編集部コラム

ハロウィン騒ぎを冷静に考えてみる

今週から日替わりでお送りしている「telling,編集部コラム」。金曜日担当の中釜です。ここ1週間、世間を賑わせたハロウィン騒動について考えてみました。

ハロウィン騒ぎを冷静に考えてみる

ハロウィンが終わった。
渋谷では先週末に軽トラックが横転させられたし、ハロウィン当日は機動隊が数百人規模で待機し、逮捕者も出ている。

一方、私のハロウィンは静かだった。
知り合いのライターさんや友達にハロウィンのお菓子をもらったくらい。仮装もしていない。 

そもそも、ハロウィンっていつ日本で始まったんだっけ

そもそも、ハロウィンっていつから日本に定着したんだっけ。調べてみると、
ここまで混雑が激しくなったのは2014年からだった。警視庁の機動隊員が急遽出動したのもこの年が最初だ。

そんな盛り上がり甚だしい「ハロウィン」のことばが日本で表れたのは、80年以上前。昭和11年の新聞記事で見つけた。

満月、そして街には仮装の妖怪変化が出没するハロウイーン(日本のお盆の前夜に相当)に当たる31日は…
(1936年11月2日 朝日新聞夕刊)

日本でハロウィンパーティが開かれた、みたいな記事ではなく、アメリカで実施された「多産競争(優勝者は該当者なしで、1等の賞金500万ドルは9人子どもを産んだ母親らに山分けされた」(むしろそちらのほうが気になるニュース……)という記事にひっかけて単語が出てきただけだった。その後、新聞に「ハロウィン」の言葉はまったく出てこない。80年代はまるっきり、90年代の幕が開けても、「ハロウィン」はすがすがしいほどニュースになっていない。

そして、見つけましたよ。日本でハロウィンをバズらせた仕掛け人の情報を。

 「夏と冬を埋める客寄せ用の記念日が欲しかっただけ」

 日本の百貨店やお菓子屋さん、ギフト業界が本格的にハロウィンに注目するようになったのは、5、6年前から。(中略)なぜ、ハロウィンなのか。百貨店やメーカーが口をそろえるのは、「秋には決め手となる商戦がなかった」ということ。夏のお中元、行楽シーズンと、12月のお歳暮、クリスマス商戦との間だが抜け落ちており、その間を埋める客寄せ用の記念日がほしかったというわけだ。(19911019日・朝日新聞夕刊)

客寄せ用の記念日……
なんという身もふたもない言葉……
90年あたりから、菓子メーカーや百貨店が、同時多発的にハロウィンを仕掛けている。ちなみに、ハロウィン商品をいちばん最初に売り始めたのは、お菓子メーカーのモロゾフだった(中釜調べ)。1997年にディズニーランドでハロウィンパレードが始まり、普及が加速したよう。

まあ、そんなもんなんだろうな、と思う。バレンタイン、クリスマス、父の日…みんな企業の思惑がある。 

ただ、こんなに急速に、定着したイベントはハロウィンだけ。
警察が出動する、もはや暴動のような騒ぎになるのは、ハロウィンだけ。
みんな、幕末の「ええじゃないか」騒動のように世直しを訴えるわけでもないし、学生団体「SEALDs」のように政治的な意見を掲げているわけでもない。

ただ、騒いでいる。

 いつもとは違う「仮面」をつけられる日

 私は、ハロウィンの仮装をしたことがない。
でも、「ただ騒ぎたいだけの浅はかな人たち」と切り捨てたり、怒りも感じない。

こんなに盛り上がる理由を調べれば調べるほど、理由なんてなく、シンプルに「人間の本能なのかもしれない」と思うのだ。
自分を開放したいのかな、と。
たまにはいつもかぶっている仮面を脱ぎ捨てて、いつもとは違う「仮面」をつけて、ハメを外したい。
「この日だけは許される」という免罪符と口実がある日だから。
そんな気持ちの表れか、ふくよかな女性が限りなく面積の小さい下着姿ーー「ほぼ裸」で練り歩いているのを、先週末に渋谷で見た。
もはや仮装ではない。普段なら露出狂でしかないけれれど、ハロウィンなら許される。

普段、「許される」ことが少なくてストレスがたまっているのかもしれないし、単にお祭りが好きな国民性だから、かもしれない。でも、いつでもどこでも、騒ぐわけでもない。
もちろん、便乗して痴漢をしたり、他人の車をひっくり返したりすることに同意はしないけれど、好意的に言えば節操がある、とも言えるし、「ハロウィン騒ぎをするやつ=バカ」みたいに目くじらを立てるのは、あまりに世知辛い。

「いつでもバカ騒ぎ」ではなく、あるいみ「許されている日だけバカになる」のが、
「バカになりきれない私たち」が、日本人だから。

ちなみに、さきほど紹介した1991年の記事には続きがあって、空振りした記念日も紹介されていた。

仮装派じゃないけど、10年後もやっぱり「ハロウィン」は残っていてほしい

 心に残ったのは、この記念日。

  • ボスの日(1016日)

    米国の経営者の娘が、経営者と部下の関係を円滑にするために1958年に提唱

    →日本では、部下がボスをランチに招待したり、プレゼントをしたりする日として、日本橋三越本店がしかけた

根付かなくてよかった、このイベント。

結局、みんなが「楽しい」と思えるイベントだけが、ずっと残る。ハロウィンが、一部の迷惑行為をする人で規制され、縮小されて、消えてほしくないなと思う。仮装はしなくても、ハロウィン特別メニューや、ハロウィンを口実にした友達との集まりを私は楽しんでいるし、そうやって小さく小さくハロウィンを楽しんでいる人って、意外に多いと思うから。

 

telling,創刊編集長。鹿児島県出身、2005年朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル本部、新規事業部門「メディアラボ」など。外部Webメディアでの執筆多数。