会社の「お決まり」はいらない女たち プライベートへの「探り」にぞわっ!
叱ってもらえない私たち
「彼氏と遠距離恋愛だったから、いつ会社を辞めるのかと上司は心配してたっぽいんです」
いまはその彼と結婚して都内で一緒に暮らしているRさん(27歳)。プライベートな話題に探りを入れてくる上司に対して、当時ぞわっとしてしまった感情は今でも覚えている。
大手メーカーの総務部門で働くRさんは、以前所属していた営業部で、上司たちの後輩への接し方に疑問を感じていた。
同じチームの一つ年下の後輩男子がミスをしたとき、上司は彼を別室に呼び出し、こっぴどく叱っていた。一方、同じミスをした自分に対しては、上司は何も言わず、トラブルの火消しフォローのみ。やったことは同じなのに、そのミスを「だれが」したかで態度を変える上司に対する違和感は大きかった。
女性は辞めやすい、男性は我慢強い・・・?
上司の気持ちも十分にわかる。セクハラ、パワハラには気をつけるよう、全社的にも周知されているなかで、一番上司が避けたいのは「強く指摘したことで、若手が辞めてしまう」こと。男女の違いによって態度が変わるのは、男性であれば家庭があったり周囲からの見え方もあったりで簡単に辞めないだろう、裏返して女性はすぐに辞めるんじゃないかという不安感が根底にあるのではないか、と彼女は言う。特に当時の部署は、女性社員がほとんどという環境だったため、「女性に徒党を組まれるんじゃないか」と怖がっていた側面もあるのかもしれない。上司の本心は聞けていないが、女性ひとりに嫌われるとチームの女性社員全員に嫌われる。常に女性社員に対しては優しすぎる対応をする上司の振る舞いが、Rさんにそんな想像をさせる。
冒頭のプライベートな話題への探りにしても、「女性はパートナーの転勤についていくだろう」「最悪、働かなくてもいいんだから」という無意識の思い込みが上司にはあったから、不要な心配が生まれたのだろうと思う。
本当は、トラブルの要因はなんだったのか、今後のために何に気をつけるべきか、など「火消し」よりもう一歩踏み込んだ指導をしてほしかった。それは、成長に繋がるチャンスだと思うし、そういうところくらい言ってよ、と思う。
願うのは、「だれが」で判断されない平等な扱われ方。「優しい」扱いは求めていないし、逆にそういう「優しさ」は誰かを傷つける棘がある。きっと、こっぴどく叱られていた後輩男子だって、なぜ自分だけ……とモヤモヤを抱えていたはずだ。
残業を褒めてくれたっていいのに
Rさんが働く会社は、週に2日、定時退社の日が決まっていて、その日に残業する場合は残業申請が必須だ。新型コロナウイルス流行以前は、残業したい当日夕方までに残業理由と残業希望時間を申請用紙に書き、上長のハンコをもらったうえで人事に提出、というルールがあったから、とにかく面倒だった。最近では申請フローもオンライン化して少しは”マシ”になったが、それでも定時退社デーに業務を調整できるわけではないのだが、無断で残業しようものなら夜22時以降や休日のパソコン起動は上長にチェックされ、正直やりづらい。
残業申請が続くようであれば、すぐに上長からは「大丈夫?」「ほかの人に仕事を振るよ」という声がかかり、ここぞとばかりに仕事を踏ん張りたいときも、「頑張りすぎなんじゃない?」と心配される。頑張ることに対して、褒めてくれたっていいのに。過労などのアラートを事前に察知できる安全な環境に恵まれているのは幸せなことだと思いつつ、「この時間しか働けない」というルールが、時に苦しく感じることがある。
「まだ自分はいいけど……」と彼女がこぼしたのは、ママ社員のこと。小さい子どものいる先輩のママ社員は、保育園のお迎えのため16時に帰宅し、食事や寝かしつけが一旦落ち着いた後、夜遅くから仕事を再開したり、休日にまとめてやったりしたいという人もいる。効率的に仕事ができる時間帯はそれぞれのライフステージや生き方、考え方によって異なるからこそ、就労時間は何時から何時までなど、一律のルールで縛ることに無理を感じている。
在宅マイノリティは、辛い。
新型コロナウイルス流行以降の働き方についていえば、リモートワークが多少は取り入れられるようになった。ただし、週2日までという上限付き。もうちょっと、フレキシブルにならないものだろうか。 社会人6年目になるRさんは、裁量労働制の職場ではあるものの、出勤・退勤時間は“なんとなく”全員が守らなければならないルール化しており、週3-4日は1時間程度かけて出社もしている。
完全に自由にしてしまうと、社員管理ができないからルールができたのだろうが、もうちょっと社員を信頼してくれてもいいのに、と思う。リモートワークが浸透しないと、チーム内のコミュニケーションも出社する人が前提となり、リモートで参加している人が会議で置いてきぼりになることもしばしば。情報も入ってこないし、疎外感が生まれてしまう。本当はリモートも含めて全員が納得できるような会議の進め方や、オンラインでのコミュニケーションだとしても活発に議論できる工夫が必要なはずだが。
「働く場所の自由化」がなかなか進まないのは、世代間ギャップもあるのかもしれないとRさんはいう。長年出社することが当たり前だった世代からすると、「家だと仕事がはかどらない」「家族に出社して欲しいと言われる」など、何かと不都合も多いのだろう。とはいえ、どの世代にとっても、社員ひとりひとりが窮屈ではない働き方を選び、尊重されるような環境が理想なのだと思う。
場数が踏めない焦り
2人目に紹介するのは、大学院卒、外資系企業で働くKさん(26歳)の場合だ。
社会人1年目の彼女は10名程度の部で唯一の20代。周りの社員は経験を積んだ人が多く、“若手”としての働く環境にはかなり配慮してもらっている。
配属されてすぐ、所属長からは「うちは仕事を選んでるから」と言われた。「面白くない仕事はさせない」「後輩が疲弊しないように」という上司の配慮のおかげで、働き始めて約1年経つが、忙しすぎると思ったことはまだ一度もない。ただ、社内でも違う部門にいる同期は残業時間が多く、明らかに労働時間が他人より少ない自分は経験を積めず大丈夫なのだろうか、一人前と思われていないのだろうかと、時々不安になる。
そういう部署長自身は抱えている仕事の量が多く、彼はそんな時決まって不機嫌になるのだが、それなら彼が抱えている仕事を少し私に振ってくれてもいいのにな〜と思ったりもする。もちろん難易度の高い仕事で1年目の私ではやりきれないのだろうということは分かりつつ……。自分は成長できてないんじゃないか、私だけ置いていかれるんじゃないか。 Kさんの悩める日々は続く。
最後に、紹介するのは制作会社で働く27歳の女性、Sさん。
彼女は会社で決められた残業時間を大幅にオーバーし、上司から、業務量を調整するよう言われている。どれくらいの仕事量を抱えているのか? どんな業務内容なのか? 案件ごとの個人のモチベーションはどうか? 細かく上司がヒアリングしてくれ、他に任せられる仕事や注力しなくてよい仕事は減らせるよう、親身に相談に乗ってくれる。無理やり業務を剥がすことはせずに、個人の意見も尊重してくれる環境は心の底から有難い。
残業を減らせと言われても……
ただ、部内ではなく、他部や社内外をまたいだ仕事が多いため、同じ部の周りの社員たちと自分を比較してどれくらい仕事が多いのかがわからない。残業時間にアラートが出ているのはどうやら自分だけのようだ。自分の仕事の効率が悪いだけなのだろうか? どうやって、周りの社員たちは仕事をしているのだろうか? リモートが浸透していて周囲の人の働き方が不透明なことが、よりSさんを不安にさせる。
残業を減らさないと上司が減給されるらしい、ということも聞き、なんとかして残業時間を減らさねばと思う一方、その減らし方がわからない。上司が気遣ってくれているのは分かるし、その気持ちはありがたいが、社内外の多くの関係者を巻き込んで仕事が進んでおり、抱えている仕事を放っぽり出すわけにもいかないし…。根本的な仕事のやり方や受け方を変えなくちゃいけないんじゃないか。効率的な仕事の回し方ってどんなだろう。どこまでが自分の仕事で、どこから他の人に任せて良い仕事なんだろう。そこまでの具体的なことまでは上司にさすがにいちいち聞けないし、リモートワークが中心の現在、先輩の働き方を横目で見てそれから学ぶこともできない。
Sさんも、会社のルールとして、残業時間を減らさなければいけない方針は十分に理解できる。自身も、正直いまの無茶な働き方をずっと続けたいとも、続けられるとも思っていない。ただ、どうやって減らすべきなのか。ルールだけが先に決まり、そこに対応する術がわからないと、どうにもできない。
冒頭のRさんの悩みは、上司の固定観念への反発であり、働き方改革に伴う会社の硬直的なルールによって働く場所や時間が柔軟に選択できないことへのモヤモヤだった。Kさんの場合は、若年社員への負担軽減という一般的な配慮から経験値が上がらない悩み。リモート環境の職場で働くSさんは、リモートゆえ自身の働き方を客観視できない悩みを訴えていた。
博報堂キャリジョ研は今年3月、「働き方に関する意識」について,働く20~30代女性150人に対してインターネット調査を実施した。働きやすさを守るための職場の制度やルールに対して、窮屈さやモヤモヤを感じている、少し感じていると回答した女性は合わせて53.3%という結果となった。
具体的な声としては「残業したいけど、定時で帰れ感がある」「有給が連続でとりづらい」「裁量労働制だが、暗黙の出勤時刻や退勤時刻がある」「テレワーク推奨の割にはテレワークを嫌がる人がいる」など、本来認められている制度が”なんとなく”の職場の空気感で実行できないモヤモヤが多くあがった。
また、「生理痛で倒れてしまったときに怒られた」「子どもが発熱したので早退したら、有給を使えなかった」「先輩が休んだ時に裏で色々言われてた」「妊娠が分かり産休をとることを告げた面談で、今年度はいい評価はできないと言われたこと」など、コントロールできないからだの不調や変化が許容されていない実情もみられた。
理想の働き方に関しては、現在の職場のルールに対する「モヤモヤ」の有無に関わらず、「時間単位で申請できる”有給病気休暇”がとれる」「自分のモチベーションや体調等に応じて勤務時間を申請できる」「一人一人の理想の働き方を共有し、それぞれが尊重される」がトップ3となった。
最も票を集めた「時間単位で申請できる有給病気休暇」に関しては、「Sick Leave」(シックリーブ制度)として予期せぬ体調不良による休暇が認められている国もあり、最近では国内の企業でも一部導入が進んでいる。
今回話を聞いた3名の女性も、それぞれが考える“柔軟さ”は異なり、思い描く理想の働き方は三者三様だ。従業員のそれぞれの希望すべてに企業が合わせることはもちろん不可能に近いと思う。だからこそ、制度で縛るのではなく、ひとりひとりが理想の働き方を”デザイン”できる柔軟な企業風土が今後はより一層求められていくだろう。