「わかり合うための1.5歩の勇気」中山咲月さんが考える、生きやすい世の中の作り方

トランスジェンダーでありアセクシャル(無性愛者)であることを告白した、俳優の中山咲月さん。子どもの頃から、周囲の空気を読みすぎてしまい、自分自身の気持ちの変化に気づくことができなかったと言います。誰もが生きやすい世の中に変えていくために、中山咲月さんが思うことを聞きました。

記憶から消し去ったいじめの経験

子どもの頃は、自分自身のセクシャリティに気づいていなかったので、特に違和感なく過ごしていました。もしかすると、同調圧力や暗黙のルールみたいなものに抗えるわけないと思っていたから、すべて諦めていたのかもしれません。

小学生6年生ぐらいの頃、いじめられたことがあります。小学生だったので、相手もいじめた理由は特にないと思うんです。でも、本当に何も思い出せないぐらい、自分の中でつらかった出来事。いじめられたという記憶はあるけれど、どういう内容だったかも思い出せないほど、記憶から消し去られてしまっています。

ただ覚えているのは、いじめられた時に、自分はもっと大人にならないといけないなと思ったということ。それ以来、人を客観的に見るようになりました。周りの子どもより先に大人になってしまい、甘えることが一切できなくなりました。11歳ぐらいの子どもが、もう人に甘えないという判断をしてしまったのは、考えるだけでもつらいことですよね。

これまでの自分は、どんな時もイエスマン。世の中に漂い、何となく存在するルールにきっちり従って、周りに迷惑をかけないように生きていました。空気を読まなくてもいいところまで、読んでいましたね。周りが欲しがっている答えに気づいてしまう人間だったので、自分自身の気持ちや変化に気づくのが遅れてしまった。

自分の中にある性別の違和感みたいなものに気づいた時も、もし自分がそれを公表したら周りに迷惑がかかってしまうと思っていました。きっとよくない感情を持つ人もいるだろうし、ジェンダーレスでいたほうが扱いやすいかもしれない。世間が求めているイメージでいなければいけないと無意識に思っていました。

 

性別はグラデーション。人それぞれでいい

以前から「ジェンダーレス」と言われることが多いのですが、自分で「ジェンダーレスだ」と言ったことは一度もありません。カテゴリーとして世間的に分かりやすいので、そう呼ばれているんだろうとは理解しています。でも、性別がない人はいないですよね。心と体の性別が違う人はいるけれど、誰でも身体の性別はあります。性別は、男性、女性などの点ではなく、グラデーションになっていると思います。男性と女性の間で揺れ動いていたり、男性寄りだったり、女性寄りだったり、人それぞれでいいのではないでしょうか。

LGBTQ+について、みんなが理解しようと声をあげ始めたのは、つい最近の話。でも、正直、トランスジェンダーやアセクシャルについて知っている人はまだ少ないと思います。自分の中にないものは、やっぱり怖いと感じることがあると思うんです。自分も周りからすごく距離を置かれてしまったり、傷つけまいと腫れ物に触れるように扱われてしまったりする。そうなると、お互いに勇気を持って一歩踏み出すのでは足りないと感じます。当事者と当事者ではない人の関係性は変わっていきません。だから、1歩ではなく「1.5歩」、お互いが歩み寄らないといけない。

今回、こうして自分のセクシャリティを公表できたので、これからは自分がもっと活躍して、存在を知ってもらうことが大事だなと思っています。難しいから触れないのではなく、こういう人もいるんだと、ただ知ってもらえるだけでいいのです。

アセクシャルという、恋愛のない世界に生きて

アセクシャルについては、恋愛のない世界を想像するのは難しいと言われます。自分は、恋愛自体もグラデーションだと思っていて、すごく恋愛体質の人、まったくしない人、そのグラデーションの中にいろいろな人がいます。

自分は生まれてからずっと恋愛のない世界を生きています。人と会って話をする時に、女性にはかわいいとか、男性にはカッコいいなど、性別で分けて相手のことを認識することができないのです。女性らしいよさ、男性らしいよさがわからないので、恋愛には発展しません。異性だと意識することがないので、それを感じられる人はうらやましいなとも思います。そう見える世界も見てみたかったです。

人間を人としてのみ見られるので、男女関係なく誰とでも話ができるし、恋愛によって生まれる壁もありません。自分にはいろいろな趣味があるし、好きなものもたくさんあるので、とっつきにくいと思われるかもしれないけれど、恋愛以外のたくさんの話ができます。だから、そんなに恐れずに気軽に話してもらえたらいいなと思います。

高校は女子校に通っていたのですが、校内に同世代の異性がいないので、“恋愛”に直面するタイミングがすごく少なくて、むしろ自分は生きやすい環境でした。独特な世界の中で自由になれて、息ができるようになったんです。

性別は個性ではなく、特性

自分にとって性別は個性ではなく、特性だと思っています。心も身体も女性である人が特別ではないし、心と身体の性別が一致してない人間が特別でもありません。トランスジェンダーを公表したことによって、しばらくは「トランスジェンダーの中山咲月」と認識されると思うのですが、自分にはもっとたくさんの個性があります。将来的には性別ではなく、もっと違う部分をフィーチャーしてもらえたらいいなと思っています。ジェンダーによって、本来持っている個性にフタをしたくないのです。

これから俳優やモデルとして活動していく上で、普通の男性として、いろいろなことにチャレンジしたいです。音楽もやってみたいし、アニメや二次元もすごく好きなので、声優の仕事もしてみたい。ただ、どうしても身体的なハンデはあるので、そこを上回る自分なりの強みを作っていかなければいけないですね。

歩み寄ってくれるなら、少しぐらい傷ついてもいい

よく、突っ込んだ質問をして傷つけてしまうかもしれないと言ってくださる方がいます。でも自分はむしろその気持ちがうれしくて、あたたかい感情として伝わってきます。でも、当事者の自分としては、少しぐらい傷つけてもいいから、歩み寄ってくれるほうがうれしいなと思っています。その結果、傷つけたら謝ればいいし、うれしいことにはありがとうと言う、どんな関係でもこれに尽きるのではないでしょうか。

だから、わからないことはもっと聞いてほしいし、こちらも傷ついたらその場で伝えなければいけない。自分はこれまで、その場で「これは嫌です」と言えなかったことを後悔しています。そのひと言が言えれば、もっと理解度も変わっていたと思う。お互いにとって、生きやすい世の中を作っていくには、勇気が必要。思っているもう少し先、そのための「1.5歩」が大切だなと思っています。

■中山咲月(なかやま・さつき)さんのプロフィール
1998年917日生まれ、東京都出身。モデル・俳優。13歳でモデルデビュー、雑誌や広告で活躍。俳優として初出演した「中学聖日記」のジェンダーレスな役が話題に。2020年には「仮面ライダー ゼロワン」亡役に抜擢。2021年、日本の結婚観に一石を投じたオンライン演劇「スーパーフラットライフ」に出演した。自ら手がけるブランド「Xspada」も人気。

『無性愛』

著者:中山咲月
発行:ワニブックス
価格:3,080円(税込)

「男性として生きると決めた」中山咲月さんがトランスジェンダーでアセクシャルであることを公表した理由
telling, 編集長。女性誌編集、WEBディレクター、PR、フリーランス編集・ライターを経て、2020年3月より現職。年間70回以上コンサートに通うクラオタ。国内外のコレクションをチェックするのも好き。美容に命とお金をかけている。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。