みたらし加奈さんに聞く 「わきまえてきた」私たち 痛みを癒やし、前に進むためには 

社会の変化に応じて、ジェンダーや働き方などについて、これまでの考え方や価値観のアップデートが必要になる機会が増えてきました。臨床心理士で、SNSでメンタルヘルスやジェンダー課題について発信しているみたらし加奈さんは、「アップデートするときの痛みを、癒やす必要もある」と語ります。詳しくお話を聞きました。

過去を否定したくなる痛み

――今年2月、森喜朗氏による女性蔑視発言をきっかけに、「#わきまえない女」というハッシュタグをつけた抗議の輪が広がりました。同時に、会議の場で発言を控えるなど「わきまえてきた」過去を省みる女性たちもいました。そんなとき、YouTubeでみたらしさんがジェンダーの考え方を「アップデートするときの痛み」について言及したのが印象的でした。どんな気持ちで発言したのですか。

《私もわきまえてきてしまった女性として生きていたことがあった。わきまえながら年配の男性が話しているすきを見て、(自分が)話していた空気感が、ニュースを見てリアルに想起された。わきまえてきてしまった女性だったからこそ、ジェンダー(の考え方)をアップデートするとき、ものすごい痛みがともなった。じわじわと過去の自分を否定したくなるという痛みをともなった》

2021年2月6日配信「Don’t Be Silent 『#わきまえない女たち』」(Choose Life Project)より、みたらし加奈さんの発言抜粋

みたらし加奈さん(以下みたらし): ジェンダーに関する考え方は、子どもの頃から目にするテレビや広告、周囲の大人が何げなく口にしてきたことによって、少しずつ蓄積され、できあがります。考え方を変えるということは、過去を否定しなければいけないことでもある。そこにはやはり大きな痛みがあると思います。ずっとかけていた、薄く色のついたサングラスを、急に外すような感覚です。外の光のまぶしさに、目が痛くなりますね。

私自身もサングラスを外した時のような痛みがありました。今も時々感じます。でも、もうサングラスをかけていた頃には戻れない。だからこそ、まずは感じている痛みを癒やす必要があると思います。

――みたらしさん自身も、「わきまえてきてしまった女性だった」とも言っていました。

みたらし: わきまえる構造の上に、自ら乗っていた部分があります。学生の頃は男性の友人が多く、「ホモソーシャル」(男同士の絆に重きを置くこと)の中に属することで自分を守っていた側面がありました。学生時代には、容姿で女の子を評価するような会話に、加わったことさえあります。

それが数年前、パートナーとの出会いや「フェミニズム」について学んだことがきっかけで、「考え方を変えなければ、もっと生きづらくなる」と思ったんです。

ジェンダーロールにしばられていた

――どうして「考え方を変えなければ」と思ったのですか。

みたらし: いまもお付き合いをしている女性のパートナーに出会うまで、私は自分自身のことを異性愛者だと思い込んでいました。それまでは、男性としかお付き合いをしたことがなかったんです。

女性とお付き合いを始めて、「女性同士のカップルの場合は、料理や家事はどちらがやるんだろう」と考えている自分に、ふと気づいたんです。家事をするなど「女性的な」役割を果たすのは、どちらかと。そこで自分が思っていた以上に、ジェンダーロール(社会生活において、 性別によって固定的な役割を期待されること)にしばられていたと感じました。

本来は、パートナーが同性でも異性でも、時間がある人や得意な人が家事や料理をすればいいですよね。「そもそもこんなことを考えるの、おかしくない?」と思って、2人でそれぞれ得意なことや不得意なこと、可能なことや不可能なことを話し合いました。同時に、フェミニズムについても学び、男女の構造的な格差について勉強しました。

――ジェンダーだけでなく、家族のかたちや働き方に至るまで様々な面で、これまでの考え方や価値観のアップデートに、多くの人が向き合っていると感じます。痛みを感じたとき、どんな気持ちで臨めばいいですか。

みたらし: 少し抽象的な話になりますが、「過去の自分は未来では変えられる」と信じることも必要だと思います。例えば、過去に友達に対して「早く結婚しなよ」と言ってしまったことを省みているとします。仮にその友達と関係が続いているなら「昔こういうこと言ってしまって…」と謝ることだってできます。今現在、フェミニズムを否定している人の中には「過去の自分の行いを責められている気がする」と思う人も多いと思うのです。

言ってしまったこと、やってしまったことを省みることも大切ですが、あまりにそこに注目し過ぎると、余計に痛みを感じ、前に進めなくなることもあります。

そうではなく、価値観をアップデートすることによって、自分の未来が広がることに意識を向けてほしいです。もちろん、それによって誰かを傷つけてしまったのであれば、反省し、謝ることができそうな関係なら、謝ってみたり話し合ってみたりする。そして、新しい価値観に気づいた後、「自分はこれからどう生きていきたいか」選択し続けることを大切にしてほしいです。

みたらし加奈さん=本人提供

同性婚が認められる未来に向けて

――先ほどのお話にも出た、パートナーとのYouTube「わがしChannel」では、どんなことを大事にしていますか。

みたらし: 最初は2人の「思い出作り」のために発信を始めました。でも、いまは同性カップルが社会の中で少数派として認識されてしまうため、何かを発信しているだけで「社会的意義」が見いだされてしまうこともあります。私たちはどこにでもいるカップルですが、誰かのロールモデルになったり、同性婚のことを考えるきっかけになったりしたら、いいなと思います。思い出作りと同時に、社会的意義がともなう間は、社会活動としても発信していきたいです。

ありがたいことに、視聴者には子育て世代の女性が多くいます。「子どもと見ています」という反応をいただくことは少なくありません。いつか子どもたちが同性の人を好きになったとき、「異性だけが恋愛の対象・選択肢じゃない」と、私たちのことを思い出してくれたらうれしいです。

――今年3月には、同性どうしの結婚を認めない民法などの規定は「法の下の平等」を定めた憲法14条に違反するとの判決を札幌地裁が出しました。同性婚を取り巻く社会の変化をどのように見ていますか。

みたらし: 様々な問題について言えることですが、何か画期的な動きが起きて世論が盛り上がると、同時にバックラッシュ(反動)も起きがちです。同性婚についても様々な反応があり、「これからも変わらないのではないか」と落胆している方もいるかもしれません。

でも、小さな一歩を確実に踏んでいます。必ず変わると思う。その未来だけを見ています。

いつか自分に子どもができ、その子が同性婚のことを調べる日が来るかもしれません。その日までに同性婚が認められていて、「ママ、どうして同性婚が認められるようになったの?」と聞かれたとします。そのときに、私が携わっていたことや頑張れたことを少しでも紹介できたらうれしい――。そんな日を目指しています。

みたらし加奈さんのプロフィール 1993年、東京都生まれ。臨床心理士。SNSを通して、精神疾患の認知を広める活動を行う。大学院卒業後、総合病院の精神科にて勤務。ハワイへの留学を経て、現在は一般社団法人国際心理支援協会に所属しながらメディアなどにも出演する。女性のパートナーとともにYouTubeチャンネル「わがしChannel」も配信中。性被害や性的合意についての情報やメッセージを伝えるためのメディア「mimosas(ミモザ)」の理事も務めている。

記者・編集者。鳥取、神戸、大阪、東京で記事を書いてきました。ジェンダーや働き方・キャリアを取材しています。