女子アナの立ち位置。

【古谷有美】古谷有美「女ひとり旅の日々。ガンジス川やモロッコで鍛えられたのは…」

TBSの朝の顔、古谷有美アナ。またの名を「みんみん画伯」。インスタグラムに投稿される、繊細でスタイリッシュなイラストが人気です。テレビとはひと味違う、本音トークが聞けるかも。

●女子アナの立ち位置。

私の趣味は「バックパックで世界旅行」。社会人になるとまとまった休みが取りづらいのですが、大学時代はリュック一つで、何週間も何カ月もあちらこちらの国を旅していました。
「冒険好きには見えない」「一人旅って寂しくないの?」
よく聞かれますが、アナウンサーをめざした時からのひそかな夢は、「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターになること。いつか夢が実現したらいいなぁと今でも願っています。

ガンジス川に潜ってみたら

東京の大学に進学するまではずっと北海道で育っていたので、旅行といえば、修学旅行くらいしか経験がありませんでした。
入学後、英語学科で知り合った友だちの中には、バックパッカーで旅をしている人が何人もいたので、
「(北海道から)東京も、海外も、あまり変わらないんじゃないかな」
という気持ちになり、大学2年生の夏休みに初めてひとり旅にチャレンジして、旅にはまりました。

最初の行き先はアメリカでした。周りの友だちに、現地で暮らした経験がある人が多くいて、身近に感じていたということも選んだ理由でした。さらに、「せっかく行くんだったら」と南に下って、メキシコにも足を伸ばすことにして……。ほんの1週間でしたが、その小さな成功体験が自信となって、そこから、フィリピン、カンボジア、タイ、モロッコやインドなど、数え切れないほどの国にバックパッカースタイルで出かけるようになりました。
学生ゆえに「お金はないけど、時間はある」という状況だったので、興味・関心が向くままの旅を続けていましたね。

インドではガンジス川で泳ぐと決めていたので、ゴーグルを持参し、沐浴も経験しました。生活排水も流れているし、ゴミもプカプカ浮いている。インドの現地の人たちに交じりながら、川に潜ってそっと目を開けた時の、あの濁った水の様子と生ぬるさは、今でも鮮明に思い出します。

スマホがない方が旅は楽しい?

モロッコに行った時は、砂漠のど真ん中で携帯電話をなくしたこともあります。でもなくしてもあまり困らなかったな。
当時、スマートフォンはまだ十分普及しておらず、困ったことがあればすぐ現地の人に聞くのが自然でした。
今でも道に迷った時やお店を探す際に、バッグからごそごそとスマートフォンを探すより、ぱっと人に聞いたり、お店に電話する方を選ぶこともしばしばです。むしろ、検索よりも直接「聞く・話す」方が、早く解決する感じがします。

リュック一つで、地元の人に尋ねながら、ネットでは見つからないような小さい食堂で、お客さんや店員さんと仲良くなって話し込んだり、ちょっぴりサービスしてもらったり。
そこで生活している人の経験値、知恵こそが「確かな情報」なんだなといつも実感しています。
今どきのひとり旅だとスマホが頼りになるから、逆に電源が切れたとか、なくした時の不安感って当時の私以上かもしれませんよね。

次にいきたいニューヨークに想いを馳せて

他者を想像する力

バックパッカーの旅って、今振り返ると疲れたり不安になったりすることの連続で、「あの旅が人生を変えてくれた」なんて大げさなことはまったくないのですが、この経験が今の私につながっているものがあると思います。

たとえば、忙しくてもう体も心もボロボロで、「はぁー」とため息とともにベッドに横たわる日に思い出す、旅先で出会った人たちの顔。
彼らにも確実に私と同じ時間が流れていて、仕事で悩んだり、友だちとお酒を飲んでいたりなんて日常を送っているんだろうなと思うと、私も含めみんなが大きな一つの流れの中で生きているんだなと実感できて、悩みとかモヤモヤがふっと消えて、心が穏やかになるんです。

スリランカへ旅行した時の写真 photo by 古谷有美

もともと国や文化に対する偏見は持っていないつもりでしたが、実際に現地で触れあうと、それぞれの国で暮らす人たちの愛らしさや魅力が体験として伝わってくる。すると、不思議と日本の良さや、そこに暮らす自分が囲まれている環境が恵まれていることにも気づくんですよね。
「日本も素晴らしいし、あの国はあの国で最高に魅力的なんだよね」という考え方も含め、「こちらとあちら」のどちらも肯定的に受け止められるようになってきました。

アナウンサーとして仕事をしていると、世界各地から飛び込んでくるニュースの中に、自分が行った街が出てくることもあります。ネパールのカトマンズで大きな地震があったことを伝えた際には、数年前に行ってたくさん写真を撮った古くからある寺院が崩壊した映像もスタジオに飛び込んできました。「もうこの世にないんだ」というさびしさとともに、この寺院を訪れた時の様子をぱっと思い出しました。
旅での経験は、映像の背景で起きていることに思いを巡らせ、想像しながら伝えることの大切さにも気づかせてくれます。

同じくスリランカにて photo by 古谷有美

今はバックパッカー時代のように「何でも見て、食べて、吸収して」といった無期限、無制限な旅はできません。それでも年に1回は、一度も行ったことのない国や場所に出かけることを心がけています。

サバイブする旅といっても、安宿でひたすら歩いてという形ではないけど、行き先と絶対やることを一つだけ決めて、後はノープランで向かう旅。
似たような過ごし方や同じ旅の仕方をしないように、チャレンジすることを毎回、変えています。
たとえば、クリムトの「接吻」という作品を見たくてオーストリアに出かける。そんな強い衝動を大事にして、あとは偶然の出会いに任せてみるように意識しています。

そうやって旅をすると、偶然出会ったことや場所が一層、ありがたく感じられるようになるんです。

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1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
九州のローカル局で記者・ディレクターとして、 政治家、アーティスト、落語家などの対談番組を約180本制作。その後、週刊誌「AERA」の記者を経て現在は東京・渋谷のスタートアップで働きながらフリーランスでも活動中。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。