【古谷有美】「好き」と「仕事」がつながったミステリーハンター。「仕事って、ええやん!」
●女子アナの立ち位置。
個性的なチームで、ひとつのバンに乗り、旅をする日々
2月15日の『世界ふしぎ発見!』、ご覧いただけましたか? 念願のミステリーハンターとして、デビューしました!
私たちが訪れたのは、南イタリアの田舎町・プーリア。10日間のロケは、6人のチームで回りました。カメラマンさんに音声さん、男女ひとりずつのディレクターに、現地の通訳さんです。
食べるものへのこだわりが強くて、ベテランなのに親しみやすいカメラマンさん。くまモンみたいな“ゆるふわ癒し系”の音声さんは、食事のときにいつもトマトサラダを頼みます。
男性のディレクターさんは、番組ロケをたくさんこなしていて、とても頼れる方。ゆらりゆらりと、私たちが乗る大きな船のかじ取りをしてくれているようでした。女性のディレクターさんは逆に、細やかなお気遣いが光る方。ロケのなかでも「衣装はこうするといいかも」「情報発信はここに気をつけて」なんて、ありがたいアドバイスをたくさんいただきました。
そんな個性的なメンバーでひとつのバンに乗り、のどかな田園地帯を移動する日々。気ままにおしゃべりしたり、ときには眠ったり、車中の空気もとてもいとおしかったです。
そういえば、街では「ぜひ描きたい!」って思うようなおじさんにも、たくさん会いました。ちょっとしたハンチングのかぶり方やセーターの色遣いがとってもおしゃれで……アイディアのストックができたかな。プーリアのおじさんたち、きっとイラストに残したいと思います。
しゃべれるだけしゃべるのも、仕事のうち
ロケ中には、カメラマンさんに「古谷さんってよくしゃべりますよね」と言われたりも(笑)。「カメラが回っていないときもだけれど、撮影中も、よくあんなにしゃべっていられますね」というつっこみでした。
オフのときは単に私がおしゃべりなのかもしれないけれど、撮影中は、あえてです。ディレクターさんに「なんでも自由にしゃべっていいですよ」と言われていたから、感じたことをしゃべれるだけしゃべろうと決めていて。そうしておけば、あとはみなさんの判断にゆだねて、よきところを使っていただける、という気持ちだったんですね。
そんななかで気をつけていたのは、編集点をつくること。
感じたことを思うままにしゃべるのはいいけれど「きれいな建物ですね~、だけどこの町は……」などとだらだら続けてしまうと、そのひと固まりをまるまる使わなければいけません。だから「きれいな建物ですね」でしっかりと言い切り、すこし間を置く。語尾があやふやにならないようにしておけば、使えるコメントだけ抜き出して、編集してもらえます。
そんなふうに見たものを描写したり、編集を意識して話したりするのは、キャリアのなかで当たり前にやってきたこと。特別でもなんでもないけれど、私の10年間の積み重ねだと思っています。「すごい!」と感じる景色が目の前に広がっていたら、その一言で片づけず、20とおりくらいの表現でお伝えする。たとえば淡さが美しいのか、鮮やかで映えるのか……ボキャブラリーの多さが試される仕事でした。
これまで積み重ねてきたスキルや経験が、つながる仕事
現地で取材をするときも、これまでのキャリアが活かされました。「はじめまして!」からはじまって、言葉もあまり通じないなかで、一般の方々にお話を聞く。八百屋のおじちゃん、石職人の方、パスタづくりのおばちゃん……しかも、ディレクターから「こんなことを聞いてください」という指示は、ほとんどありません。
難易度の高いインタビューではあるけれど、これまでしてきたニュース取材だって、同じように大変でした。「1、2分だけお時間ください」とお願いして、はじめてお会いするスポーツ選手に、ど素人の私がお話を聞くわけです。
そんななかでも「これはキーワードだな」という言葉を拾いながら、筋道を組み立てつつ、実のあるお話を頂戴するという作業は、若いときにはできなかったと思います。
もし入社したての20代前半で、すぐにこの憧れのオファーをいただいたとしても、今回ほどの仕事はできなかったんじゃないかなぁ。行く前にも「これまでの集大成の仕事」と思って臨んだけれど、本当に、いままでのスキルや経験がすべてつながる旅でした。
“好き”と“仕事”がつながった奇跡に、心からの感謝を
一生懸命働いていても「これって、どこに向かっているんだろう」とか「わたし、成長しているのかな」って不安になることは、誰しもあると思います。でも、正解がなにかはわからなくたって、目の前の仕事を楽しむ。全力でやりきる。そんなベクトルさえ守っていれば、どんなに回り道をしたとしても、いい山頂にたどりつけると思うんです。そして、その山頂はきっとまた、次の峰につながっている……。
ずっと憧れていたミステリーハンターをやらせていただいて、正直、次の具体的な目標は思い浮かんでいません。でも、それは燃え尽きているわけではなく。社会人として積み重ねてきたことと、一人の人間として好きで積み重ねてきたものが、バランスよくつながって仕事になる――そんなチャンスをいただけた奇跡を、まだしみじみ味わっているところなんです。
「『好き』と『仕事』は別にしなさい」とか「好きなことしかやらない」とかいろんな考え方はあるけれど、一生懸命やっていたら『好き』と『仕事』がつながる瞬間があらわれた。仕事をするって、ええやん。心からそう感じるのに30代までかかったけれど、私にはこれだけの時間が必要だったんでしょうね。そしていまは、それを支えてくれた周りの方々に、心から感謝の気持ちです。