●本という贅沢#177

世界の偉い人たちは、いま何を考えているの? さとゆみの「キャッチアップ書籍」3選

不定期でお送りするコラム「本という贅沢」。今回取り上げるのは、2024年、これだけはおさえておきたい「THE世界の最先端」的3冊!? 書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。
しんどい夜もさみしい夜もひとりの日も、本と一緒。さとゆみの「年末年始お籠り読書」3選
(左)『16歳からのライフシフト』(リンダ・グラットン アンドリュー・スコット/東洋経済新報社) (中央)『倫理資本主義の時代』(マルクス・ガブリエル/ハヤカワ新書) (右)『言語の力』(ビオリカ・マリアン/KADOKAWA)
(左)『16歳からのライフシフト』(リンダ・グラットン アンドリュー・スコット/東洋経済新報社) (中央)『倫理資本主義の時代』(マルクス・ガブリエル/ハヤカワ新書) (右)『言語の力』(ビオリカ・マリアン/KADOKAWA)

1年の半分が過ぎたと思ったら、ヤダもう8月に入ってる! 今年こそやる予定だったアレやコレ、全然手についてないーーーー!って人はこの指とまれ。
そんなバタバタ状態のときに、腰を落ち着けて分厚いビジネス書や思想書を読もうって気持ちになりにくいじゃないですか。それじゃなくても日本、暑いし。

で、そんな脳も溶けがちな真夏の私およびtelling,読者のみなさまに、ちょっとお知らせ。
2024年、これだけはおさえておきたい「THE世界の最先端」みたいな書籍3冊に関して、ですね。
①まさかの著者さん登場で講義を受け
②ちょっとナニイッテルカワカリマセン的な難しいところは日本の頭のいい人たちが解説してくれ
③最後はみんなで意見を交換し合う
という、1泊2日のブートキャンプ的“ハードフル”読書体験(五島、ひと夏の大学)をしてきたので、みなさんにシェアしたい!

題して「世界の偉い人たちは、いま、こんなことを考えている!」3選です。

60代で恋するかもしれないライフシフト!

まず、1冊目。
『ライフシフト』の書名は聞いたことあると思う。人生が100年になる時代、親世代とは全然違った人生設計をしなくてはならないという予言の書だ。その書籍が『16歳からのライフシフト』というタイトルで再上陸してきた。「16歳からの」と謳われるだけあって、非常にわかりやすい。内容も日本の最新のデータが加えられている。

『16歳からのライフシフト』(リンダ・グラットン アンドリュー・スコット/東洋経済新報社)
『16歳からのライフシフト』(リンダ・グラットン アンドリュー・スコット/東洋経済新報社)

私たちが一番知りたいのは、人生100年時代にどんな準備をすればいいか、だよね。この本で言われているのは有形資産(いわゆる銭系です)だけではなく、「無形資産」が大事だということ。
特に重要なのが、①生産性資産(スキルや知識)②活力資産(健康&友人・パートナーとの良好な関係)③変身資産(変化できる姿勢やネットワーク)だそう。
ひとことで言えば、「元気で仲良く臨機応変」を100歳まで続けられることだと私は思った。学び続け変わり続けなければ、100歳まではしんどいよ、という話。

著者のリンダさんは書籍の内容についていろいろ話をしてくれたのだけれど、この日一番わおっ!となったのが、彼女が61歳のときに5歳年上の男性と再婚した話を聞いたことだ(現在69歳)。
研究者として活躍するだけではなく、コンサル会社を経営している。シングルマザーで息子を2人育て、61 歳で再婚する。まさに予言の書の著者に相応しい人生だ。100年時代に生きる私たちは、この先きっと「恋するライフシフト」も経験することになるんだろうな、なんて思ったよ。この問題は別途しっかり考えたい。

道徳を大事にする姿勢は、いまの時代「ロック」と言われるのだ!

2冊目。
マルクス・ガブリエル氏をYouTubeで検索すると、「世紀の天才哲学者!」「哲学界のロックスター!」などの文句が踊る。なんでも、200年以上の歴史を誇るドイツ・ボン大学の哲学科において、史上最年少の29歳で正教授に就任した人らしい。哲学書としては異例の世界的ベストセラーをかっとばしていて、「哲学がかつて提示していた魅力を現代に甦らせた人物」とも言われている。
なるほどロックスターか、と思いながら本を読むと……うーむ。なんだか非常に……いい人感あふれている……よ!?というか、もっと言葉を選ばずに言うと、風紀委員のようなことも言っているよ!?と思う。
「人間の道徳心をよすがに資本主義を進めよう」とか「倫理的に正しいことをする企業には儲けも出るはずだよ」とか。これが、ロック、なのか?と一瞬困惑する。

『倫理資本主義の時代』(マルクス・ガブリエル/ハヤカワ新書)
『倫理資本主義の時代』(マルクス・ガブリエル/ハヤカワ新書)

ああでも、最後まで読んで、たしかにロックなのかもと思い直す。ロックとはもともと反体制的なものだったのだ。「倫理的に正しくあろうぜ!」とか「道徳的であることと経済的であることは相反しないぜ!」みたいなことは、今の時代にはむしろロックなのかもしれない。
こういう主張が、いま世界のど真ん中で主張され、実利の世界でも支持されたり支持されなかったり、非常に大きな物議を醸しているということを、知れてよかった。

AI時代にどうして外国語を学ぶの?にファイナルアンサー

最後にご紹介するのが、付箋だらけになった『言語の力』である。これは今年、読めてよかった本ランキングベスト3に入る!(なぜナンバー1じゃないかというとまだ5カ月あるから)

この本は、「Google先生もポケトークもChatGPTもおるのに、なんで外国語を学ぶ必要があるの?」にズバッと答えてくれる本だ。

『言語の力』(ビオリカ・マリアン/KADOKAWA)
『言語の力』(ビオリカ・マリアン/KADOKAWA)

まず驚いたのは、全世界に暮らす人の過半数がバイリンガルかマルチリンガルだという事実。で、マリアン先生の研究によると、「バイリンガルやマルチリンガルの人たちの脳の使い方は、モノリンガルの人と全然違う」そうだ。多言語を話すということは、それだけで常に脳が活性化されている状態になっているのだとか。クリエイティビティが高まり、認知症やアルツハイマーになる年齢も遅くなるんだって!
日本語しか話せない私には残念なお知らせだらけの本なのだけれど、救いなのは、「外国語を学ぶのに年齢が遅すぎることはない」というメッセージだった。今からでも、使っていなかった脳の部位にアクセスできる! 今年こそ、英語を勉強するぞと思った夏でした。もう8月だけど。

 

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しんどい夜もさみしい夜もひとりの日も、本と一緒。さとゆみの「年末年始お籠り読書」3選
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。