Beyond Gender#6

映画祭という“場”で考える「多様性やジェンダー平等」~カンヌ国際映画祭リポート【後編】

映画祭は映画を介して人が出会う場でもあります。先日閉幕したフランスのカンヌ国際映画祭で開かれた様々なイベントを、映画業界の多様性やジェンダー平等を研究中の伊藤恵里奈記者が、現地で取材しました。

グッチやサンローランといった著名ブランドを有するケリング。カンヌのオフィシャルパートナーでもあるケリングは2015年から「ウーマン・イン・モーション」という取り組みを始めました。目的は依然として、男女間の不平等が際立つ芸術や文化の分野で活動する女性たちに光を当てること――。毎年開かれる公式イベントでは、映画業界で活躍する女性が多様性やジェンダー平等の重要性について語っており、今年も華やかなゲストが登壇しました。

リゾート地であるカンヌには映画祭の期間中、世界各国から俳優やセレブらが集う

女性の映画製作者は「いないわけではない」

14日は、マーベルの大作映画から、ポン・ジュノ監督らの作品まで、実に様々な役で出演のティルダ・スウィントン。「私は人生で一度も役を選んだことがない」と言い、「私は自他共に認める映画オタク。他の映画オタクと一緒に仕事をするのが好き」とも語りました。

超然とした存在感から、魔術師や女王といった浮世離れした役やジェンダーの境界を軽々と越えるような役が印象的なティルダは、今年のカンヌではコンペティション部門の出品映画だけでも2作に出演。ティモシー・シャラメやベニチオ・デル・トロ、レア・セドゥなど豪華キャストで話題をさらったウェス・アンダーソン監督の「フレンチ・ディスパッチ」ではジャーナリスト役を、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の「メモリア」では、主演のスコットランド人女性を演じました。
「アピチャッポン監督の作品を崇拝してきた」というティルダ。自身がカンヌのコンペ部門の審査員だった2004年、アピチャッポン作品に賞を授与できた喜びを振り返り、「私たちは友人になり、お互いに好きだと分かり、一緒に映画を作ろうという話になりました」。

少ないとされる女性映画人については、「必ずしも監督ではないかもしれませんが、女性の『映画製作者』がいないわけではない。脚本、照明、衣装、監修などで女性は映画に参加しています。その全員が映画製作者なのです」と一家言持ってる彼女らしい見解を述べていました。一方、業界内で問題になっている男女の賃金格差に対しては「私は女性だからといって金銭的に差別されたことはない。周りに恵まれた」と振り返りつつ、「同一賃金は、市民の自由の基盤であり、すべての分野で必要」と強調しました。

個性派俳優ティルダ・スウィントンは、「メモリア」の上映後、監督のアピチャッポン・ウィーラセタクン(右)と抱擁を交わした

クロエ・ジャオ監督「ノマドランド」の“普遍性”

16日に登壇したのは、「ビール・ストリートの恋人たち」で米アカデミー賞助演女優賞、初の長編監督作の「あの夜、マイアミで」ではアカデミー賞3部門にノミネートされた米国出身のレジーナ・キングでした。監督業に興味のある若者に対して「恐怖心に押しつぶされないように」と助言したレジーナは、「質問をたくさんして、答えに耳を傾けること。適切な情報を得られなければ、さらに苦しい状況に立たされることになる」と続けました。そして「完璧に準備ができているということは絶対にない。戦いの場を賢く選びましょう。細かいことに気を取られがちですが、ゴールにたどり着くのに本当に必要な課題だけに取り組んでください」とアドバイス。

今年は、中国出身のクロエ・ジャオ監督の「ノマドランド」が、米アカデミー賞やゴールデングローブ賞などで主要な賞を受けました。「同じ女性、有色人種の監督としてどう思うか?」という質問に対して「とても興奮しました。白人男性ではない私たちは、人種や文化に特化した物語を手がけることが多いのですが、クロエの『ノマドランド』は本当に普遍的な人間の物語を描いていた。どんな肌色であろうと、どの言語を使おうと、ほとんどの人が『ノマドランド』を理解できるはず。その物語を手がけた監督が白人ではなかったのは、私にとっても特別でした」とレジーナ。

監督としての次回作は、米ニューヨーク・ハーレムの黒人一家とモンスターとの闘いを描いたコミック「Bitter Root」が原作の大作です。レジーナは「男性っぽい物語をやってみたいと思っていたので、エキサイティングな気持ち」と明かしています。

カンヌのスポンサーであるケリングが主催する「ウーマン・イン・モーション」で語る俳優・監督のレジーナ・キング

レジーナ・キングが感じる時代の変化

ハリウッドの多様性やジェンダー平等の必要について公言してきたレジーナ。「10年前、5年前と比べて、数字、割合、統計を見ると、(女性を取り巻く環境は)確かに改善されている」としつつも、「エミー賞のノミネートで、女性の比率が昨年よりも下がったこどを考えると、まだまだ道のりは長い」との指摘もしていました。

一方で未来への希望も口に・・・・・・。「今の子どもたちは、『女の子らしく? 私の方があなたより上手にできるけど、それが何?』と思っています。私は今の時代の女の子たちがこういった勇気と気概を持てるように、時代を変える手助けをした世代の一員であることを誇りに思っています」と語りました。レジーナが子供の頃は「女の子らしく」といった言葉をよく耳にしたそうですから明らかに時代は変わりつつあります。

映画祭期間中、レバノンの子どもたちへの支援を呼びかける「Better World Fund」によるファッションショー付きのディナーショーが開かれた

多様性やジェンダー平等”を映画を通して考える!

期間中に私が取材したイベントで印象に残っているのは、エンターテインメントや文化の力で世の中をよくすることを目指す慈善団体「Better World Fund」によるディナー会。アフリカの途上国の女性たちや、経済困窮に陥ったレバノンの子どもたちを支援する目的で開かれました。
夜空の下、カンヌの浜辺で開かれたディナーとともに始まったのは、マダガスカルの女性を支援するためのブランドのファッションショー。鮮やかな色をまとった衣装のモデルが、豪華に着飾ったセレブが囲むテーブルの間を行き交いました。

カンヌでは、映画を通じて世界が抱える様々な課題について考えるということが、ごく自然に行われていました。俳優が政治やジェンダー平等の話をすることがタブー視されがちな日本に比べ、欧米の映画界では自分の意見をはっきり言うことに価値が置かれています。
映画を通じて、多様性やジェンダー平等について考え、取り組む機会が広がっていることを、カンヌでより深く感じられました。

#MeToo後の映画界、その変化とは?~カンヌ国際映画祭リポート【前編】
朝日新聞記者。#MeToo運動の最中に、各国の映画祭を取材し、映画業界のジェンダー問題への関心を高める。2021年4月から休職して、ロサンゼルス滞在中。フルブライトジャーナリスト。
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