山﨑ケイさん「誰一人傷つかない発信って難しい」 容姿いじりネタに思うこと

「ちょうどいいブス」が2018年末に炎上した、お笑いコンビ「相席スタート」の山﨑ケイさん。先月には『ちょうどいい結婚のカタチ』(ヨシモトブックス)を出版しました。芸人による“容姿いじり”が疑問視されるきっかけにもなった炎上騒動を、今改めてどのように考えているのでしょうか。“容姿いじりネタ”に対する社会の受け止め方に思うことは――。山﨑さんに聞きました。
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怒りをぶつける対象を探しているように思えた

――自身の“ちょうどいいブス”ハウツーをまとめたエッセイ『ちょうどいいブスのススメ』(主婦の友社)を2018年に発行した山﨑さん。ドラマ化をきっかけに「ちょうどいいブス」という言葉が炎上しました。振り返っていかがでしょう。

山﨑ケイさん: 言葉がキャッチーだったかもしれないけど、「ちょうどいいブスのススメ」って本当は、どんな風に生きて行けばいいか分からなくなっている人に「楽しくいられるために、こんな生き方もあるけどどうですか」と伝えたかったんですよね。
ある人たちには刺さったと信じてるけど、うまく伝えられなかった人もたくさんいました。

そもそも私、炎上する3年前から同じことをずっと言ってきてたんですよ。でも、出版やドラマ化で目立ったことをきっかけに火が付いて……あの時はめちゃくちゃに叩かれましたね。

ちょうど同じ時期に、医大が女子学生を意図的に減らしていた問題があって、そっちが盛り上がると私を叩いていた人たちは一気にいなくなりました。
その時は、怒りをぶつける対象を探しているように感じましたね。自分が幸せになる情報だけを選べばいいのになって、すごく思いましたね。

――Twitterというツールによって、批判や誹謗中傷などの意見が集まりやすくなっている部分もありますね。

山﨑: 炎上から学んだことは色々とありました。Twitterでは、絶対にエゴサーチをしないと決めたし、フォロワー以外からのリプは受け付けない設定にしました。さっきも言ったように、ネガティブな情報にわざわざ触れる必要はないと思っているので。

芸能人の炎上全般に言えることとして、自分から積極的にむかつきに行ってる人も多いように思います。何かに対して怒って、「自分が正義なんだ」と思うことって、気持ちがいいんですよね。正直、私の中にもそういう感情はめちゃくちゃある。でも、あの炎上で、自分が怒られる側になってみて、「イライラを探しにいくのはやめよう」と思うようになりました。

山﨑: 話は結婚に戻りますが例えば、仕事で疲れて家に帰ったときに夫が酔っ払ってソファで寝てるとなんだか腹が立つわけで、「どうせ洗濯もやってないんでしょ」とか余計な怒りまで湧いてきてしまう。事実としては私が帰ってきたことと、夫がソファで寝てるってことだけなのに、自分のイライラと他の不満を勝手にひもづけて怒りを倍増させているんですよね。でも、そんなこと考えたって仕方ないし疲れるだけだと気付きました。

お笑いのネタに関しても、「批判されてばかりだと、こちらもやりにくいですよ」って文句を言っていても仕方がないし、自分が楽しくなくなってしまう。叩いてくる人たちと戦ってみたこともありましたが、そもそも議論にならなかったり、まったく分かり合えなかったりするので。自分の精神衛生を保つために、必要に応じて情報をシャットアウトしています。

誰一人傷つかない発信って、とんでもなく難しい

――相席スタートでは「可愛い」とか「ぽっちゃりしてる」といった容姿に言及するネタもありますが、炎上を受けて気を付けるようになったことはありますか。

山﨑: 自分たちのネタがどんなふうに捉えられて、どんな反応が起きるかは、すごく考えるようになりました。

炎上した時、自分なりの反論ができると感じた意見も多かったけど、「相手の言うとおりだな」と思うものももちろんあって。そういう指摘をくれる人たちには、できる限り不快な思いをさせたくないと思いましたね。

その人たちに共通していたのは、決して感情的ではなく、理論的に「こういう理由で、できればこうしていただきたいです」と丁寧に伝えてきてくださって。一方で、「お前みたいなやつが女の価値を下げるんだ、馬鹿」みたいな言い方をされてしまうと、こちらも心を閉ざしたくなってしまう。冷静に言ってもらえると「なるほど、そういう風に思う人もいるのか」と思えるので、人に意見を言うときは冷静に伝えなきゃいけないんだっていう勉強にはなりました。

それに私は芸人になって14年経ちますが、「ちょうどいいブス」って言葉だけでやってきたわけじゃない。そこばかりに注目する人と戦おうとは思わないかな。

――「ちょうどいいブス」の炎上から、お笑い芸人による容姿いじりを疑問視する声があがったし、容姿ネタを封印すると表明した芸人もいました。

山﨑: そういう時代なので、仕方ないとしか言えないですね。「容姿いじり、そりゃダメに決まってるだろ」とは正直、私自身は思っていないのですが……。容姿いじりに配慮している方が評価されやすい社会になったのだろう、と。

昔は容姿ネタ全般がOKで、その次の時代は“自分で言うならOK”。今は“自分で言うのもだめ”という時代になった。「ちょうどいいブス」についても、「自分で言うのはいいと、あなたは思ってるかもしれませんが、その言葉で傷つく人がいます」って言われました。

もちろん誰かが怒ったり、傷ついたりするようなことは、なるべくしたくないと思っています。でも、私は半年間くらい妊活をしているのですが、誰かが妊娠したというネットニュースを見ると一瞬「ウッ」ってなる。「いやいや、おめでとうだよ」って思い直してるけど、もしもっと妊活の期間が長くなったら、もっと傷つくだろうな、と。妊娠のニュースと私の炎上は同じではないですが、誰一人として傷つかない、嫌な思いをしない情報発信って、とんでもなく難しいことなんじゃないかと思うんですよね。

窮屈な思いをする人が、逆転した

――美の基準も、生き方も、多様なかたちが肯定される時代になっているように思います。そうした風潮はどう捉えていますか。

山﨑: 例えば女性誌のモデルさんたちが痩せすぎているという問題があるじゃないですか。それを受けてブランドが、ぽっちゃりしたモデルを採用して、「ウチは美しさを体形では決めません」みたいな広告を見ると、「うーん、そういうことなのかな?」とは思いますよね。

スリムなモデルさんを見て「痩せたらこんなお洒落ができるんだ」って憧れの気持ちを抱く人だっているし、同性でも目の保養にする人もいる。しかもその割には、私くらいの体型でも着られる服って結構少ないんですよ。Mサイズまでしかない女性ブランドも多いです。「全然フリーサイズじゃないじゃん!」と試着室で何度思ったことか。
「多様性の社会に対応してます」 って発信してる企業を見ると、なんとなく気持ちが悪いような感じがしてしまいます。でも、それも時代だから仕方がないんでしょうね。そこに反論して戦うつもりもありませんし。

――「多様性疲れ」という言葉もありますが、あらゆる人が生きやすい世の中になることは大事なので、難しいですね。

山﨑: そういう社会の変化に救われた人もいれば、私みたいに窮屈に感じる人間もいる。多分、逆転したんでしょうね。今まで否定されて窮屈な思いをしてきた人たちが楽しく生きられるようになった一方で、自由にやってきた人たちが窮屈な思いをするようになったのかな、と。それは仕方ないことですよね。

芸人という仕事は、世の中の人の受け止め方を考えたり、変化する価値観に順応していったりしないとなりません。そういう世界に自分の意思でいるわけだから、今の風潮を理解して、「叩かれるならやらないようにしよう」とか「いやいや関係ない、突き進もう」って都度考える必要がある。“自分がやりたいこと”と“世の中に求められること”をうまく合わせていくしかないですね。

山﨑ケイさん「人として成熟した38歳というタイミングで結婚したのがよかった」 相席スタート・山崎ケイ「私が“ちょうどいいブス”を使っている理由」

●山﨑ケイさんのプロフィール

1982年、千葉県生まれ。NSC東京校13期生。2013年に相方の山添寛とコンビ「相席スタート」を結成。2016年M-1グランプリファイナリスト。ルミネtheよしもとなどで活動しているほか、「ザ・ラジオショー」(ニッポン放送)のラジオパートナーも務める。著書に『ちょうどいいブスのススメ』(2018年、主婦の友社)など。

●『ちょうどいい結婚のカタチ』

著者:山﨑ケイ
発行:ヨシモトブックス
価格:1,400円(税抜き)

1989年、東京生まれ。2013年に入社後、記者・紙面編集者・telling,編集部を経て2022年4月から看護学生。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理、銭湯。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。