【高尾美穂医師に聞く#22】運動をしたいのに続きません。習慣化するコツはありますか?
Q. 運動が大事だとはわかっていますが、どうしても続きません。ダイエットや健康のことも気になりますが、やろうと決めても続かない自分に呆れてしまいます。先生はヨガインストラクターでもありますが、習慣化するコツはありますか?(30代前半、女性)
高尾美穂医師(以下、高尾): 30代前半の女性から「運動が続かない」と相談されたら、私の答えは「それでいいのでは」ですね。たぶん、ご相談者さんにはほかにもっと好きなことがあるのではないでしょうか? 1日は24時間と限られているわけだから、好きなことをしていたらいい、というのが正直なところです。
運動はもちろん短期的にも長期的にもすごく良いものですが、ご相談者さんの年齢なら、好きなことをするほうが大事なのではないかと思うんです。もう少し年代が上がってくると、子育てや介護だったり、仕事で管理職になったりして制約が増えていくわけです。いまはきっと動ける体も好奇心もあって、ある意味、自分の時間の使い方を自分で決められるときなのではないでしょうか。
30代で運動が好きな人はすでに取り組んでいるだろうし、本気で習慣化したかったらすでにやっていると思うんですね。ご相談者さんはいま、たくさんあるだろう好きなことややりたいことの中から運動を選択していないという状態。だから、続かないことを良くないと思わず、ほかのものごとを選んでいると思ったらいいのではないでしょうか。本気で運動習慣をつけなきゃと思うまでは放っておいていいと思いますよ。
運動習慣をつけるべき年代とは?
──年齢がもっと上がってくると、やはり本気で運動習慣をつける必要があるのでしょうか。
高尾: 40歳すぎあたりからは、本気で運動を習慣づけることをおすすめしたいですね。そこから先、運動習慣をつけようと思うとかなり大変になってくるからです。女性ホルモンのエストロゲンが減ってくると、筋肉はつきにくい反面、脂肪はつきやすくなるので、体が引き締まるといった変化を感じるまで時間がかかる可能性が高い。そうすると手応えを感じられず、続けるのにまたハードルが上がる、という側面はあると思います。だから、否応なく本気度が求められる年代でもあるというわけです。
まず“出合う”アクションを
──運動の習慣化を目指す人にアドバイスはありますか。
高尾: きっといままでに、してみたことがある運動の種目があるのではないかと思うんですね。それは習慣にならなかったわけだから、いままでトライしていないことの中から好きだと思える種目を選んでみるのがいいでしょうね。いろんな種類の運動をどんどん試してみて、それが続くかどうかふるいにかけていくのがいいと思いますよ。
例えばスポーツクラブに行けば、筋トレやスタジオプログラム、有酸素運動などいろいろな種類の運動に触れられますよね。こういう何種類もの運動方法がある場所に行ってみるのは、ひとつの手だと思います。そうやって自分なりに気に入るポイントがあるものと出合うためのアクションが必要なんだと思います。「運動しなくちゃ」という義務感だけでは結局続かないですからね。
まずは5分続けてみる
私たちの脳は、やればやるほどやる気が出る、という仕組みになっているんですね。だからいきなり2時間やることは難しくても、5分でいいからやってみること。そして、5分でも自分の中で「できた」と思うことが大事です。その状態が続くと、快楽物質であるドーパミンが出て、楽しくなってくるんですよ。
あとは、運動するときに「面倒だ」と感じるプロセスを減らすこともポイントだと思います。家から遠くない場所を選ぶ、ロッカーを借りて持ち物を少なくするなど、ハードルをできる限り下げること。家でヨガをやろうと思うなら、家具をずらしてヨガマットを敷くというプロセスがあるだけで続けるのを妨げるハードルになってしまうかもしれません。だったらヨガマットを敷きっぱなしにしておくとか。
やったことがないことは、たいてい最初はうまくいかないものですし、そんなに楽しくないかもしれません。でも、最初はだれでもそういうものだと思っておくことも大事かもしれません。そして、続けられなかったとしてもそれを良くないと思うのではなく、チャレンジしたこと自体が良いことと思ったほうがいい。やってみないことには挫折もしませんからね。
──先生のヨガとの出合いは?
高尾: 私の場合は、スポーツクラブのスタジオプログラムでヨガに出合いました。3年くらい続けると、体に良いという以上の効果を感じるように。ヨガ哲学も含めて理解を深めていくと、すごく私に合っていて、カチッとハマった感じでした。何かにハマるって、たぶん“恋する”みたいな感覚なんだと思います。ヨガでも、アイドルの“推し活”でも、気がついたらそのことを考えているんですよね。でも、多くの人がそういうものに出合えているかと言ったらそうでもないと思う。だから、「まだ出合えていない」と思って、新たな出合いを求めてみてはいかがでしょうか。
考え直したい「良い習慣、悪い習慣」の定義
──良い習慣をつけるのも難しいですが、一方でスマホやYouTubeをダラダラ見るなどの悪習慣をやめる方法はあると思いますか?
高尾: 何がいいことで何が悪いことかというジャッジそのものが窮屈なんじゃないかと思うんですよ。YouTubeを見ることだって、見て知ったことをどう使うか次第なわけで、それ自体は悪いことじゃないはず。ダラダラすることが必要な日だってある。30代くらいで良い・悪いをジャッジするときの判断材料は、完全に刷り込みから来ているものだと思います。だからまずは、これは悪習慣だという目線で眺めるのをやめることを提案したいですね。
ただ、もし漫然と時間が過ぎてもったいないことをしちゃったなと自分が思うなら、次は違う選択をしてみる、ということを試してみたらいいかもしれません。
著者:高尾美穂
発行:朝日新聞出版
価格:1760円(税込)
高尾美穂さん初の「性教育本」。母と娘が性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポート。女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らず、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。