絵画を前に座る雑誌『HIGH(er)magazine(ハイアーマガジン)』編集長のharu.さん

「タブー視されていた事実を無視したくない」haru.さんが考える、第3次生理ブームのゆくえ

インディペンデント雑誌『HIGH(er)magazine(ハイアーマガジン)』編集長として知られるharu.さん(24)。2015年の立ち上げ以来、2019年2月までに5冊を刊行し、同世代のクリエイターを中心に、たくさんの人やメディア、企業などから支持を集めてきました。そんな彼女は、2019年4月に東京藝術大学を卒業。6月にはコンテンツプロデュース&アーティストマネジメント事業を行う「株式会社HUG」を設立し、風のようにフィールドや肩書きを変えながら、自分の実現したい世界を着実に叶えているように見えます。そんな彼女に、法人化の理由や最近の活動の中心になっている「生理」について、お話をうかがいました。
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「近い思想を持った人たちと”表現活動で食べる”を体現したかった」

――最初に「HUG」を立ち上げたきっかけを教えていただけますか?

haru.さん(以下、haru.): 今までは個人で活動をしていましたが、何かを伝えるために、表現したり人を圧倒させたりすることが、ひとりでは絶対にできなくて。私の知識や技術だけじゃ本当に足りないので。

大人とのお金の交渉やスケジュールの管理も苦手で、今後どうしていこうと悩んでいるときに、今のマネージャーに出会って「全部をひとりでやる必要ってないんだ」と気づけたことも大きかったですね。周りに近しい目標や考え方の人たちを集めたほうが強いと思って「HUG」を立ち上げました。

――「クリエイター集団」ではなく、会社化した理由は何かありますか?

haru.: 仲間と集まって好きなものを好きなように作るのが最高だと思うんですけど、外から見たときに制作した物にお金がついてきて、それで生活できることが大事なんじゃないかと思って。

クリエイターは表現以外に食い扶持を見つけなくちゃいけないと思っている子も多いので、まずは自分たちが表現でも食べていけることを示したい。表現で生活ができるようになったら、今度は稼いだお金で表現に投資したり、他のクリエイターの後押しをしたりできたらいいなと思っています。

telling,の取材に答える雑誌『HIGH(er)magazine(ハイアーマガジン)』編集長のharu.さん

社会に直接繋がるような表現として、広告には可能性がある

――表現にお金がつく、という観点で言うと、最近は広告も制作されましたね。

Haru.: 生理周期を軸にしたライフスタイルブランド「EMILY WEEK(エミリーウィーク)」さんのプロモーションビデオをつくりました。広告は、普段からよく目にするものだからこそ「私たちが本当に見たい広告ってなんだろう」とみんなで話し合いながらつくりました。

そういう意味では「みんなで安心して話せる場所をつくりたい」という『HIGH(er)magazine』を作っていたときからの想いは、広告などのクライアントワークにも地続きなのかもしれません。直接的に社会と繋がるような表現という点で、広告にはとても可能性を感じています。

――生理用品ブランド「エリス コンパクトガード」ともコラボされていますよね。今回のお話はどうして受けようと思ったんですか?

haru.: 未来に繋がると思ったからですね。未来に繋がるってワクワクするじゃないですか(笑)。

生理用品をつくっている方たちに「こういう生理用品やアプローチの仕方があったらいいと思う」ということを伝えられる良いチャンスだと思って。最初に「エリス コンパクトガード」開発チームと一緒に考えた生理に関する質問をInstagramのストーリー上で投げかけたら、なんと700件くらい回答があったんですよ。みんなすごく言いたいことがあるし、外で言えていないんだなということを感じて、形にしていきたいなと思いました。

telling,の取材に応じた雑誌『HIGH(er)magazine(ハイアーマガジン)』編集長のharu.さん

その人その人にあった生理との向き合い方を

――『HIGH(er)magazine』の2号でも「私たちの性教育」をテーマにされていましたが、最近は生理に関するお仕事が多いですよね。問題意識は元々強かったのでしょうか。

haru.: 生理も数あるトピックのひとつ。生理にフォーカスしているわけではないんです。たとえば、私は昔から生理痛やPMSが重くて。いざ自分が困ったときに「どうしてこういう知識を学校で教われなかったのかな」とすごく思ったんです。同じようにセックスについても、身体の扱い方についてちゃんと知っていたら最初のセックスで傷つくこともなかったのにな、と。

きっと誰もが多かれ少なかれ負ってきた傷を自分の胸に仕舞い込むのではなく、性に関する正しい知識を得られるものをつくりたいという気持ちはずっとありますね。これから同じ道を通る子たちに「読んでおいてもいいんじゃない?」と手渡す感じで。

――生理に関して世の中でいろいろな取り組みがされていますが、haru.さんのスタンスはとりわけやわらかく感じます。

haru.: 性に関するトピックをただ公に話せばいいというわけでもないですよね。今までタブー視されてきた事実を無視して議論のテーブルに置くのはちょっと乱暴なんじゃないかなとは思っています。

隠したい人は隠したいだろうし、知ってほしくない人もたくさんいる。そんな中で「生理は隠すものじゃない」と言って、その人から奪い去ったり勝手に開いたりすることはしちゃいけないなと。

だからこそ、たとえば「生理前にもう少しハッピーになれるサニタリーショーツがあってもいいよね」と模索していくようなアプローチが自分には合っているなと思いました。お手伝いをしている「EMILY WEEK」のプロジェクト「#helloperiod(ハローピリオド)」でも、毎月来てしまう生理に「こんにちは、生理さん」と語りかけるようなライトなイメージなんです(笑)。

手を組むharu.さん

――最近では、大丸梅田店の「生理バッジ」が炎上しました。これについてharu.さんはどのように感じましたか?

haru.: 正直に言って、怒りがすごく湧いてきました。百貨店側は「強要はしない」と言っていても、同じ売り場の先輩が付けていたら「私も付けたほうがいいのかな」と、自分の気持ちに反してしまう人もいると思うんです。

「EMILY WEEK」以外にも多くのブランドが、生理を少しでも心地よいものにしようと頑張っているのに、真逆のメッセージに巻き込まれて全体が批判の対象になってしまったことが悲しかったです。
この時の気持ちをTwitterに書き込むと負の連鎖を加速させてしまうと思って、落ち着いてから自分の気持ちをInstagramのストーリーにアップしました。

――こうした状況にならないために、どうしたらいいでしょうか?

haru.: 今回の背景のひとつに、企業側が生理をはじめとしたフェミニズム関連のトピックに関して「最先端だと思われる、お金になる」とムーブメント的に捉えて、本当の意味を追求していないということがあるのではないでしょうか。私も一企業を経営するひとりとして、さまざまな企業と関わる中で変えていけたらいいですね。

横顔を見せるharu.さん

――最後に、今後やっていきたいことを教えてください。

haru.: 私たちの見たい世界に近づくための活動はし続けたいです。最初に話したように、アーティストたちがのびのびと創作に打ち込めるような土台を作りたいですし、広告など生活に身近な存在を使った表現も模索していきたい。私たちの考え方がマス的だとは思っていませんが、アングラやサブカルチャーの枠にも収まりたくないんです。メインストリームと同じくらい大きな選択肢のひとつになっていけたらいいですね。

●haru.さんのプロフィール
東京藝術大学在学中に、同世代のクリエイター達とインディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』を編集長として創刊。多様なブランドとのタイアップコンテンツ制作を行ったのち、2019年6月に株式会社HUGを設立した。取締役としてコンテンツプロデュースとアーティストマネジメントの事業を展開し、新しい価値を届けるというミッションに取り組んでいる。

文筆家・ライター。「家族と性愛」をメインテーマにしたエッセイや取材記事の執筆が生業。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。