川井姉妹、金への二人三脚

ウサギの梨紗子とカメの友香子 二人三脚でつかみ取った金メダル2つ

 試合終了直後まで緊張感が漂っていた。だから、ブザーが鳴っても、東京オリンピック(五輪)レスリング女子57キロ級の川井梨紗子の喜びは控えめだった。

 「最後の1秒まで絶対に相手から目をそらさないと決めていた」

 梨紗子は2016年リオデジャネイロ五輪63キロ級金に続き、頂点に立つとともに、62キロ級で前日に初優勝した妹、友香子と「姉妹で金」の夢を成就させた。

 姉妹での五輪メダル獲得は04年アテネ、08年北京五輪で連続銀、金の伊調千春・馨姉妹以来で、同時金は初めて。

 父は元学生王者の孝人さん(53)、母は世界選手権出場経験がある初江さん(51)のレスリング一家。梨紗子は長女で、三つ下の次女が友香子。ともに小学2年から競技を始めた。

 何にでも興味を持ち率先して動く梨紗子と、内向的で人見知りの友香子。対照的な2人でも、負けず嫌いなところは一緒だった。スパーリングをすると本気になり、けんかになってしまうから、やらなくなった。

 梨紗子は抜群の組み手さばきでリオ五輪以降、世界一であり続ける。そんなウサギの姉に比べ、「鈍くさくて特徴がない」と自己評価する妹の歩みはカメのよう。梨紗子は辛抱強く妹の成長を待った。

 リミット体重の62キロに満たない友香子に「食べなよ」と自分のおかずを分けた。出稽古のために借りた東京の部屋では、自らパスタなどをつくって友香子の体力アップに腐心した。

 妹と金メダル。その思いが、今大会の梨紗子の原動力だった。梨紗子に支えられた友香子はコツコツと努力し、18年秋の世界選手権で2位に入り、五輪を現実的な目標ととらえ始めた。

 だが、妹が姉を頼ったのと同じように、この日は姉も妹から勇気をもらった。梨紗子はかつて友香子を「頑張らなきゃと思わせてくれる、お守り的な存在」と言っていたが、決勝戦前に「2人で笑って終わろう」と友香子に言われ、逆に引っ張られた。

 迎えた決勝は手堅く加点し、相手のタックルも巧みに切って無失点。女王の貫禄をみせた。

 「どちらか片方が負けてもできない。自分が頑張るだけでも達成できない目標を掲げてやってきた。楽ではなかったけど、それが報われるだけの努力をしたから、今日を迎えられたのかな」と梨紗子は表情を緩めた。ウサギとカメが二人三脚で、二つの金メダルをつかんだ。

(朝日新聞社)

朝日新聞デジタル2021年08月05日掲載

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