LGBTの「カミングアウト」は、どう受け止めたらいんだろう

先日、経済評論家の勝間和代さんが女性との交際を公表し、話題になりました。ドラマ「おっさんずラブ」も人気を博しました。性的少数者(LGBT)についてオープンに語られることが多くなってきていますが、一方で、同性愛者だけに使われがちな言葉に「カミングアウト」があります。同名の新著を書いた同性愛者の文化人類学者、砂川秀樹さん(51)に、その思いを聞きました。

砂川秀樹さん、新著『カミングアウト』に込めた思い

「これからきっと、カミングアウトする人は増えると思うので、(大事なのは)言われた時に周りの人たちがどう受け止めるか。相手は、自分との関係を大切に思っているからこそ伝えてくる、ということが基本です」と砂川さんは語ります。
 砂川さんの書いた『カミングアウト』には、八つの「カミングアウトストーリー」が載っています。
 最初の物語は、兄に自分が同性愛者であることを伝えた男性の話。20年ほど前に一緒にテレビを見ていた際、性同一性障害の人が出ているニュースについて兄が「気持ち悪い」と言ったことから、「この人には言うまい」と心に誓っていたそうです。

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「気づいてあげられなくてごめん」と泣いた兄

 ただその後、高校時代の同級生経由で兄に伝わったと思われる出来事があり、兄が上京した際、自身がマスターを務めるゲイバーに呼びました。
 その帰り道。「いつからゲイなの?」と聞かれ、「いや、昔からなんだ……」と返すと、兄は「じゃあ、ずっとひとりぼっちだったんだ? 気づいてあげられなくてごめんな。ずっと心細かっただろう?」と言って泣き出したそうです。
 男性は「いやぁ、むちゃくちゃ嬉しかったなぁ、あの言葉は」と振り返ります。

 八つの「カミングアウトストーリー」はこのように、大切な肉親と関係を結び直す過程が描かれます。

カミングアウトは、伝えて終わりではなく、「人間関係が作り直される」スタート地点

 砂川さんは著書の中で、「カミングアウトは、伝える側と伝えられた側との関係が作り直される行為だ。いや、作り直される行為の始まり、という方が正しいだろう。なぜなら、カミングアウトは伝えればそれで終わり、というものでもないからだ」と説明します。

 電通が2015年に実施したインターネット調査では、自分がLGBT層に該当すると答えた人は7.6%(約13人に1人)と算出されています。文部科学省は同年に初めて、性的少数者の子どもに配慮するよう都道府県教育委員会に通知を出しました。東京都渋谷区、世田谷区で同性カップルを結婚に準じる関係と認めるパートナーシップ制度を定める自治体が生まれたのも同じ2015年。LGBTへの理解は、着実に進んできているように見えます。

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カミングアウトが受け入れられたと思ったのに・・・

 一方で砂川さんは、会社などでカミングアウトが受け入れられた後も、LGBTに関する冗談めかした物言いをする人がいて、それが当事者を一層傷つけるケースが結構な数がある、と指摘します。
「カミングアウトしていない場合は、そういう冗談に慣れているし、自分に向けられているとは思わないけれど、している場合は『自分が伝えているのにその冗談を言うのか』と一層傷つくし、場の雰囲気から『そういう言い方は良くない』とはなかなか言えない。『でも、当事者として言わなきゃいけないんじゃないか』という葛藤がある」と説明します。

 受け入れられたと思ったところで裏切られ、余計傷つく。これは、15年に一橋大学の法科大学院に通っていた男性、Aさんが校舎から転落して亡くなった事件でもあった構図と言えそうです。

「アウティング」

 Aさんは同級生の男性に好意を伝えました。そのときは、『気持ちにはこたえられないけれど、そのまま友達でいようよ』と言われたが、彼はLINEで友人7人にAさんが同性愛者であることを暴露してしまった。本人の許可なく、誰かにその人の性的指向をばらす、いわゆる「アウティング」という行為です。Aさんはその後、同級生に会うと吐き気など心身に変調をきたすようになり、のちに大学内で転落死しました。

 砂川さんは「自分の告白に対して、『そのまま友達でいようよ』と言われたことは、告白した側には、付き合える展開を除けば、これほどうれしいことはない」と話します。恋人としては付き合えないにせよ、自分のことを分かってくれるんだ、と友情が深まったように感じたあとで、裏切られるような形になり、より一層傷ついたのではないかと。
 砂川さんも高校時代、好きだと伝えた相手に無視されるようになった経験があるそうです。「嫌悪感の表れとも思われる無視だけで、これほど辛い思いをしたのだから、もし彼が、このことを誰かにバラしていたなら、自分はどうなっていただろうかと思う」と記しています。だからこそ、自身を含めたLGBT当事者の中で、「Aさんにシンパシーを感じた人はたくさんいると思う」と語ります。

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カミングアウトするときに、LGBTの人が望んでいること

 当事者がカミングアウトしたことで関係が悪化した場合、「この人にはカミングアウトできない」と思ったら、どうしたらいいのでしょうか。砂川さんは、「自分が傷つくのだったら、相手が親であったとしても、距離を置くことも必要」と考えます。
 一方、「受け入れられない側」はどうすれば良いのでしょうか。砂川さんは、受け入れられない人には、その人のライフヒストリーの中で、受け入れられない理由となる何かがあるはずだと考えています。「どうして自分は嫌悪する気持ちがあるのか、できれば見つけてほしい」

 自分の中にある同性への「好き」という気持ちを押さえ込んでいるのかもしれません。そうではなくても、自分の中で抑圧している何かがあるのかもしれません。「何かの瞬間に、嫌だと思う根っこが見つかることがあるかもしれない」と話します。
 砂川さんは自身の著書に関し、「異性愛者として自分たちがしていることと、同じことをしたいだけなんだ、ということを初めて知った」という感想が寄せられたことについて、「それが一番、私が読者に知って欲しいことだったので、うれしかった」と喜んでいます。

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 「『何でゲイやレズビアンの人はわざわざカミングアウトをするの?』と思っている人にこそ読んでもらい、当事者たちの気持ちを知ってほしい」と語った砂川さん。LGBTに限らず、知らず知らずのうちに自分の「外」だと思っていた異文化や他者と向き合うとき、私はどうするだろう。「多様性を認めよう」と言うのは簡単だけれど、私が親しい人からもしカミングアウトされたら、どうするだろう……。


 同書の最終章は、「カミングアウトは社会に対する贈り物」ということばで結ばれています。私は、仕事経由で知り合ったLGBT当事者たちの飲み会に参加していた際、アライ(理解者)として参加していた男性から「僕もゲイだったみたいなんです」と聞いたことがありますが、思いも寄らなかった親しい人から言われた経験はまだ、ありません。取材を通じて多くの当事者の方々と接しているので、それほど驚かないのではないか、と思ってはいるものの、実際のところはそのときになってみないとわからない。ただ、これまで以上に深くしっかりとお互いを知るための大切な「贈り物」として受け取りたい、と思います。

 

  • すなかわ・ひでき
  • 1966年、沖縄県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科満期退学。博士(学術)、文化人類学者。1990年からHIV/AIDSに関する活動に参加、2000年に東京レズビアン&ゲイパレードの実行委員長を務める。著書に『カミングアウト」(朝日新書)や『新宿二丁目の文化人類学」、共著に『カミングアウト・レターズ」(ともに太郎次郎社エディタス)など。   

 

未婚、既婚、子どもの有無、転職や独立の経験者。恋好き、旅好き、おいしいもの好き(缶チューハイ含む)。さまざまなstoryを持つ「telling,」編集部メンバー。

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