篠原ゆき子さん「出産は、キャリアを中断したくなくて悩みました」

田舎で母の介護をしながら暮らす40歳独身女性を描いた映画「女たち」が6月1日、TOHOシネマズシャンテなどで全国公開されます。主人公・美咲を演じるのは、テレビドラマ「相棒season19」(テレ朝系)に警察官役でレギュラー出演している女優の篠原ゆき子さん。映画の見どころや、女性として悩んだことなどを聞きました。

急遽加わったコロナの要素。予想とは違う作品に

――美咲は、罵詈雑言を浴びせてくる母と、田舎で二人暮らし。恋人の裏切りや親友の突然の死など、ショックな出来事が続きます。脚本は、内田伸輝監督と対話を重ねてつくったそうですね。

篠原ゆき子さん: お声をかけていただいたのは2019年秋。北野武さんの監督デビュー作をプロデュースされた奥山和由さんが、「篠原主演で撮ろう」と言ってくださったんです。ご縁は、奥山さんがプロデュースされた映画「銃2020」(20年)への出演でした。内田監督とは9年前の映画「おだやかな日常」で、ご一緒させていただいたので、すでに信頼関係ができていて。監督と、撮影の斎藤文さんとファミレスに集まったり、Zoomで顔を合わせたりして、「どんな話にするのか?」というところから始まりました。

――コロナの影響で失業した人を取り上げた番組や安倍政権が配布したマスクも登場しました。できあがったストーリーをどのように受け止めていますか?

篠原: 客観的に捉えるのが難しいですね。脚本づくりの途中でコロナの感染拡大が始まったので急遽、映画にもコロナの要素を織り交ぜることになりました。イメージが不完全なまま撮影がスタート。感染対策をしながら「今なら撮れるかも」という時に撮って……。クランクインできるかどうかも分からない状態。本当に、運命に導かれたというか、予想していたものとは全然違う作品になりました。どのように受け取っていただけるのか、まだ想像ができません。

――なぜ、コロナ禍の設定にしたのですか。

篠原: マスクをしているシーンが多くて、見てるだけで苦しいですよね。
内田監督はドキュメンタリーっぽい作品を撮られる方だし、奥山さんは偶然を運命に変えるような方。この映画をつくっているタイミングでコロナ禍に見舞われたことは、何か意味があるんじゃないか、無視して作るよりも強みに変えたほうがいい、と考えられたのかもしれません。撮り方も、役者の本来の姿がにじみ出るというか、暴露されちゃうような感じ。だから現実世界にある閉塞感や不安を作品に織り交ぜたほうが、噓をつかずに演じられるんじゃないか、と。
昨年は、中止せざるを得なくなった撮影や企画があって、私自身も悔しい思いをしました。誰かと一緒にお酒を飲むのが好きだから、それができないフラストレーションも。この作品にコロナの要素が入り、感情を表現できたことはうれしかったですね。

産後3カ月で仕事に復帰「穴をあけたくなかった」

――美咲は「仕事も続かない、結婚もできない、だめな娘」と、母にネチネチ言われるシーンも。篠原さんとの共通点は?

篠原: 「母に認められたい、褒めてもらいたい」って思ったり、「なんでできないの?」ってイラついたりするところは、すごく共感できました。
ただ、私は33歳で結婚し、35歳で娘を出産。美咲と環境が違います。考えを押しつけずに自由にさせてくれる母だったので、独身でいるのを責められることもありませんでしたね。
ただ、もともと実家に住んでいたし、結婚するのが早いほうではなかったので、「いつまでもこの家にいないでよ」とは言われましたけどね(笑)。

――仕事をしながら、結婚や出産などの決断をするのは大変ではなかったですか。

篠原: 妊娠・出産のタイミングについては、かなり悩みました。妊婦になったら、一時的に仕事を休まなきゃならないじゃないですか。その時やりたい仕事が来て、できなかったらすごく悔しい。「世間から忘れられてしまうかもしれない」という不安もあって……「代わりに誰かに産んでほしい」と思ったほど。女優としてのキャリアを中断したくなかったですね。
周りを見ていても、バリバリ働いている女性は、出産のタイミングで悩んでいる人が多いように感じます。

――どのように折り合いをつけたのですか。

篠原: 私の場合は、年齢的に「産みたいのなら早いほうがいい」と考えたことが大きいですね。仕事に穴を開けたくなかったので、産後3カ月くらいで復帰して。身体的に大変な時もありました。最近は子どもが幼稚園に通い始めて、一時期よりは落ち着いています。
働いてる女性がもっと出産しやすい社会になったらいいのに、と感じましたね。

深く知らない者同士だからこそ、救いがある

――「女たち」でも、女性ならではの悩みが描かれていました。

篠原: 女として産まれた者が持つ“共通する痛み”みたいなものってあるじゃないですか。ライフプランと年齢との兼ね合いであったり、映画にも出てくるような、男性から向けられる性的な目線であったり。女たちって言わなくてもわかる“無言のつながり”がある。だから、あえて人の痛みをほじくらないし、無理やり心をさらけ出したりもしない。女が抱いている痛みや踏ん張りを、この映画はすごく表しています。
個人的なことですが、親友に「ゆきはあんまり喋らないよね」って言われるくらい私、悩んでいることを言えないんです。一方で、何でも話せるその親友はすごく強い。人に自分の弱みを出せるのって、自分自身を助けてあげる最後の手段だと思うから。この作品に出演して、“弱みを出せる強さ”が大切だということを感じましたね。

――最後に映画の見どころを教えてください。

篠原: 香織がいなくなった後、どん底の中にいる美咲は、ヘルパーさんや香織の妹といった“他人”に助けてもらいます。深く知らない者同士だからこそ、パワーというか、ちょっとした親切心が大きな救いになる。そこには「友情」とは違う、何かがあるんですよね。女の人って結局優しいから。それがとっても素敵な作品です。

●篠原ゆき子さんのプロフィール
神奈川県生まれ。2005年、「中学生日記」(NHK)で女優デビュー。映画「共喰い」(13年)では、第 28回高崎映画祭最優秀新進女優賞。代表作は映画「湯を沸かすほどの熱い愛」(16年)や「浅田家!」(20年)、ドラマ「相棒season19」(20年、テレ朝系)など。映画「おだやかな日常」(12年)や「ミセス・ノイズィ」(20年)では主演を務めた。

1989年、東京生まれ。2013年に入社後、記者・紙面編集者・telling,編集部を経て2022年4月から看護学生。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理、銭湯。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。