青山テルマさん取材後記。誰かの努力を知らないで、人に嫉妬するなかれ
青山テルマ、学食で定食食べてるー!すげー!
先日、人生初のエッセイ本『人生ブルドーザー』を発売した青山テルマさんのインタビュー記事を書きました。
その日のテルマさんはお昼からテレビの生放送に出演し、午後からファンへのお渡し会。わずかな休憩の間にいそいそとランチのお弁当を食べて、私たちに取材の時間を作ってくれて! テレビで見る明るい姿そのままに、それでもこじんまりとした控え室で至近距離で膝を付き合わせると、時折少し伏し目がちになりながら質問に答えてくれました。「実はシャイなんです」とは、マネージャーさん談。
テルマさんは1987年生まれで、取材日にちょうど32歳を迎えたばかり。ささやかなお祝いにもこちらが嬉しくなるぐらい喜んでくださったり、「シャイ」と言いながらも空気がぱぁっと明るくなる言動には、やっぱり元気をもらいっぱなしでした。
実は私、テルマさんとは同級生。大学は違ったものの彼女の出身大学である上智大学のサークルに出入りしていた時期があり、学生時代何度か校内で姿を見かけることがありました。
当時「そばにいるね」が目下大ヒット中で「あっ、青山テルマだ!わー食堂で定食食べてるよー!すげー!」なんて、ご多分にもれず友達と遠くから羨望の眼差しを向けていた記憶があります。著書の中でも綴られていますが、こうした他人の好奇の目がどれだけ彼女に窮屈な思いをさせていたか、その頃は全くわかっていませんでした。
そして、「羨望の眼差し」のあとにはいつも必ず続けてこう思っていた……。
「いいよなー、歌が上手いだけじゃなくて上智出身なんて。クォーターだし英語はどうせ小さい頃からペラペラなんだろうし、海外の血が入ってるから個性的で自由で、恵まれてるってああいうことを言うんだろうな」
言い訳をすると、彼女の歌唱力が素晴らしいこと、しっとりとした歌声でありながら強い意志を感じさせる雰囲気、それらが魅力的だったからこそそんな風に思っていたのであって、憎いとか好きじゃないとか、もっと言えばなんとも思わない、興味も惹かれないような存在であればそんなことは思わなかった。ファンだったからこそ、同い年のアーティストの圧倒的なスター性が、素直にそういう気持ちを湧かせていたのだ。
あれから10年。『人生ブルドーザー』を読んで数ページで、そうした勝手な批評がどれだけ無神経なものだったかを痛感することになります。
想像を絶するテルマさんの人生
生まれはアメリカながら3歳で帰国。英語はシングルマザーのお母さんが一生懸命学費を稼いで、インターナショナルスクールに通わせてなんとか身についたもの。インターに通う通学路などで受けた数々の偏見や誹謗。高校の成績は最下位に近く学校に自主退学を勧められたものの、そこから猛勉強し上智大学へ入学したこと。そしてそれら数々の困難があっても、夢のために続けてきた「歌」を決してやめなかったこと……。
さらに、現在のテルマさんの象徴とも言える個性的でオンリーワンなファッションセンスは、実は仕事がスランプに陥った20代から奮起し、研究を重ね開花していったということも綴られています。
そんなテルマさんに対して、「海外の感覚を持っているからきっと昔からおしゃれが大好きで、センスも抜群なんだろう」と思っていた私。ねぇ、これどーーーんな偏見なわけ?あまりにも浅はかで幼稚な妬みを自分がしていたことが、読み進めるごとに恥ずかしくて。
でもね、すごいのがこの『人生ブルドーザー』、そんな偏見や決めつけの類を全て「べつに〜気にしてないし〜」って受け入れてくれるような、テルマさんの器の大きさがそのまま本になったような明るく救われることだらけの、金言にあふれた著書なんです。
「あの人スタイルいいのにあんなにご飯大盛りだよ。いいね、食べても太らない人は」
「有名大出身でしょ?頭の作りが違うわ。そりゃ出世するよね」
……いやもっと言えば、
「あの子、脚細くてマヂうらやま。デブの苦労知らないんだろうな。」
いやもっともっと遡って、
「えー!○○ちゃん、また新しいぶんぼうぐ買ってもらってるーお金持ちずるーい」
にいたるまで。
物心ついてからどれだけ、その人の背景や暮らしに心を添わせることのない「根拠のない羨望」に時間を使ってきたことだろう。
彼女がしてきた努力、彼が舐めた苦渋、あの人の知られざる家庭環境や、その人が誰にも見せなかった悔しさ。
そういったものが、「ある」と想像できるだけでも大きく違うのに、成功している人や脚光を浴びている人はきっとずっと輝いてきて、試練も悩みもその人たちには簡単に乗り越えられるスパイス程度のものにすぎないって思い込んで。
「どうせ自分とは違って」のスタンプを、何回ポイントカードに押してきたことか。
恵まれてる、だけじゃ成功しない
あの日上智大学の食堂で感じた「いいなー青山テルマ」は完全に打ち砕かれた。
彼女だからこそ、あの人生を生きることができて、青山テルマにしか「青山テルマ」を輝かせることはできなかったんだ。
その努力、お前にできたか?あの挫折、あんた乗り越えられたと思う?
この本の中でテルマさんは繰り返し「他人と自分を比べるな」「他人に期待するな、自分に期待しろ」と綴っています。
32歳、私も昔よりは「自分軸」で生きることを自然にできるようになってきたとは思う。
でもだからこそあえて比べてみようか。彼女のようなたくましさを、天真爛漫さを持って、物事と向き合ってみたい。色んな世界を見てみたい。
今、新しい気持ちで思ってる。
「いいなー、青山テルマ!あなたのように生きたいよ!」
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