【古谷有美】新生活がはじまる前に。自由に想像を広げて「やりたいことリスト」を書こう
●女子アナの立ち位置。
大学4年生からの質問に、答えました
毎年行われる、2020年4月入社のアナウンサーたちの研修がありました。北海道から九州まで、さまざまなTBS系列局に内定した子たちが20人ほど。ニュースや天気予報の基本的な伝え方、服装や身だしなみなどのマナーなどを学びます。
今年の4日間の研修のラストを飾るのは、TBS現役アナウンサーによる質疑応答タイム。今年は、私と杉山真也アナが担当しました。
「みんなよりちょっと上の先輩」というつもりで参加したものの、よく考えたら、内定者の子たちは22歳です。自分がその立場だったとき、10個上の先輩なんて「雲の上の人」でした。まもなく32歳の私は、自分で思っているよりもずっと、先輩に見えていたかもしれません。
いざ内定者から出た質問は、どれもとってもかわいくて!
「緊張したらお腹が鳴ってしまうんですが、マイクで拾われちゃいますか?」
「いまから入社まで1カ月半、何をしておいたらいいですか?」
初々しい“大学4年生質問あるある”に、懐かしさで目を細めつつ、キュンキュンしながら、ひとつずつ答えていきました。
「見られる自分」も「見られない自分」も大切にして
たとえば「アナウンサーになるにあたって、体調はどんなふうに管理すればいいですか?」という質問。
真冬の体調管理については、先日もこのコラムでお話したとおりです。
尋ねてくれた子は昔から身体が弱いそうで、いつも除菌用のアルコールスプレーを持ち歩いているとのこと。それで充分、すばらしいよ!と感心しつつ、私からは「心のメンテナンス」についてもお話をしました。
アナウンサーの仕事をはじめると、一般企業で働く方々とは、すこし違った種類のストレスを抱えることになると思います。人に見ていただいたり、知っていただくのがうれしい反面、それがしんどく感じる時期も絶対にくるもの。仕事の忙しさにくわえて「見られる存在」としてのプレッシャーも、じわじわストレスになってきます。
何年もアナウンサーをやっているうちに「これだけテレビに出ているのに、全然知られていない!」なんてショックを感じることもあれば、横並びで比べられる同世代のアナウンサーに嫉妬する場面だって出てくる。どれも、いままでの自分の人生ではほとんど味わうことのなかった気持ちでしょう。どんなに体調を整えようとしても、心が先につぶれてしまったら、どうしても健やかではいられなくなってしまいます。
そこで大切にしてほしいのは、自分で自分を元気にしてあげること。
私だったら絵を描いたり、ファッションを楽しむことで、心が元気になるのを感じます。“アナウンサーじゃない自分”の居場所を、ぜひつくってあげてほしいです。仕事とプライベートをくっきり区切るタイプではない私でも、プライベートを大切にしてきたことで救われたタイミングが、たくさんありました。
もしかしたら私なんかより、いまの子たちのほうが、そのあたりのオンオフは上手なのかもしれません。入社試験のカメラテストでは、緊張して真っ白になってしまう子がずいぶん減ったと聞いています。スマホで撮ったり撮られたり、さらにはそれをSNSで出し慣れていたりしているから、“見られる自分”をつくるのがうまいのかもしれないですね。それって、すごく頼もしい。でもそのぶん、“見られない自分”がおろそかになっているようなら、ぜひそちらも大切にしてあげてほしいです。
何にも縛られない「やりたいことリスト」を書いてみる
もうひとつ「春休みのあいだ、何をしたらいいですか?」という質問について、私は「やりたいことリストをつくってみてください」と答えました。
何年か前、夜のニュース番組を卒業したとき。ふと、ノートを広げて自分のやりたいことや夢を、大小30個ほど書き出してみたんです。書いたことすら忘れていたのですが、先日クローゼットの奥の荷物をひっくり返していて、偶然そのノートを見つけました。
そこには「本を出版する」「ミステリーハンターになる」など、つい最近叶った夢がいくつか!「お友達のユカちゃんと連絡を取り続けて、ちゃんと年に何回か会う」なんて超細かなプライベートなことも書かれていて、しかも、ちゃんとその誓いを実現していたんです。
ノートを書いたのは、生活がガラッと変わって「これから何をしようかな」「帯番組がなくなったとしても、これはこれで何でもできるかも」という、ちょっとふわふわしていた時期。なにも縛りがなかったからこそ、やりたいことを自由に想像できたし、損得ではなく好きなひとの名前も浮かんで、それを書き残したからこそ、忘れていても自然とその方向に進んでこれたんじゃないかと思っています。
だからぜひ、自分の可能性を考えながら、いろんなことを書いてみてください。
「ああいうことをやりたい」「こんな人になりたい」……まだなんでもない、誰でもない自分だからこそ、広がる想像があると思います。これはアナウンサーの内定者だけでなく、どんなひとにもやってもらえるはず。
いつかまたそのリストを眺めるとき、思いがけない夢が叶っていることを祈りながら……私も、もう一度書いてみようかな?