わたしたちの大人婚物語
わたしたちの大人婚物語#15

40歳を過ぎ、「結婚=子ども」から放たれて見つけた生涯の伴侶

「このままずっと一人なのかな」と悩むあなたに届けたい、本当にあった大人のマリッジ・ストーリー。35歳以降に結婚した大人婚の先輩たちに、出会ったきっかけや結婚の決め手、妊活・キャリア・親の問題まで根掘り葉掘り聞きました。ここに紡がれた幸せな物語はすべてほんもの。だから全部あなたにも起こりうること――。今回は、病気によって子どもと結婚を諦めていたMさんが44歳にして生涯の伴侶と結ばれるまでの大人婚物語。
私が婚活で1000人に会った理由――恋人との死別を乗り越えて 「もうなにもなくなった」 過労で仕事を辞めた44歳、結婚の道を拓いてくれたのは母でした

【今回の大人婚】Mさん 結婚時の年齢:44歳

関西で看護師として働くMさんは現在、45歳。六つ下の夫・Kさんと昨年結婚したばかりの新婚さん。二言目には「幸せです」という言葉がこぼれてしまうほど、充実した結婚生活を送っている。でも、一時期は「自分は結婚してはいけない」と異性との出会いを避けていた。

30代前半で病気の診断

看護師として忙しく働いていたMさんは30代前半のある日、脚が腫れていることに気づいた。

「最初は仕事の疲れのせいかと思ったけれど、そのうち靴も履けないほど痛くなって。なかなか原因もわからなかったのですが、何軒目かの病院でやっと関節リウマチと判明しました」

「関節リウマチ」とは、関節を覆う滑膜に炎症が起こる自己免疫疾患。女性の罹患が多く、Mさんのように30代以降で発症する人が多いそう。

「いろんな薬を試して、やっとたどりついた私に合う治療薬は、当時、妊娠すると高い率で胎児の異常や流産が起こる〈妊娠禁忌〉とされていた薬でした。ほかの薬も試したのですが、私には合わず、めまいと関節痛で服用を断念しました。薬を中断すると日常生活が送れないほどの関節の痛みが起こるので、医師とも相談のうえで、私は子どもを持つことを諦めざるを得ませんでした」

「なんで結婚しないの?」に涙

当時付き合っていた人に打ち明けると、「(子どもを作れなくても)大丈夫」と慰めてくれたけれど、Mさんは自分から彼に別れを告げた。

「病気になったことも、妊娠できないこともショックで、こんな私が彼と結婚しては申し訳ないと思い詰めてしまったんです。それ以降は出会いを避けて生きてきました。付き合って結婚となれば、子どもの話はワンセット。そこでお互いにしんどい思いをするなら、最初からお付き合いしないほうがいい、と。辛かったのは、事情を知らない周りの人からの『なんで結婚しないの?』『理想が高すぎるんじゃないの?』『女性にはタイムリミットがあるんだよ』などの言葉。そこでシリアスな病気の話をすることもできず、いつも笑ってごまかして、心では泣いていました」

結婚に対して前向きになれたのは、じつは40代になったおかげ。

「妊娠適齢期を過ぎてしまえば、〈結婚=子ども〉と周りから求められないので、気が楽になったんです。子どもはいらないけど生涯のパートナーはほしい、そういう男性が見つかるんじゃないかなって。それからは友達に誘われて飲み会に行ったり、最初はこわごわでしたが、徐々に出会いに前向きになっていきました」

初対面のカラオケで彼からもらったパウンドケーキやゼリー。「どれもすごくおいしかったです」
初対面のカラオケで彼からもらったパウンドケーキやゼリー。「どれもすごくおいしかったです」

「女子枠」だと思っていた彼

43歳のとき、友だちに「女子会しよう!」と誘われて行ったカラオケで出会ったのが当時37歳のKさん。自分のことを「あたし」と言い、趣味で作ったお菓子をプレゼントしてくれたKさんは女性陣の中にいても全然違和感がなく、友だちが「女子会」と言ったのもうなずけた。

「当時、Kは既婚者だったのもあって、最初はまったく異性として意識していませんでした。もらったお菓子がおいしくって、話も合って、気遣いもできて、いい友達ができたな、と思っていました」

その後も、友だちを交えてバーベキューや飲み会でしょっちゅう顔を合わせるように。そのうち、彼が離婚に向けて話し合いをしていることを打ち明け、思い悩む彼を友達と一緒になって励ました。ほどなくして離婚が成立。

「その時の彼があまりにも落ち込んでいたので、元気づけたくて『これからは気楽な独身同士だし、ご飯でも行こうよ』と誘ってみたんです」

そして、初めて二人で飲みに行くことに。

「複数で会っていた時にも感じていたけれど、二人で話すと、まるでもう一人の自分と話しているみたいに話が合うんです。なにか悩み事を話すと、こう言ってほしいな、という言葉をくれる。それはKもそうだったみたい」

お付き合いするようになって数カ月後、Kさんから婚約指輪を渡された。その時の指輪には、じつはこんなエピソードが。

「彼はそれとなく私の指輪のサイズを探ろうとしたようですが、私は看護師という職業上、指輪をはめたことがなくて。そこで彼は私が寝ている間に糸を指に巻いて、その長さをお店の人に伝えたそうです。計測結果は19号(笑)。たぶん測り間違いだから、とお店の人が計測用のジャラジャラとしたリングを貸してくれたそう。それをまた寝てる間に私にはめようとして……。さすがの私も目を覚まして、なんでこの人、こんな夜中に知恵の輪で遊んでるんだろう、て思ったんです(笑)」

「指輪をつける日が来るなんて……」

結婚の目的は「子ども」じゃない

笑いの絶えない二人は、交際スタートから間もなく結婚した。彼が一度結婚に失敗していることは気にならなかったのだろうか。

「全然気になりませんでした。バツイチであることと、こんなに合う人ってことを天秤にかけたら、だんぜん合う人ってことのほうが大事だったんです。むしろ私は六つも年上で持病もある自分に引け目を感じていました。でも、彼のお母さんに初めてお会いした時、私が自分の年齢のことを謝ると、『そんなのどうでもいいのよ。息子を元気にしてくれてありがとうね』って言ってくださったんです。『離婚した時のKはポキッと折れてしまいそうだった。でもあなたが支えになってくれた』って」

それはもちろんKさんも同じこと。

「子どもが欲しいから結婚するんじゃない。仮に子どもがいたとしても20~30年したら結局夫婦二人になるんだから、夫婦の絆のほうが大事だと思う、とはっきり言ってくれました。前回の結婚の破綻から感じたこともあったのかな」

当初はKさんが再婚なのもあり、結婚式はせず、ウェディングフォトで簡単に済ませようと思っていたMさん。念のため、Kさんに意向を聞いてみると「Mのお母さんにMのドレス姿を見せてあげたい」と言う。

「そこでハッとして、そういえば母はどう思っているんだろうと聞いてみたんです。そしたら、『本当はあなたの晴れ姿を見たかったけれど、本人が挙げないといっているものを無理に頼めないと黙っていた』と泣いて喜んでくれて……。お互いの家族だけを呼んで、小さな式を挙げました」

「式では共通の趣味である麻雀を両家の父としました。ホテル側もこんなの初めて、と面白がって準備してくれました」
「式では共通の趣味である麻雀を両家の父としました。ホテル側もこんなの初めて、と面白がって準備してくれました」

一人で生きてきたことは、最大の魅力

二人の将来の夢は、Kさんの手作りお菓子のお店を開くこと。今も週末は地域のイベントで手作りお菓子を売っている。

「いつもは病院の中で働いているので、青空の下、お客さんとおしゃべりしながら彼の作ったお菓子を売るのが本当に楽しくて、いい息抜きになっています。彼といるとどんなハプニングもぜんぶ笑い話になるんですよ」

大人婚のメリットとは。

「私は子どもをもたなくてもいい年齢になったからこそ、生涯を共にできる人と会えたと思っています。もし私が病気じゃなくて、子どもありきで結婚相手を急いで選んでいたら、子どもが巣立った後、二人の関係がうまくいかず、苦しい思いをしたかもしれません」

今、結婚に焦っている人へメッセージを。

「夫は私の自立しているところを、いいなと思ってくれたそうです。数々の恋愛コラムを読んでも、選ばれる女性は、依存しない人、経済的にも精神的にも自立している人、と書かれてあります。今、シングルで悩んでいる方も、自立して一人で生活できていることが、男性にとってすごく魅力的であることに気づいてほしい。自立した女性であることに誇りを持ってほしいです」

イベントでお菓子を売るMさん夫婦。
イベントでは夫婦でお菓子を売る

(写真:本人提供)

私が婚活で1000人に会った理由――恋人との死別を乗り越えて 「もうなにもなくなった」 過労で仕事を辞めた44歳、結婚の道を拓いてくれたのは母でした
エッセイスト/ライター。エッセイ集『夢みるかかとにご飯つぶ』(幻冬舎)2024年7月発売。出版社で雑誌・まんが・絵本の編集に携わったのち、39歳で一念発起。小説家を目指してフリーランスに。Web媒体「好書好日」にて「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。特技は「これ、あなただけに言うね」という話を聞くこと。note「小説家になりたい人(自笑)日記」更新中。