女子アナの立ち位置。

【古谷有美】常識はそれぞれに違う。だからこそ「良識」 を持って、情報を伝えたい

TBSの朝の顔、古谷有美アナ。またの名を「みんみん画伯」。インスタグラムに投稿される、繊細でスタイリッシュなイラストが人気です。テレビとはひと味違う、本音トークが聞けるかも。

●女子アナの立ち位置。

毎朝の帯番組で積み重ねてきたもの

2年半、レギュラーで出演していた『ビビット』が今月で終了します。
入社以来『Nスタ』や『NEWS23』などを担当してきて、自分が卒業する経験はあったけれど、出演中の帯番組が終わるのははじめてのことです。

毎朝まだ暗いうちから起きて、いつも笑顔で番組を支え続けてくださったMCやコメンテーターの方々に、多くのスタッフさん。私が担ってきた部分なんて、それに比べればほんのひと握りです。だからこそ「このチームがずっとやってきたこの企画は、いつが最終のオンエアなんだろう」「最後のロケには、どんな気持ちで臨まれたのかな」「何年間もこの仕事に捧げてきた日々は、この方々のなかに、どんなかたちで残るんだろうか」……なんて、周りのみなさんが一日いちにち積み重ねてきたものの偉大さを前に、いろいろ考える日々です。

“楽しんで見てもらう”ことの大きな意義

私がビビットに参加したのは、ちょうど自分なりに「これから私は何をしていこうか?」と考えている時期でした。言ってみれば、悩める私をやさしく救い上げてくれたのが、ビビットという場所だったんです。これまで担当してきたのは、夕方や夜の番組が中心。まったく新しい視聴者との出会いにドキドキしつつ、いままで知らなかった自分を見つけられる仕事のように感じました。

たとえば、朝の情報番組は、まず一日のはじまりを気持ちよく迎えてもらうことが一番の役割。いままでは、ニュースとして価値のある内容を正しく伝えることばかり考えていたけれど、その場の空気をほがらかに伝えることにも意義があると思えたんです。

そのためには、AIのように正確無比に情報を伝え続けるだけでなく、すこし肩の力を抜いて、 「ここが気になる!」「ここを深堀りしようよ!」なんて、それぞれの目線を反映しながら番組をつくっていくこともあります。

ライトなテーマだって、出演者やスタッフが向き合う姿勢は大まじめ。一般的に見たら、くだらないと思われてしまいそうな噂だったり、取るに足らない話題だったりするかもしれません。でも、現場は「みんなはいま何が知りたいのかな?」「毎日見続けてくださる方に、どんな切り口なら新しい情報を伝えられるだろうか」なんて頭をめぐらせて、日々の放送を届けているんですよね。ネタの大小にかかわらず、どうでもいい仕事なんてこの世の中にはないんだなぁと思うようになりました。

人間は「正しい/正しくない」で二分できない

報道番組では基本的に、芸能人の不祥事や不倫といったゴシップ的なニュースを扱うことはありません。だから、ビビットに異動した最初のころ、面食らってしまったのは事実。突撃インタビューに伺い、騒動の渦中にいる方へマイクを向けている自分に「……私、これでいいのかな?」と思ってしまったこともありました。

お相手の方が「なんでこんなところまで取材にくるの?」と感じていらっしゃることなんて、もちろんわかっています。私だって、自分のせいでその方の一日を台無しになんてしたくない。でも、仕事だから、情報を求めている方々がいるから、お話は聞かなくちゃいけない。誰かを傷つけたり嫌な気持ちにさせたりしたくて、この仕事に就いたわけじゃないのに……と、悲しくなりました。

すこしずつ慣れてはきたけれど、いまだに「仕事だから仕方ない」「視聴者の方々に求められた報道なんだ」と割り切れない部分があるのも、本当のところ。ゴシップに限らず、事件や事故に関しても、被害者だけでなく加害者の背景や心情を考えはじめると、いたたまれない気持ちになることは少なくありません。

そもそも人間の心や行動は、単純に「正しい/正しくない」なんて二分できるものではないと思っています。とくに人情がらみの話題は、誰かから見たら正義でも、誰かから見れば悪だったりして、グレーな部分もたくさんある。でも、はじめから「悪い人間になりたい」と考えている人なんて、きっといないと思うんです。みんな自分なりの幸せを探して生きているなかで、自分にとっての常識や正解が、誰かにとっては真逆に映ることもあるだけ。

だからこそ、私はいつも“良識”を持って生きていきたいと思います。常識や正解はそれぞれに違うから、仕方ない。だけど、人間のいい部分も悪い部分も伝えていくメディアの人間として、“良識”を持って仕事に当たっていきたいんです。

有終の美を飾るビビット、お見逃しなく

いよいよ、ラスト1 週間。ひとつでも平和なニュースの多い週だったらいいな、と心から思います。ニュースになるのはいいことよりも悪いことのほうが多いし、報道に熱がこもるのもそっちなんだろうけれど……じつはその合間には、誰かのハッピーな話題やかわいい動物の情報が差し込まれていて。「重いニュースが続いてるなぁ……」というときこそ「○○動物園でパンダの赤ちゃんが生まれました」「○○で、子どもたちがこんなに頑張ってます!」なんて話題に救われる。一抹の清涼感が、番組全体を包み込んでくれるんです。

だから、最後の1 週間はそんなニュースにふれる時間をすこしでも長く、多く。見てくださった方々が「今日も一日がんばれそう」と思えるような放送をお届けできるように、私自身も楽しみながら頑張りたいと思います。

1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。
ライター・編集者 1987年の早生まれ。雑誌『走るひと』副編集長など。パーソナルなインタビューが得意。紙やWeb、媒体やクライアントワークを問わず、取材記事やコピーを執筆しています。趣味はバカンス。好きなバンドはBUMP OF CHICKENです。