「恋愛がダメなら仕事だけでも」。すり減った心は満たされる? 『婚活1000本ノック』7話
報われない婚活の方向転換
何度打たれても、へこんではふたたび婚活に邁進(まいしん)する綾子の姿に、勇気をもらっている視聴者が多いのではないだろうか。恋愛、結婚、婚活……ライフステージに影響するイベントを見つめ直し、自分にとっての「幸せ」を捉えようとする綾子は、とくに同世代の女性にとって応援したくなる要素が詰まっている。
そんな彼女が、いよいよ婚活そのものに疑問を抱き、恋愛がダメなら仕事だけでも……と方向転換しようとする心理にも、「あるある~!」と思わず共感してしまう。
なぜ、恋愛がうまくいかないならせめて仕事だけでも、と考えてしまうのだろう。果たして恋愛や婚活ですり減った心は、仕事を軌道に乗せることで満たされ、報われるのだろうか。
ときにはますます虚しさが募るだけだとわかっているのに、まるで不安定すぎるてんびんにかけて無理やりバランスを取ろうとするかのように、私たちは報われない恋愛を充実した仕事で補おうとしているように思う。
綾子も、ヤギオ(千賀健永)との破局が尾を引いたのか、いったん手持ちの仕事に集中することを決意。しかし、小説を連載していた雑誌は廃刊し、決まっていた婚活WEB小説の仕事も白紙に。
「私は恋愛でも仕事でも、選ばれない人間なんだなあ」と思いを巡らせる綾子に、既視感がありすぎるように思う。20代のころとは違い、マッチングアプリでも「いいね!」をもらいにくくなる30代。街コンなどの婚活イベントに行っても、あからさまに20代女性との“扱いの違い”を感じ、自虐的になってしまうのだ。
大げさかもしれないけれど、散々に自分の価値をおとしめられ、突きつけられるのが「婚活」というステージなのかもしれない。だとしたら、せめて仕事だけでも良い波に乗せて充実感を得たい……そう思ってしまうのは、自然な流れではないだろうか。
「自分の願望を満たす」婚活の思考回路
そもそも、誰かとパートナーになり、幸せな生活を送りたくて始める婚活なのに、疲れてしまうのはなぜだろう? それはやはり、マッチングアプリや結婚相談所では、相手に対する「ジャッジの目線」が不可欠だからかもしれない。
自分が求めるパートナーへの条件を事細かに洗い出し、それに見合う人を探すのが婚活の場。必然的に、そして半ば強制的に、自分自身もそれらの「条件」に照らされ、ジャッジされることになる。
7話で、綾子が「自分のことばっかり考えてたのが悪い」「自分の願望を満たすことばっかり考えてる」と口にしているが、そういった思考回路になってしまうのも、無理もない。自分が幸せになるために、幸せな人生を送るのに必要な相手を探しているのだから、自分本位な目線で相手を判断してしまうのは、致し方ないことだ。
しかし、だからこそ、婚活をすると疲れてしまうのではないか。
条件に照らし合わせて相手を観察し、判断し、また次の相手を探す……。その繰り返しで見えてくるものは、自分の「理想の高さ」と「傲慢さ」なのかもしれない。
ある程度のところで見切りをつけなければ、永遠に続いていく婚活ロード。長くなれば長くなるほど迷走し、綾子のように、手頃な相手と「何も頑張らないで、二人で死んだように生きようか? 楽だし」という退廃的な選択をしてしまいそうになることにも、なりかねない。
「生死の対比」を全力で演じる山田&綾子
恋愛が疲れるのなら、婚活や結婚は、きっと、もっともっと疲れる。それは、生きている人間同士の、感情のぶつかり合いだから。
山田(八木)は、婚活に疲れ切った綾子に、「どうせ本も売れない、彼氏もできないって、はなから諦めることで、自分を守ろうとしている」と、めずらしく強い喝を入れた。彼は、綾子の新たな婚活相手であり既婚の“クソ男”であるラジ男(忍成修吾)が「長く生きられない血筋だから、頑張っても意味がない……」と嘆くと、「生きてる人間は、生きてるように生きろ!」と感情をあらわにする。
ラブコメディーゆえにライトな描写になりがちだが、山田はもうこの世には存在しない幽霊だ。生きている人間とは根本的に、できること・できないことの違いがある。
彼にとっての選択肢には限りがあり、綾子をはじめ、自分が生前に関わりのあった女性との約束を果たすことでしか、来世に希望を託せない。その現状に対するやるせなさ、ままならなさは、山田にしかわからない部分だ。綾子をはじめ、生きている人間に対する山田の隠れた感情が、7話の終盤、綾子と涙ながらに正直な気持ちを伝え合うシーンに表出している。
「生前にとんでもないことをしたクソ男が、約束を果たすため、関わりのあった女性の婚活をサポートする」……そんな、エンタメ性あふれる婚活ラブコメ設定の裏には、生きている人間と死んでいる人間の、いわば生死の対比でもって浮かび上がる「鮮烈な命のぶつかり合い」が見える。
福田と八木が、それぞれの役柄に全力で向き合い、思わず涙を誘うシーンで7話は閉じられた。次回8話から最終回にかけて、その共鳴し合う演技はどのように物語に作用するのだろう。
フジ系水曜22時~
出演:福田麻貴(3時のヒロイン)、八木勇征、関水渚、野村周平、白河れい、橋本マナミ、中越典子ほか
原作:南綾子
脚本:ニシオカ・ト・ニール、松本美弥子、山岡潤平、藤平久子
主題歌:水曜日のカンパネラ『幽霊と作家』
プロデュース:羽鳥健一、矢ノ口真実、髙石明彦
演出:田中亮、西岡和宏、 吉野主
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