そりゃ結婚もなさるでしょう。若林さんの7年分の文章を一気読み。
●本という贅沢79『完全版 社会人大学人見知り学部卒業見込み』(若林正恭/角川文庫)
今月のテーマは「ひとりの夜に」。ネタ切れしてきたときに、「そういえば! 超ふさわしい感じの人、いるじゃないか」って私はひらめいたね。
前に、山里さんの『天才はあきらめた』について書いた時、解説を寄せられたオードリー若林さんの文章に感動して、今度は若林さんの本を読もうって書いてたんだった、私。思い出した。
いいねいいね。若林さん。「ひとりの夜に」ってテーマにど真ん中っぽくない? と、意気揚々と書店で書籍を3冊買ってきて、「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」ってやってたら!
をいっっっつ!!!!!!!
若様、お前もか!!!!!!
ってなりましたよね。
あとから結婚発表のあった「オールナイトニッポン」のアーカイブを聞いたら、春日さんも「1122(いい夫婦)の日に入籍するキャラじゃねーだろ!」とツッコミ入れてらっしゃいましたが、ほんにそれな。
壇蜜さん、安藤なつさんまでは、わかる。でも、若林さん。1122の日はないわー。って、なってました。
とうわけで、なにか、大事なものを失ったような気持ちで読み始めたわけです、この3冊。初出の年代順に。
「人見知り学部」→「ナナメの夕暮れ」→「表参道のセレブ犬」ですな。
でね、で、ひとつわかったことあるんですよ。
あーーー。若林さん、こりゃ、結婚もされるわ。ってことです。
私は、オードリーがM1グランプリ後、大ブレイクした数年のところまでしか、若林さんの芸人活動を知らなかった。
それは、山里さんと「たりないふたり」で、満島ひかりさんにキスする妄想劇場をやってらっしゃる頃。
かろうじてバカリズムさんと共演された深夜ドラマ「住住」は観てたけれど、芸人としての若林さんの姿は、2010年くらいの歴史で止まっている。
だから、嘘がつけなかったり、自意識が強すぎることが、生きることの邪魔になっていそうな方だな……というくらいの印象しかなかった(どこから目線)。
事実、この『社会人大学人見知り学部 卒業見込』を読むと、これはなかなかに……、と思うわけです。発売当時の帯に「中二病爆発」って書かれていたなあとうようなことを思い出したりした。
ところがね、途中から少しずつ様子が変わってくるの。
人見知りで何が悪い。尖っていて何が悪い。
という社会人二年生の若林さんが(文庫版には社会人一年生の時のことも書かれています)、どんどん変わっていく。
この原稿は「ダ・ヴィンチ」に連載されていたものなのだけれど、連載の最中にどんどんどんどん変化していく。
それは、なんというか「そこをアイデンティティにしなくても、十分生きていけるよな」というような変化で。
アドラー的に言うと、「あなたが赤面症であるのは、赤面症を治さないほうが、失敗に言い訳ができて自分の人生にとって有利だから」ということにある日突然気づいてしまうというエピソードを、地でいっているような変化だった。
人見知りであることを卒業してもちゃんと十分生きていけることを、若林さんは連載の最中に少しずつ身体性をともなって納得されていったように見えるのです。
若林さんは、どうやらいろんなことを「自分で」気づかないと、できないタイプの方のようだ。だから、あるひとつの真理を納得するまでに数年から十年単位の時間がかかるようなのだけれど、逆に「自分で」気づいたことだから、いったん気づくと、それは強固な価値観になっているように見える。
それが「身体性」をともなって理解するという手段を取る人の、強いところだと感じる。
『人見知り学部〜』におさめられたエッセイから半年の休載を経て、再びスタートした『ナナメの夕暮れ』は、もうまったく同じ人のエッセイではなかった。
『人見知り学部〜』でセンシティブの井戸を深く掘り過ぎていろんな人と井戸の底でつながってしまっていた若林さんは、『ナナメの夕暮れ』で、今度は地上でいろんな人とつながり「普遍」になりはじめた。
『表参道のセレブ犬〜』に至っては、もう、いろんなこじれた想いが、綺麗に芸術に昇華されてしまっていた。
それを「とがった感やヒネた感(リトルトゥース的に言うと、ハスった感)がなくなっちゃったね」と懐古しちゃうのは、成長をしていない私たちの勝手で。きっとそういうことからも自由になってから、本当のアイデンティティと先鋭は生まれるんだろう。
人は、10年そこらで、こんなにも変わっていけるものなのだな。そこには希望みたいなものすら感じる。
若林さんは多分、丸くなったわけではなくて、ハスりも愚鈍ものみこんで、「大きくなってしまった」のでしょう。
それは、もう、結婚くらい軽々とされますよね。
って気持ちになったところで、今月のテーマ「ひとりの夜に」を終わります。
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こんなにも連載中に変化していく様が、そのまま人生劇になっているエッセイってなかなかない。浅田次郎さんの『勇気凛々ルリの色』や、林真理子さんの『ルンルンを買ってお家に帰ろう』を思い出しました。
ただ、浅田さんも林さんも、連載一話目から作家だったのに対して、若林さんは一作目は芸人で、二作目はエッセイストで、三作目は作家だった。
この次はどんな文章を書いてくださるのだろう。
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それではまた来週水曜日に。
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