サプライズがいらない女たち 「儀式」をやめ、作った新ルール
プロポーズもプレゼントも、“予定調和”がラク
「結婚までの道のりも、ひとつひとつの価値観をすり合わせて、これくらいの時期に婚約ね。これくらいの時期に指輪を見に行こうね、と、全部彼と話して決めていました」
自動車メーカーの総務部門で働くKさんは、今年2月に結婚したばかりの25歳。2年前に彼と付き合い始めた時には、「この歳で付き合うってことは結婚前提だよね?」とお互いの認識を確認し、同棲すると決めたときも「この先、お互いの生活が合わないということさえなければ、結婚に向けて進むっていうことだよね」とストレートに彼に聞いた。恋愛の価値観は人それぞれだけど、「結婚したい」人と「結婚したくない」人が付き合っていても時間がもったいないだけ。こうした価値観のすり合わせを、常に意識して行っているのだという。
他人からみれば、もしかしたら“ロマンス”がないと思われるかもしれないが、Kさんは何が起こるか分からないサプライズが苦手。もし誰かがサプライズを用意してくれたら、喜ぶリアクションはするけど、相手の期待通りのリアクションはできないかもしれないし、もしかしたら「サプライズ」に途中で気づいてしまうかもしれない。気づいたのに、気づいていないフリをして喜ぶのも面倒くさいし……。サプライズはないほうが、お互いラク。そう信じるからこそ、プロポーズの内容も、全て彼と話して決めていた。
事前にプロポーズの日時は決めていたから、その前に婚約指輪を見に行ったが、大きな石のついた指輪は自分の指に似合わなかった。だったら、ということで、気に入ったネックレスをもらうことに。お返しに彼には時計をプレゼントしようかと迷ったが、機能的なアップルウォッチを使っていた彼に、お返しに相当するものが見つからず、結局2人の結婚指輪をKさんが購入することに。残りは結婚式の費用で清算するつもりだという。
Kさんがサプライズに対して違和感を覚えたのは、大学生の頃。30人規模のサークルで、ある1人の誕生日に、サークルメンバー総出のサプライズ演出が企画された。たった1人のために、しかもKさんがほとんど関わりのなかった人のために、全員で色紙を用意したりすることに、あれ?と思った。サプライズは他人に戸惑いを抱かせてまで、することなのかな。サプライズの演出は必ずしもみんなにとって良いことじゃないのかも……。これをきっかけに、あらゆるイベントごとにおいて「本人を含めて事前に決める」ことを徹底するようになった。
それまでKさんはどちらかというとイベントを企画したり、中心で動いたりするのが好きなタイプだった。しかし、「自分が巻き込まれる側になって初めてめちゃめちゃエゴだなって気づいたんです」。以前は気付かなかったけれど、サプライズって企画する側が楽しいから実施されているんじゃないか――。
そんなKさんにとって、サプライズはもはや「社交辞令」となった。SNSの投稿などを見ていて「サプライズが好きそうな人」にはしてあげなきゃ、と思うけれど、仲が良い友だちほどサプライズは計画しない。
「儀式サプライズ」をやめて作ったルール
2人目に紹介するのは、Mさん。言葉を仕事にする24歳のコピーライターだ。
サプライズが煩わしいなと思い始めたのは、高校時代の仲の良い友だち4人グループでの誕生日会。たまたま4人全員が早生まれで、大学生になってもしばらくは1月からの3カ月のあいだに高頻度で誕生日会をしていた。そのうち「集まらなきゃ」という義務感になり、お祝いプレートと誕生日プレゼントを用意して、みんなで写真撮って……は、もはや「サプライズ」ではなく、一連の「儀式」になってしまっていた。
4人で話し合い、「儀式」に乗っかる必要はないと「新しいルール」を作った。それは、集まるタイミングを自由にすることと、お互いへの誕生日プレゼントは無くし、代わりに同じくらいの金額で自分の好きなものを買い、それを4人で発表しあう、ということ。ある子はメイク道具、ある子はパソコン周りのものなど、各自が「いま一番欲しいもの」を買うから、その時ハマっていることや個性がそのまま反映されていて面白く、「めっちゃ美容意識高くなってる!!」などと盛り上がった。
Mさんの場合は、なんとなくテンプレート化している「サプライズ」に対して疑問を抱いている。SNSでは、友人たちのサプライズが可視化されて、サプライズ=こうあるべきという基準ができてしまい、それをやらなきゃという義務感と、きっとやってくれるだろうという淡い期待値の間でなんだか気持ちが悪かった。なんの記念日でもない日に、不意にその人に合った素敵なものを見つけたら渡すなど、本当の意味でのサプライズ、言い換えると“不意打ち”なサプライズはむしろ大好物だけど。
社会人になり、忙しいことを言い訳にできるようになってからは「頑張らなくていい」と思えるようになった。SNSでの誕生日メッセージにも、「いいね」のみでほとんど返事しないようになり、いまでは限られた人としかお祝いメッセージを送り合っていない。オープンなSNSの場でわざわざメッセージを送ってくるのは、「私たちはまだ関係性を維持できているよね」という確認行為にも見える。
大事にしたい人には、SNSではなく、毎年手紙でメッセージを書いて渡している。最近出会った本や映画、この1年で心に残っている言葉や、それによって自分がどうなったかなど相手に共有したいことを書くのだという。ささやかなお礼の気持ちを伝える程度のことであれば、SNSで手軽に送れるオンラインギフトチケットを送ることが多い。手頃でお互い負担にならないから重宝しているのだ。
サプライズへの価値観は人それぞれだとは思うのだが、嫌なのは、周りからの評価のためにSNSに投稿すること。例えば、Mさんが友人にプレゼントしたものをSNSにアップされると、「それって世に知らしめるもの? 2人だけに留めておけばいいのに」と思う。 SNSなど、なぜ関係ない第三者の目を介さなくてはならないのだろうか。
SNSにあふれる誕生日メッセージに返信する深夜…
最後に紹介するのは、商社で働くTさん(40歳)。5歳になる娘が産まれて以降、自分の誕生日にプレゼントをもらうようなサプライズはいらないと思うようになった。自分の欲しいものを欲しいタイミングで、自分で買うことが幸せだと感じる。誕生日のタイミングで欲しいものがないときに、無理やり決めてそんなに欲しくないものをもらうという行為がもったいない。共働きで自分が自由に使えるお金があるからこそ、自分のニーズに自分で応えることが“贅沢”なのではないか。
夫や自分の誕生日は食事に行くくらいで、プレゼントはここ数年お互い贈っていない。欲しいものがない自分とは対照的に、夫はかなりモノが好きなタイプ。いまだに好きなブランドの限定品が発売されれば、休日の朝から並んで購入するほど。あまりにモノを欲しがらないTさんを見兼ねてか、数年前にブランドがコラボした限定品のバッグを「Tさんに」と買ってきたことがあった。Tさんの好みとは言えなかったそのバッグ。そもそも共働きでも家計をほぼ同じにしているため、夫がなにか買おうものなら自分のお金で買われているようなもの。どうしても「いらないもの買わないで」という気持ちになってしまう。サプライズプレゼントはない方がいいのだ。
5歳の娘は、サプライズのプレゼントが希望したものでなかった場合、明確に「違う!!!」と駄々をこねるから大変だ。誕生日にはお気に入りのテーマパークに連れて行くことが恒例のため、特にプレゼントはあげていないが、クリスマスにはサンタさんからの特別なプレゼントが必要。「何が欲しいの?」と軽くヒアリングして、なんとなく近いものをあげたら「これじゃない!」と何度も言われた。
お祝いメッセージも、Tさんは明確に「いらない派」だ。職場の人と繋がっているSNSでは、5~6年前までは毎年のように自分の誕生日に「おめでとう」メッセージが届き、誕生日の深夜に溜まったメッセージにひとつひとつ返信していた。「ありがとうございます」を連発する訳にもいかず、その人に合った“気の利いた一言”を添えないといけない。本当は1ミリも思っていない「またご飯いきましょう〜」を言ってみたり……。ある年、SNSのプロフィール欄の誕生日を非表示にしたら、その年は誰からもメッセージが来ず、なんて快適なんだと感動した。それからは長らく非表示のままだ。
博報堂キャリジョ研は今年4月、「サプライズに関する意識」について20~40代女性150人に対してインターネット調査を実施した。プレゼントや飲食店でのプレート、メッセージなどのサプライズに対して、「欲しい」「どちらかといえば欲しい」と回答した女性は49.3%、「いらない」「どちらかといえばいらない」と回答した女性が31.3%という結果だった。サプライズ派が半数近くを占める一方で、いらない女性たちも3分の1程度存在することが明らかとなった。サプライズがいらない理由としては、「恥ずかしい」「リアクションに困る」「望んでないのにノーと言えない雰囲気がイヤ」などサプライズされた時の対応への不安や、「自分もやってあげなきゃとプレッシャーになる」「相手が何が喜ぶのか悩む」「お金がかかる」など準備や相手へのお返しへの負担があがった。
また、「サプライズがいらない/どちらかといえばいらない」と回答した女性たちが考える理想のお祝い方法は、「欲しいものは事前申請する」が30.6%、「プレゼントは一緒に選びたい」が24.2%だった。昨今ユーザー数が伸びているオンラインギフトチケット(ソーシャルギフトサービス)に関しても14.5%と好意的な意見を持つ女性が一定数いた。
今回の調査結果と、3名の女性へのインタビューからは、現実的かつ効率的な考え方や、オープンに語り合うたくましさが見えた。「本当に欲しいものが欲しい」「親密な関係性なら気遣いはいらない」などという彼女たちの行動には、“我慢しない”“無理しない”といった考えが根本にあるようだ。
(写真はGetty Images)