紗倉まな×ウイ対談

紗倉まな×ウイ対談03「タイトルと表紙はこだわりますよね」

AV女優の紗倉まなさんと、紗倉さんの書く文章の大ファンというコラムニストのウイさん。紗倉さんはエッセイ『働くおっぱい』、ウイさんは『ハッピーエンドを前提として』(ともにKADOKAWA)を発売するなど、お二人は著者としての顔もお持ちです。自著に込めた思い、こだわりなどを語っていただきました。

●紗倉まな×ウイ対談〈番外編〉

ウイさん(以下、ウイ): 僕も男ですから、まなさんのAVは拝見したことあるんです。でも、小説を読んだ日からまなさんは文豪です。はじめは好きなAV女優さんが小説を書いたぞ、ということで処女作『最低。』を拝読しました。途中から誰が書いているか忘れるくらいのめり込んでしまいました。なので、自分が本をだした時に「文豪としてのあなたのファンが本をだしました」という手紙をそえて、献本させていただきました。

紗倉まなさん(以下、紗倉): ステキなお手紙、ありがとうございました。私も、ウイさんの、論理的に書いているのにところどころに入るユニークな表現が上手だなと。「求婚しかけました」「扶養させてください」っていう言葉の振り幅。好きだなあ。

ウイ: 表現力で言ったら、まなさんの『最低。』について少し語ってもいいですか。好きな箇所がたくさんあって、付箋貼りまくっているんですよ。
例えば「見たことのないもののけが潜んでいそうな不穏な霧がそれらを食べるように覆い、シルエットをぼかしている」っていう表現。確かに山道とか運転していると不気味な霧に飲み込まれることがあるんですけど、こんな表現思いつかない。「まなさん、1回この霧に潜むもののけに喰われたことあるんじゃねぇかな」って思うような表現。惚れ惚れします。

「タイトルは最後に決めた」(紗倉)

ウイ: ひとつ疑問なんですけど、登場人物のなかに「最低。」な人って一人もいないと思うんですよね。みんな何かしら希望みたいなもの見いだしている。なのに何でタイトルが「最低。」なんですか?

紗倉: タイトルは最後に決めたんです。主人公の4人全員が心の中でつぶやくとしたら、どんな言葉がふさわしいんだろうって思ったんですよ。

ウイ: うわー。すごい。それで「最低。」なんですね。生まれて初めて、ストーンって腑に落ちました。腑ってなに?って思ってたけど、今落ちてきたこれ、ここのことなんですね。なるほど。

紗倉: 私も仕事をしている中で、何かの局面にふれた時に思い起こしてしまう言葉ではあるんですよね。だから台詞っぽく、最後に「。」をつけた。
自分としては納得してつけたけど、タイトルだけを見て読んでくださった方には、内容との差を感じたかなあと反省しました。そういう意味で、最新刊の「働くおっぱい」は、どストレート。

ウイ: デザインもほんわかぱっぱしてていいですよね。

紗倉: ウイさんの著書は表紙で「クリームソーダを飲む、素直で流されない彼女」そして、裏表紙では「自分はコーヒーを飲んでいる」。本を読みながら理解していくと、これはウイさんのなかでの一番ステキな女性像の描写なのかなって思いました。そして前向きなタイトル。理想的だなって思います。

ウイ: そうなんです。編集者さんのアイデアなんですけど「幸せ」の象徴がクリームソーダなんです。それでクリームソーダのエピソードも追加しました。表紙って大事ですよね。

「批判もされますけど、感謝しかないです」(ウイ)

紗倉: 私はこの処女作、あら探しをされた文章でもあったんです。心を尽くして書いても、そこはすくいとってもらえず、叩くための材料として使われてしまう。心を尽くして書いたものが批判されることはつらいんですよね。だからこそ、こんなに付箋をはって、一つ一つの文章を丁寧に意味を拾ってくれたことが尊いなと思って感激しました。

ウイ: わかります。僕もこの本を出したときに、何千字もの呪いのメールをいただいているんです。「第一章のここ、私は間違っていると思う。なぜなら~(略)。次に第二章のここ、~(略)。続きはまた明日送ります」って。

紗倉: 続きはまた明日って(笑)

ウイ: それ読むと、僕なんか想像しちゃうんですよね。お金を使って買っていただいて、読んで、こんなに長行のメッセージを書いて、でも疲れちゃったから「続きはまた明日」っていう1日の終わりを。いやもう、そんな忙しいなか、エネルギーを使っていただいたことを想像したら感謝しかないんですよ。

紗倉: 卑屈に受け取らない(笑)。私だったら、はあ?やってやるよ!かかってこいや!どうしたらこいつを制圧できる一言をぶつけられるかって考えちゃいます。

ウイ: いや、僕だってアマゾンレビューが★1つの方には、「話し合おう」って思いますよ。気に入ってもらえなかったのは僕にも悪いところはあると思う、だけど酒でも飲んでさ、一緒に話し合おうよって。おごるから、って。

「渋谷の人混みを見ているとグッときちゃう」(ウイ)

紗倉: 私はある意味人間ってこういうものだって諦めてる部分もありますね。根暗な父親のDNAが働いているんでしょうかね。もっと自己肯定感高くいければ多幸感あふれると思うんですけど……。ウイさんは自己肯定感、高そうですよね。

ウイ: そうですね。きょうも渋谷の街を歩いていて、この人たち何食わぬ顔して歩いているけど、みんな何かしらの悩みや不健康や悪しき習慣や修羅場やトラブルを抱えているんだろうなて思ったら、ベイビーみんな大丈夫だよ!がんばろうぜ!って言いたくなっちゃった。なんか人混みを見ているとグッときちゃうんですよ。

紗倉: 渋谷の人混みをそんなエモく見られるのなんてウイさんくらいですよ……(笑)。

●紗倉まなさんプロフィール
1993年生まれ、千葉県出身。工業高等専門学校在学中の2012年にSODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。著書に小説『最低。』『凹凸』(KADOKAWA)、エッセイ集『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)などがある。

●ウイさんプロフィール
1982年、山形生まれ。彼女なし。自称恋愛結婚不適合者。会社員のかたわら、月間PV約100万のブログ「ハッピーエンドを前提として」を運営。3月に同名の書籍を発売。恋愛ハウツー記事が人気で、ツイッター(@ui0723)のフォロワーは約4万人。

働くおっぱい

著:紗倉まな

ハッピーエンドを前提として

著:ウイ

telling,の妹媒体?「かがみよかがみ」編集長。telling,に立ち上げからかかわる初期メン。2009年朝日新聞入社。「全ての人を満足させようと思ったら、一人も熱狂させられない」という感じで生きていこうと思っています。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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