Sasiistock/iStock/Getty Images Plus
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独身ひとり暮らし女性、災害時の備えが不安……。「女性下着」「日用品」に見る防災のヒント

能登半島地震をきっかけに、災害への備えを見直した方も多いのではないでしょうか。独身女性でひとり暮らしの筆者は、いざという時に自分が落ち着いて行動できるか、何が必要なのか分からず、不安が募ります。毎日の暮らしの中で、無理なく災害時に備えるにはどうしたらよいのでしょう? 女性下着の商品開発・製造を手がけるHEAVEN Japanと、「無印良品」で知られる良品計画の取り組みから、そのヒントを探りました。
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震災後に棚は空っぽ、「我先に」のやるせなさ

元日に起きた能登半島地震では、私が住む東京でも揺れを感じました。テレビでは女性アナウンサーが大津波警報を知らせ、「今すぐ、逃げること!」「命を最優先に、可能な限り高い所へ」などと、強い口調で呼びかけていました。

脳裏をよぎったのは、13年前の東日本大震災。当時、近所のスーパーでは、米、食パン、カップ麺、ペットボトルの水などがすぐに売り切れ、棚が空っぽでした。東北を中心に甚大な被害があったというのに、私は、「我先に」という争いの中にいるような、やるせなさを感じていました。

一人暮らし・独身女性の私は、普段、同じアパートの住人とほぼ顔を合わせることはないに等しく、家から最も近い避難場所は、現在工事中で敷地内に入れません。もし災害が起これば、普段の暮らしは一変し、孤立することが目に見えています。

finwal/iStock/Getty Images Plus
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東京都は、2023年に「防災ブック」の内容をリニューアルし、都内の全世帯に無料配布しています。本は、災害対策の基本をまとめた「行動編」と、備えをより万全にするための「知識編」の2冊で、合計450ページ超にもなります。私の自宅にも届きましたが、その分厚さを前に、「自助」を求められているようで不安を覚えます。せめて備蓄はしようと思うものの、現実にはなかなか進んでいません。

HEAVEN Japan「下着は備えの意外な盲点」

石川県の発表によれば、能登地域では、地震から2カ月後の時点でも1万8000戸以上で断水が続いていました。現地では当初、被災者が入浴も洗濯もできず、「下着を替えられない」問題が生じているとの報道もありました。

HEAVEN Japan(本社・大阪府河内長野市)は、「下着や体のことで悩んだり、諦めたりする女性をなくしたい」という思いから、以前よりウェブサイトの特設ページ「知っていましたか? 『防災』と『下着』のこと」で、災害時に下着を備える大切さや体験談を伝えてきました。執行役員の槻(けやき)亜沙未さんと、マーケティング・コミュニケーショングループ長の梅井佑希子さんに話を聞きました。

HEAVEN Japan・執行役員の槻亜沙未さん(左)とマーケティング・コミュニケーショングループ長の梅井佑希子さん
HEAVEN Japan・執行役員の槻亜沙未さん(左)とマーケティング・コミュニケーショングループ長の梅井佑希子さん(同社提供)

――御社が「防災と下着」の情報を発信し始めたきっかけを教えていただけますか。

梅井佑希子さん(以下、梅井): 過去に災害支援活動に携わった方から、被災地では下着が必要な物資として重視されていると伺いました。また、社内の女性スタッフが宿泊先で地震の揺れに遭遇し、「もし、下着を身につけないまま避難することになったら……」という危機感を持った話も聞いていました。そこで、もっと多くの方に意識を高めていただきたいと思い、2020年から、阪神・淡路大震災(1月17日)、防災の日(9月1日)といった節目の日を中心に、様々な情報をお伝えしています。

――災害時に下着を備えることのメリットは?

槻亜沙未さん(以下、槻): 被災して下着が替えられない場合、衛生面での問題はもちろん、不快感がかなり増すと思います。そんな時に予備の下着があれば、メンタル面での負担が減り、取り替えることで気持ちもリフレッシュできます。下着は汗を吸収し、寒い時に重ね着をすれば暖を取ることもできます。毎日身につけるのに、当たり前の存在だと思われるからか、準備を忘れがちです。備えの意外な盲点になっていると思います。

――特設ページ内にある、非常持ち出し用の防災バッグと下着の備えについてのアンケート結果は興味深いですね。バッグを常備している人は全体の約半数にとどまり、下着をバッグの中に入れている人の割合はわずか14.1%です。

梅井: 2021年に、当社の女性のお客さまを対象にした調査を行い、361人の方から回答をいただきました。やはり、備えるアイテムとして、下着への着目度はまだまだ低いようです。
アンケートの回答では、防災バッグや下着を常備していない理由として「救援物資で何とかなると思っていた」という声もありました。でも、避難所に身を寄せることになった場合、女性の運営者がいるとは限らないので、「下着を替えたい」などの悩みは伝えにくいかもしれません。下着は、「生活必需品」として必要だと、今後も一層発信を強めていきたいです。

HEAVEN Japanが2021年に実施した「防災バッグと下着の備え」のアンケート結果
HEAVEN Japanが2021年に実施した「防災バッグと下着の備え」のアンケート結果(同社提供)

――能登半島地震が起こった3日後、御社では、ウェブサイトやSNSを通じて、被災地で下着を必要とする方に向けて、物資を提供すると呼びかけました。

梅井: 以前にも、房総半島台風(2019年)や、令和2年7月熊本豪雨(2020年)の際に、被災地で避難生活を送る方々に女性用下着を寄付しました。今回は、仕事始めの1月4日から支援に動き、10日には、現地で災害支援活動を行うNPO法人などを通じて、石川県七尾市の避難所に女性用ショーツを送りました。断水が続き、毎日同じ服を着ている方も多い中、みなさまには大変喜んでいただけたとのことでした。

その後、他の支援団体からも連絡をいただき、輪島市や能登町の方々にも救援物資としてショーツを提供しました。私たちからの発信に気付いていただかないことには、必要な人にお届けすることが難しい中、SNSを通じて多くの方が広めてくださり、情報を拡散させる力の強さも感じました。

能登半島地震での支援
(HEAVEN Japan提供)

2セット分の下着を防災バッグに

――災害時の備えとして、女性用の下着はどんな種類を何セット用意すれば良いですか?

槻: 着用分の他に、ブラジャーとショーツを少なくとも2セット準備しておきたいですね。ポイントは、使い慣れた下着を用意すること。新しく買い替える時に、今まで使っていたものを防災バッグ用に回すといいでしょう。日常使いしている下着があれば気持ちも保てますし、もし、サイズが合わなかったり、つけ心地が良くなかったりするものだと、ストレスにもつながりやすいと思います。自分に合った下着を身につけてこそ、災害時の安心につながります。

私も、2020年の記事の発信を機に、自宅で防災バッグを用意しました。下着は、古いものを入れっぱなしにしていると、生地が劣化したりゴムが伸び切ったりもするので、年に数回、バッグ全体の中身も含めて点検しています。

梅井: ブラジャーは、ノンワイヤーで、小さくたためるナイトブラがおすすめです。お客さまから、「いざという時に備えて、寝る時もブラジャーを着用した方がいい?」という質問をいただきますが、ホールド力が高いものは血流が悪くなるので、睡眠の質が低下したり、バストの成長の妨げになったりすることがあります。その点、ナイトブラは、寝る体勢に合わせて作られているので、伸縮性があってリラックスしたつけ心地です。

HEAVEN Japanの「夜寄るブラコットン」
HEAVEN Japanの「夜寄るブラコットン」(同社提供)

――女性用下着の素材や色、デザインなどで気をつけておきたいことは?

梅井: 綿を多く含んだ素材は肌に優しく、締め付けをあまり感じません。当社の商品であれば、「夜寄るブラコットン」や「やわぴたコットンショーツ」がおすすめです。「すっぽりショーツ」のように、クロッチ部分に消臭加工を施した商品もあります。防犯面を考えて、色は、黒のように目立たず、シンプルなデザインを選ぶと良いと思います。

無印良品 被災者の声生かす防災用品を開発

無印良品を展開する良品計画(本社・東京都文京区)が行っている、防災プロジェクト「いつものもしも」には、普段から使い慣れた日用品で災害に備える様々なプログラムがあります。

いつものもしも
(良品計画提供)

この取り組みは、阪神・淡路大震災の記憶を風化させないため、2008年1月、都内の店舗で展覧会「地震ITSUMO+無印良品」を開いたのが始まりといいます。その後、2011年1月に「良品と防災」と題する本格的な活動がスタート。東日本大震災を機に、「いつものもしも」に名前を改め、情報発信、商品開発、イベント開催へとその幅を広げています。

同社ソーシャルグッド事業部いつものもしも担当・石川和子さんは、「地震のような自然災害はいつ起こるか分からないため、私たちは、非日常の出来事ととらえて、備えを後回しにしがち」と話します。「無印良品の『いつものもしも』では、日常である『いつも』と非日常の『もしも』の間に境界線を引かず、普段の暮らしの中で、知識や物を含めた小さな備えを積み重ね、身につけていくことが、いざという時の生きる力につながると考えています」

「いつものもしも防災スリッパかかと付き」(左)、「ポリエチレン 水タンク 12L 蛇口付き」
「いつものもしも防災スリッパかかと付き」(左)、「ポリエチレン 水タンク 12L 蛇口付き」(良品計画提供)

無印良品には、被災者の声から生まれた商品があります。「いつものもしも防災スリッパかかと付き」は、釘やガラス片などの貫通対策として、底面に踏み抜き防止シートが入っています。

「福島県で被災した方から、夜の地震で停電の中、急いで避難する時に食器の破片を踏み、その時はパニックで痛みを感じなかったが、実は足が傷だらけだった、という話を伺いました。スリッパの色は、暗闇では物が探しにくく大変、という声から、明るめのグレーを採用しました」(石川さん)

また、「ポリエチレン 水タンク 12L 蛇口付き」は、持ち運びがしやすく、凹凸が付いている面を重ねて、平置きをしてもずれにくいのが特長。普段は、中におもちゃなどを入れる容器として活用できます。タンクの口が広く、手を入れて中を洗いやすい、とユーザーから好評だそうです。

一気にそろえようとしないのがコツ

他にも、日常使いができて災害時にも役立つグッズをいくつか紹介します。石川さんからは、「一気に物をそろえようとすると大変なので、必要なものをいつもより一個多めに買うなど、できるところから備えを」とアドバイスをいただきました。

「いつものもしも持ち出しセット」(左)、「いつものもしも備えるセット」
「いつものもしも持ち出しセット」(左)、「いつものもしも備えるセット」(良品計画提供)

●「いつものもしも持ち出しセット」「いつものもしも備えるセット」
「持ち出し」は一時避難時、「備える」は在宅避難時に、それぞれ役立つ必要最小限のアイテムを防災セットにまとめています。おでかけから、キャンプ・アウトドアにも。

●「袖口が長い軍手(いつものもしも)」
リブ部分は約12センチあり、手首の上まで保護できます。女性でも指先が余ることなく使えるように、やや小さめのサイズ。

●「LED持ち運びできるあかり」
停電しても自動点灯する機能が付いたライト(充電台セット時)。就寝時の明かりや、夜の授乳時にも。

●「カセットこんろ・ミニ」
卓上でスペースを取らず、別売りのケースに入れれば収納もコンパクト。鍋料理やたこ焼き作りなどで活用すれば、家族が使い方を把握する機会も作れます(※別売りのカセットこんろ用ガスボンベが必要)。

●「LEDランタン」
屋内外で使える防沫(ぼうまつ)仕様。明るさの調節が可能です。子どもが本を読んだりゲームをしたりする時の手元のあかりに使い、自分で操作を覚える使い方も。

無印良品では、ウェブサイト「くらしの備え。いつものもしも」の中で、災害時の暮らしの知恵や、一時避難時・在宅避難時の知識、ノウハウを紹介しています。また、自治体などと協力し、「地域とつながる・楽しく学べる」をコンセプトにした防災イベント「いつものもしもCARAVAN」を全国各地で開催。紙芝居やクイズも交えて、子どもも大人も、防災に親しみながら知識を身につけることができる内容です。

良品計画では、能登半島地震の被災地へ衣料品、食品などの支援物資を提供するとともに、ネットストアや店頭で募金活動を行っています。

     ◇

こうした身近な日用品を使った「防災」についてのアドバイスを伺い、備えのヒントときっかけは、普段の暮らしの中に多くあることに改めて気づかされます。

私は、今回の地震報道から「能登はやさしや土までも」という言葉を知りました。地域の人たちの心の温かさを意味するそうです。石川県能登町出身の漫画家・なとみみわさんが地元紙・北國新聞に連載している漫画「のとはやさしや」は、厳しい被災状況でもお互いに助け合うエピソードにあふれており、人々の絆と力強さを感じます。

「いざという時、1人暮らしだから大変」と怯えることなく、災害時には自分のことはもとより、周りにも手を差し伸べられるように、今できることから備えを始めたいと思いました。

【備えに役立つ】災害用トイレの作り方 トイレ問題、備蓄品……。国際災害レスキューナースに聞く、女性の被災リスクと対策は?
神奈川県出身。早稲田大学商学部卒業。新聞社のウェブを中心に編集、ライター、デザイン、ディレクションを経験。学生時代にマーケティングを学び、小学校の教員免許と保育士の資格を持つ。音楽ライブ、銭湯、サードプレイスに興味がある、悩み多き行動派。