【連載#4:宮司愛海の“不器用”の楽しみ方】秋から夕方のニュースのキャスターになり、「伝えることが大好き」と実感する日々!

30代になり転機を迎えたフジテレビアナウンサーの宮司愛海さん(31)。自らを“不器用”と評する宮司さんが、仕事やプライベート、様々な葛藤について、ありのままの言葉で語ります。今回は10月3日から担当している平日夕方の報道番組「Live News イット!」でのニュースや視聴者との向き合い方について。お届けするのは毎月第4火曜日です。
【連載#3:宮司愛海の“不器用”の楽しみ方】報道でも生きる「負けず嫌い」 秋に開く“新たな扉”へ向け、ミクロとマクロの視点で!

不安な気持ちで迎えた“初日”

秋の番組改編があり、10月3日から平日は毎日、夕方から3時間超の報道番組「Live News イット!」(昼3時45分~夜7時)のメインキャスターを務めさせていただいています。前日の2日の日曜は夜までリハーサル。とはいえ、どの様なニュースをお伝えするかは当日にならないとわからないこともあり、番組の全体像はつかめぬまま……。リハーサル終了後は、「これで、大丈夫かな?」という不安な気持ちを抱えつつ、初の放送である3日を迎えました。

放送前日は、漠然とした不安はありましたが、緊張して眠れないということはなかったので、よかったです。ただ当日は、朝5時台に起きてPRも兼ねて朝から生放送に出ずっぱり。久しぶりに「めざましテレビ」にも出演し、続いて「めざまし8」「ポップUP!」にも……。
だから初日は「Live News イット!」だけに集中できず、バタバタしながら初の生放送に入りました。先輩でその日に一緒に出演する梅津弥英子アナウンサーからは、「慌てなくて大丈夫だから」と言われるほど私は混乱していて……。「次は何をやれば、えっ、えっ」という感じでした。

それでも、いざ始まってみれば「やるしかない」と自然と腹が括れ、最初の3時間の生放送はあっという間。終わった瞬間は、疲れというより全体像が摑めた感覚がありました。
ただ立ったり、座ったり、移動したりという番組中の動きがわからなくて、フロアディレクターのみなさんに「宮司さん、こっちです」と手を引っ張ってもらって、移動していました。

“昔できなかったのに、今は対応できる”

この番組は前任の先輩・加藤綾子さんの後任としてキャスターを務めることになりましたが、実は私は仕事を引き継いだ経験があまりないんです。「S-PARK」も「潜在能力テスト」も番組が始まると同時に担当しましたから。
加藤さんの柔らかい、優しいイメージがある番組。自分が入った時にどうなるんだろう、というのはずっと、考えてはいました。そもそも性格も異なるので、まったく同じような雰囲気にできるとは考えませんでした。それでも、加藤さんとスタッフの方がつくりあげてきたモノに対しての尊敬の念は持ちたいと思っていましたし、結果として私がスムーズに番組に入れたのは、加藤さんらの築いてきた歴史があったからこそ、と感じました。

担当するようになった10月は急激な円安や、刻々と変わるウクライナ情勢など、放送直前やオンエア中に内容が変わることが多かった。もちろんバタバタしましたが、必要以上に怖がったり、不安を感じたりはしなかったです。
これまでにスポーツなど様々な現場で仕事をしてきた中で、知らず知らずのうちに色んなことに対応できる筋肉が付いていたからでしょうか。

振り返れば、直前に担当していた15分のお昼のニュース「Live News days」も強度の高いトレーニングのようなものでした。決められた短い時間に感情を乗せず、時間の“尺”をコントロールして伝えることを、5カ月間行ってきたおかげで対応力が身に付いた。
この経験も含めて、“昔できなかったのに、今は対応できる”と思う場面に出会うことが増えたんですよね。突然のニュースの差し替えなどにも慌てず、ドンと構えられるようになりましたし、「ここさえ押さえておけば大丈夫」というポイントも自然とわかるように――。

想像力を働かせる重要性

「Live News イット!」のキャスター就任発表の際にもコメントしましたが、どんなニュースに対しても自分なりの視点を持っていたい。物事は単純ではなく、複合的なので、ただ共感すればいいわけでもなく、批判的な視点で見ればいいというわけでもない。私が大切にしていることを守りながら、視聴者の方の目線に立って、ニュースを伝えたり、取材したりしたい、ということが今、感じていることです。
新しくできた「直アタリ」というコーナーでは、視聴者の方が気になったことを現場に行って取材しています。先日はマイナンバーカードの普及について河野太郎デジタル相の会見に行きました。
そこでも、単に河野大臣に質問したり、映像的に必要な場面を撮ったりするだけではなく、「マイナンバーカードに保険証、免許証が一体化されたときに、みなさんが不安に感じることはなんだろう」という問題意識を持って臨みました。ニュースの当事者や受け手が、不安や不満に思っていることについて想像力を働かせることの重要性を現場取材に行くと改めて感じる日々ですね。

報道の取材現場や政治関係の会見の場では確かに、特殊なルールや暗黙の了解があって難しい部分もある。それでも基本的には、これまで自分が4年間、スポーツの現場で取材してきたノウハウをそのままいかすことができています。世の中の人が気になっているであろうことを、率直に聞いて取材したいと思っています。継続的に取材を続けている番記者やクラブ詰めの記者の役割や専門性は欠かせないものですが、初めて報道の現場に身を置いた私だからこそできることもあるのではないかと思っています。

「伝わるように伝える」のが目標

昼と夕方のニュースの違いもよく聞かれるのですが、きちんと伝えるのは同じ。ただ昼のニュースはシャープにストレートニュースとして読む一方で、夕方は様々な世代や職業の方がご覧になっているので、意識的にゆっくり読んだり、話題に合わせて表情や雰囲気を変えたり、語尾を短く丸めたり、声の高さを少し落としたり、上げたりしています。話題が幅広い夕方にそれぞれのニュースをどのように伝えればいいのかは、今も試行錯誤して工夫している段階。自分の技術的な向上もあって様々なことを試すことができるようになりました。

前任の加藤さんと比べると、私はシャープに見られるというのは自覚しています。ただそれは必ずしも悪いことではないので、私らしく、効果的により分かりやすく伝えることを目指しています。そんな自分を客観的に見ると、伝えることが大好きなんだなと改めて思いました。ものすごく、やりがいを感じる日々です。

それでも、色んな声が耳に入る。視聴者の方からのご意見もメールで毎日届きます。ただ「最初のうちは、様々なことを言われるもの」だと思っています。ずっと見て下さっていた人にとっては、キャスターが加藤さんから私になったことは、生活の一部が変わったようなもの。特に最初の1週間は、厳しいご意見に気持ちを持っていかれて、落ち込んで放送自体がうまくいかない、ということにならないように気をつけました。その後は、少しずつ私にとってプラスになる意見は、取り入れるようにしています。
例えば「読むのが速い」といった具体的なご指摘は傾聴しつつ、自分が慣れてくることによって改善するであろうことについてはあまり気にしない。「表情が硬い」といった、バタバタしているときなら致し方ないことについても、ある程度割り切っている部分もあります。

言い訳をするわけではないですが、仕事を一緒にするのが初めての人に囲まれて、経験のない番組を3時間の生放送を週5日している。当然、目指してはいつつも、現実的に最初から100%の出来というのは厳しい。私自身、これからの自分に期待している部分もあるので、今後を見ていただきたいですね。最終目標は“伝わるように伝える”ことです。

影響を受けたイチローさんの“言葉”

夕方の担当になって1日の過ごし方も変わりました。
週の前半の2・3日は疲れ果てて、夜9時ぐらいまで家のソファでボーッとする感じです。週5日間の生放送を3時間やるというのは、こういう感覚なのかと改めて思っています。
ずっと神経が起きている感じです。自分の放送が終わった夜も、各局のニュースは見ます。朝起きても即、ニュースをチェック。単に見ているだけではなく、「この話題を、自分がスタジオで扱うなら、こう話すな」と考えたり、ご一緒するコメンテーターの方が出ていれば、ご意見をしっかり聞いて、今後の放送にどう生かせるかを考えたりしています。今は気も張っているので体調は大丈夫ですが、徐々にオンとオフの切り替えができるようになればいいですね。

話は変わりますが、今回の担当替えを控え9月には有給を取って、ずっと行ってみたかったニューヨークに行ってきました。ヤンキースの試合も見ましたし、国内線に乗ってオハイオまで行って大谷翔平選手の試合も観戦しました。改めて「時々は、海外に行かないといけないな」と痛感しました。コロナ前は毎年必ず1回は海外旅行していましたし、外国から日本を眺めると発見もある。“俯瞰的”に見ることで、日本に対する感じ方が変わるという経験も、これまでしてきましたから。

スポーツの現場にいたことが役に立っていると話しましたが、キャスターとしての今後の目標にもトップ選手のある言葉の影響を受けています。それはイチローさんが引退会見で話した「一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、それは続けられないと僕は考えているので、地道に進むしかない」という一節。イチローさんと比べるのは、おこがましいですが、私もいきなり偉大なニュースキャスターの先達を目標にしようとは考えていません。

一日一日の放送に誠実に向き合う先に自分の将来の姿があると思っているので、毎日の仕事を、丁寧にしていきたいと考えています。

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次回は、11月29日火曜に公開の予定です。

【連載#3:宮司愛海の“不器用”の楽しみ方】報道でも生きる「負けず嫌い」 秋に開く“新たな扉”へ向け、ミクロとマクロの視点で!
1991年福岡市生まれ。早稲田大学文化構想学部を卒業し、2015年にフジテレビ入社。18年春から週末のスポーツニュース番組「S-PARK」を担当し、東京五輪ではメインキャスターを務めた。現在は月曜から金曜の「Live News イット!」や「タイプライターズ」などを担当。趣味は落語鑑賞やカラオケ。
ハイボールと阪神タイガースを愛するアラフォーおひとりさま。神戸で生まれ育ち、学生時代は高知、千葉、名古屋と国内を転々……。雑誌で週刊朝日とAERA、新聞では文化部と社会部などを経験し、現在telling,編集部。20年以上の1人暮らしを経て、そろそろ限界を感じています。
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。