Chinnapong/iStock/Getty Images Plus
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高尾美穂“ことばの処方箋 ”

【高尾美穂医師に聞く#12】いつか来る更年期が怖い。上手な備え方はありますか?

女性の人生は、体調のリズムやその変化と密接な関係があります。生理、PMS、妊娠、出産、不妊治療、更年期……。そうした女性の心と体に長年寄り添ってきた産婦人科医・高尾美穂さんによる連載コラム。お悩み相談から生き方のヒントまで、明快かつ温かな言葉で語りかけます。今回のテーマは「更年期への備え方」。30~40代が抱える漠然とした不安に向き合います。
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Q. 40代になってから、そのうち来る更年期の気配におびえています。上手に更年期を迎えるために、今から気をつけた方がいいことはありますか? 準備をしておくことで予防はできるのでしょうか。(40代、女性)

高尾美穂医師(以下、高尾): まずは「更年期」という言葉の定義や正しい情報を知って、必要以上に怖がらないでいただきたいという気持ちがあります。婦人科における「更年期」とは、思春期や成長期と同じように時期を表す言葉で、特有の症状が出ているとか血液検査の数値によって決まるものではありません。具体的には閉経の前後5年ずつ、計10年間が更年期とされます。

最後の生理から12カ月生理が来なければ閉経とされ、最後の生理が来た年齢が閉経年齢となります。ですので、閉経も更年期のスタートも過ぎたあとにわかるものなんですね。

では、10年も更年期の不調が続くのかというとそんなことはありません。一般的に大きな不調が起こるとされている時期は、閉経の前2年、後ろ1年です。

高尾美穂医師
家老芳美撮影

「プレ更年期」は本当にある?

――更年期にはどのような症状が出るのでしょうか。

更年期の症状としては、汗をかきやすい、顔がほてる、眠りが浅い、疲れやすい、肩こり、頭痛、腰痛といった身体的なものから、怒りっぽい、イライラが強い、気力がなくなる、うつっぽいなどメンタル面での不調があります。こうした不調は、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの分泌がアップダウンしながら徐々に減っていく状況に、指示を出す役割を担う脳の視床下部が対応しきれないことから起きます。

これらはある日突然、症状が出たと感じることはあまりなく、気付けば調子がよくない、というイメージが実際に近いと思います。

──「プレ更年期」という言葉がありますが、医学的な定義はあるのでしょうか?

高尾: プレ更年期は医学的に定められた言葉ではありません。実際にはまだ更年期ではなく、生理が順調にきている30代~40代前半くらいの方が、更年期に起きがちな不調を経験した場合に使われている造語です。

生理不順やほてり、イライラなど更年期と似た不調がなぜ起こるかというと、ストレスが原因になっていることが多い。仕事、家庭、育児、人間関係などいろいろなことをがんばる世代ですから、ストレスによって自律神経の働きが乱れていることが原因と考えられます。

ストレスが強い状態のまま本来の「更年期」に突入すると、不調が重かったりうつになったりする可能性が高いです。ですから、30~40代のうちからストレスの原因となるような状況をできるだけ取り除くことは、結果的に更年期の症状を軽くする可能性があります。例えば、昼間に眠くならない程度までしっかりと睡眠時間を確保することや、適正体重を維持するための食習慣、趣味としての運動習慣を取り入れるなど、よくいわれる「生活習慣の見直し」が必要なんですね。

ほかにも、人間関係において自分では変えられない他者のことをなるべく思い詰めずにやり過ごしたり、起きてしまった物事ではなく、この先どうするかに目を向けられたりするような考え方も、ぜひ身に付けていってほしいと思います。

──更年期の不調と生活習慣は関係があるのですね。ほかにも30〜40代が更年期を迎える前にやっておくといいことはありますか。

高尾: 「エクオール」という女性ホルモンによく似た働きをする大豆由来の成分が入ったサプリメントをとることもおすすめできます。大豆を食べているのと同じ状態といえますので、比較的気軽な気持ちで始められるのではないかと思います。

Martin Barraud/OJO Images/Getty Images Plus
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更年期症状が重い人の共通項とは

──更年期症状に対して、クリニックではどのような治療法や対策があるのでしょうか。

高尾: 効果が高いと考えられるのはホルモン補充療法です。これは足りなくなってきたエストロゲンを足す治療法で、アップダウンしながら徐々に減っていくホルモンの乱高下をなだらかにする、とイメージするとわかりやすいのではないでしょうか。揺らぎの幅を小さくしてソフトランディングさせましょうという治療法ですね。

ホルモン補充療法のリスクには血栓症と乳がんがありますが、飲み薬や注射でなく経皮吸収型ではこのリスクを下げられるという報告があり、近年ではパッチや塗り薬がよく使われています。

──更年期症状が重い人に共通していることはありますか。

高尾: ひとつ目の傾向としては性格。真面目で自己犠牲型など、いわゆる「ちゃんとしていてまとも」といわれるタイプの方です。現代社会ではかなり多くの女性が当てはまるのではないかと思います。2つ目は人生において何らかの喪失体験をされた場合。パートナーシップや親子など近しい関係性でのコミュニケーションに課題を抱えているなど、深い悲しみやストレスがあるケースです。

3つ目は、エクオールを体内で生み出せるかどうか。エクオールは腸内でつくられます。しかし、エクオールを生み出すにはそのための腸内細菌が必要。菌がいない場合は体内でエクオールをつくれず、更年期の不調の重さに関わってくるとされています。ですから先にも述べたようにサプリメントで補うことが対策になるのですね。

数年前から更年期について取り上げるメディアが増え、理解が広まった反面、これから更年期を迎える世代は不安を抱くものだとも思います。以前は「あの人、更年期なんじゃない?」といった揶揄(やゆ)する言葉が聞かれることもありましたが、いまはハラスメントに当たるという理解が進んでいますよね。ですから、みなさんが更年期を迎える頃には「対策方法はあるし、そんなに心配しなくていいよね」という社会にかわってきているのではないかと私は思っています。

更年期の不調は我慢してやり過ごす時代ではもうないですし、できることはあります。そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。

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『娘と話す、からだ、こころ、性のこと』

著者:高尾美穂
発行:朝日新聞出版
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高尾美穂さん初の「性教育本」。母と娘が性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポート。女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らず、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。

医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。医師としてライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、女性の選択をサポート。テレビ出演やWEBマガジンでの連載、SNSでの発信の他、stand.fmで毎日配信している番組『高尾美穂からのリアルボイス』では、体と心にまつわるリスナーの多様な悩みに回答し、910万回再生を超える人気番組に。著書に『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など。
編集・ライター。ウェルネス&ビューティー、ライフスタイル、キャリア系などの複数媒体で副編集長職をつとめて独立。ウェブ編集者歴は12年以上。パーソナルカラー診断と顔診断を東京でおこなうイメージコンサルタントでもある。