースも初期にはよくあった。うちの19歳の娘は、喘息があるので感染を怖がって、夜遊びはぴったりとやめた。でもラブラブの彼氏と会えなくて、つらいつらいと嘆いている。いったいいつまで続くの? と時にヒステリーになり、時にさめざめと泣かれる私も切ない。ただの遠距離恋愛で会えないのと違って、浮気の心配もないからいいじゃん、と変な慰めを言ったりして。
そんな私の気持ちを察してか、今までは母親を運転手か飯炊き女かというような扱いしかしてこなかった彼女も、自分から何か家事をしたり、私を気遣ってくれるようになった。そして、「パパウザい」(とはイタリア語では言わないけど)と言っていた彼女が、散髪に行けず、ボーボーに伸びた夫の髪を切ってあげていた。たくさんの人の命を奪うコロナウイルスは本当に憎いけど、家族と一緒に過ごすことの大切さを考え直すいい機会になっている、なんて思ったり。
ごめんよ、グレース
そして我が家のもう一人(?)の大切な家族、グレースとの散歩が、我が家では今一番人気のイベントだ。街中から車で20分ほど離れた田舎に住んでいる我が家は、ラブラドール・レトリバーのグレース(女子7歳)を連れて、各自が交代で散歩に出かける。犬の散歩を口実に、無駄に出かけていた人も後を絶たなかったせいで、散歩は自宅から200メートル以内と規則が厳しくなってしまったけど、どんどん芽吹き始めた木や花を見ながら森の中の道を散歩していると、恐ろしいウイルスがすぐ近くで猛威を振るっていることなんて、忘れてしまいそうになる。
でも、先日夫がグレースを散歩に連れ行き、行き交う人(と言っても田舎道だからそんなにいないけど)がグレースを撫ぜるけど、彼らが感染していたらどうなんだろう? と言った時から、私はそれが気になってしょうがない。人懐こい彼女は、愛嬌を振りまいてみんなに撫でてもらうのが大好き。こんな時だって、誰かに会うと嬉しそうに近寄ってしまう。今日もグレースと散歩していたら、向こうから小型犬を連れた人がやってきた。メスとしては大柄のグレースは声も太くて、うれしくてウフォウフォ言いながら近寄っていくと、リードをグイグイ引っ張って突進する姿に、怖がる小型犬オーナーはけっこう多い。いつもなら「この子は本当にいい子なんですよ、全然怖くないですぅー」と必要以上に愛嬌を振りまく私も、今日は「あー、グレース、おチビちゃん怖がっているからダメ!」なんて冷たく言って、怖いイメージを利用させてもらうことにした。ごめんよ、グレース。でも、あんたの身体にくっついたウイルスが家族を感染させたら大変だ。今のところペットには感染しないと言われているけれど、いつウイルスが変性しないとも限らないし。
大事な人を守るためにうちにいて
SNSで、テレビで、何度も見た忘れられない動画がある。トリノの40歳の男性が、病院の酸素マスクの苦しい息の下から発信したメッセージ動画だ。年老いたお父さんと二人暮らしで、自分が感染しているのを知らずにうつしてしまった。同時に具合が悪くなり入院したけれど、救急車に乗ったその時から、お父さんはどこにいるのかわからない。ある日、友達からお悔やみのメッセージが来て初めて、お父さんが死んだのがわかった。
だからどうかみんな、うちにいて、感染を避けて。大事な人を守るために、自分も守って。そんなメッセージだった。
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